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第12話 外だから、美味しい
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第12話 外だから、美味しい
アルフェッタは、昨日の食事を思い返しながら、庭を歩いていた。
魚の焼ける音。
火の揺らぎ。
風に混じる香り。
(……やっぱり、美味しかったですわね)
だが、それは単に料理長の腕が良かったから――だけではない。
そう考えたところで、足が止まった。
(あら)
(私、理由をちゃんと考えていませんでしたわ)
庭の中央にある低いテーブルに腰を下ろし、アルフェッタは指先で木目をなぞる。
屋内で食べる料理。
屋外で食べる料理。
材料は同じ。
調理人も同じ。
調味も、技術も、変わらない。
それなのに、味の印象は違った。
(雰囲気、ですの?)
それもある。
だが、それだけでは説明がつかない。
アルフェッタは、昨日料理長が言っていた言葉を思い出す。
『屋内では、ここまで火が呼吸しません』
(火……ですわね)
屋内では、火は制御される。
一定の温度、一定の環境。
それは安定していて、失敗が少ない。
けれど、外の火は違う。
風に揺れ、
空気を吸い、
強くなったり、弱くなったりする。
(生きていますのね)
だから、同じ食材でも、
同じ焼き方でも、
結果が少しずつ変わる。
その「揺らぎ」が、味に奥行きを与える。
アルフェッタは立ち上がり、庭を見渡した。
木々の影。
空の色。
遠くの川の音。
(これも、料理の一部)
屋内で食べる料理は、料理だけで完結する。
外で食べる料理は、環境と一体になる。
そこに、優劣はない。
ただ、種類が違うだけ。
「……外なのに美味しい、ではありませんわね」
ぽつりと呟く。
「外だから、美味しい」
その言葉を、あらためて口の中で転がす。
侍女が、お茶を運んできた。
「アルフェッタ様、こちらを」
「ありがとう」
カップを受け取り、香りを確かめる。
同じ茶葉。
同じ温度。
それでも、庭で飲むと印象が変わる。
(……これも同じですわ)
食事も、飲み物も、
「何を」より「どこで」が影響する。
前世では、効率を優先していた。
最短距離で、最適解で。
場所は、ただの背景だった。
(でも今は)
(場所も、味のうち)
アルフェッタは、昨日の光景を思い出す。
料理長が火を見つめ、
風の向きを確かめ、
焼き加減を微調整していた姿。
(外で料理するというのは)
(屋内の技術を、捨てることではありませんのね)
むしろ逆だ。
基礎があるからこそ、
揺らぎに対応できる。
プロであることが、外で生きる。
「……なるほど」
小さく頷く。
これは、料理の話だけではない。
(生き方も、同じですわ)
安定した環境。
決められた役割。
整えられた人生。
それは、失敗が少ない。
でも――
外に出れば、揺らぐ。
思い通りにいかない。
風向きも、温度も変わる。
けれど、その分、
味が出る。
アルフェッタは、庭の端まで歩き、森の入り口で立ち止まった。
(私は今、外にいますのね)
王太子の婚約者という「屋内」から出て、
自分の時間という「外」に立っている。
揺らぐ。
安定しない。
でも、楽しい。
「……やっぱり」
彼女は、静かに笑った。
「外のほうが、好みですわ」
その日の夕食も、外で取ることにした。
特別な料理ではない。
いつもの料理を、外で。
料理長は、何も言わずに準備を進める。
火が起こされ、
鍋がかけられ、
香りが広がる。
アルフェッタは、それを見ながら思った。
(外だから、美味しい)
それは、料理の評価であり、
今の生き方への肯定でもあった。
異世界転生生活十二日目。
アルフェッタは今日も、何かを成し遂げてはいない。
けれど確かに――
自分に合った場所を、はっきりと選び始めていた。
アルフェッタは、昨日の食事を思い返しながら、庭を歩いていた。
魚の焼ける音。
火の揺らぎ。
風に混じる香り。
(……やっぱり、美味しかったですわね)
だが、それは単に料理長の腕が良かったから――だけではない。
そう考えたところで、足が止まった。
(あら)
(私、理由をちゃんと考えていませんでしたわ)
庭の中央にある低いテーブルに腰を下ろし、アルフェッタは指先で木目をなぞる。
屋内で食べる料理。
屋外で食べる料理。
材料は同じ。
調理人も同じ。
調味も、技術も、変わらない。
それなのに、味の印象は違った。
(雰囲気、ですの?)
それもある。
だが、それだけでは説明がつかない。
アルフェッタは、昨日料理長が言っていた言葉を思い出す。
『屋内では、ここまで火が呼吸しません』
(火……ですわね)
屋内では、火は制御される。
一定の温度、一定の環境。
それは安定していて、失敗が少ない。
けれど、外の火は違う。
風に揺れ、
空気を吸い、
強くなったり、弱くなったりする。
(生きていますのね)
だから、同じ食材でも、
同じ焼き方でも、
結果が少しずつ変わる。
その「揺らぎ」が、味に奥行きを与える。
アルフェッタは立ち上がり、庭を見渡した。
木々の影。
空の色。
遠くの川の音。
(これも、料理の一部)
屋内で食べる料理は、料理だけで完結する。
外で食べる料理は、環境と一体になる。
そこに、優劣はない。
ただ、種類が違うだけ。
「……外なのに美味しい、ではありませんわね」
ぽつりと呟く。
「外だから、美味しい」
その言葉を、あらためて口の中で転がす。
侍女が、お茶を運んできた。
「アルフェッタ様、こちらを」
「ありがとう」
カップを受け取り、香りを確かめる。
同じ茶葉。
同じ温度。
それでも、庭で飲むと印象が変わる。
(……これも同じですわ)
食事も、飲み物も、
「何を」より「どこで」が影響する。
前世では、効率を優先していた。
最短距離で、最適解で。
場所は、ただの背景だった。
(でも今は)
(場所も、味のうち)
アルフェッタは、昨日の光景を思い出す。
料理長が火を見つめ、
風の向きを確かめ、
焼き加減を微調整していた姿。
(外で料理するというのは)
(屋内の技術を、捨てることではありませんのね)
むしろ逆だ。
基礎があるからこそ、
揺らぎに対応できる。
プロであることが、外で生きる。
「……なるほど」
小さく頷く。
これは、料理の話だけではない。
(生き方も、同じですわ)
安定した環境。
決められた役割。
整えられた人生。
それは、失敗が少ない。
でも――
外に出れば、揺らぐ。
思い通りにいかない。
風向きも、温度も変わる。
けれど、その分、
味が出る。
アルフェッタは、庭の端まで歩き、森の入り口で立ち止まった。
(私は今、外にいますのね)
王太子の婚約者という「屋内」から出て、
自分の時間という「外」に立っている。
揺らぐ。
安定しない。
でも、楽しい。
「……やっぱり」
彼女は、静かに笑った。
「外のほうが、好みですわ」
その日の夕食も、外で取ることにした。
特別な料理ではない。
いつもの料理を、外で。
料理長は、何も言わずに準備を進める。
火が起こされ、
鍋がかけられ、
香りが広がる。
アルフェッタは、それを見ながら思った。
(外だから、美味しい)
それは、料理の評価であり、
今の生き方への肯定でもあった。
異世界転生生活十二日目。
アルフェッタは今日も、何かを成し遂げてはいない。
けれど確かに――
自分に合った場所を、はっきりと選び始めていた。
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