婚約破棄された千年転生令嬢は、名も居場所も縛られずに生きると決めました ――助けを乞うなら条件付きですわあ

ふわふわ

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第39話 差し出された条件は、覚悟の重さを語りますわ

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第39話 差し出された条件は、覚悟の重さを語りますわ

 朝、空は澄んでいた。
 昨夜の薄曇りが嘘のように、雲一つない青。
 それだけで、世界が少しだけ正直になった気がする。

(……返事が、来ますわね)

 私は町外れの小さな宿で、簡単な朝食を取っていた。
 湯気の立つ茶と、焼いたパン。
 それ以上は要らない。

 扉が控えめに叩かれたのは、その直後だった。

「……失礼します」

 入ってきたのは、昨日の使者とは別の男。
 身なりは質素だが、背筋は真っ直ぐ。
 そして、その後ろに――見覚えのある金髪があった。

(……ようやく、表に出てきましたのね)

「突然の訪問、失礼を」
 前に出た男が名乗る。
「ガルディア王国第二王子、レオナードと申します」

 彼は深く頭を下げた。
 王族の礼としては、異例なほどに。

「そして……」
 視線を上げ、まっすぐに私を見る。
「あなたが、シェリア・ド・ラファルジュ殿ですね」

 否定もしない。
 肯定もしない。
 私は、ただ椅子に腰掛けたまま、彼を見返した。

「ご用件は?」

 率直な問い。
 回り道は、いらない。

 レオナードは頷き、背後の従者から封書を受け取った。

「これは、あなたが求めた“条件”です」

 封書は、机の上に置かれた。
 私は、すぐには開かない。

「王国としての条件、
 そして――私個人としての覚悟を、
 すべて書面にしました」

 その言葉に、わずかな誇張もない。
 演技でもない。

(……誠実ですわね)

 私は封書を開いた。
 一行一行、目を走らせる。

 ・正式な謝罪文
 ・不当な婚約破棄と追放の全面撤回
・シェリア個人への干渉権の完全放棄
・救援に対する対価としての資金・資源の提供
・今後、聖女制度を見直すための王国改革への着手

(……随分と、重たい)

 特に最後の一文。
 これは、形だけでは済まない。

「王国を、変えると?」

 私の問いに、レオナードは一瞬も目を逸らさなかった。

「はい」
「あなたを追放した構造そのものを、です」

 言葉は簡潔だが、内容は過激だ。
 王族自らが、それを口にする覚悟。

「……リリカは?」

 名を出すと、レオナードの表情がわずかに曇った。

「彼女は、悪人ではありません」
「ただ……聖女という役割に、押し上げられただけです」

 私は小さく息を吐いた。

(……同じ過ちを、繰り返さないために、ですか)

 沈黙が落ちる。
 重くはない。
 考えるための、正しい間だ。

「私は、戻りませんわ」

 私ははっきりと言った。

「王国の民を救うことと、
 あの国の人間に戻ることは、別です」

「承知しています」
 レオナードは即答した。
「あなたは、ガルディアの国民です」

 その言葉に、胸の奥がわずかに揺れた。

(……言葉だけではない)

 彼は、私を“手段”として見ていない。
 “戻すべき存在”としても見ていない。

 ただ、選ぶ権利を認めている。

「条件は、確かに受け取りましたわ」

 私は封書を閉じ、机に置いた。

「では――私の条件を、もう一つ」

「何なりと」

「現地での指揮権は、私に」
「治療、支援、撤退の判断も含めて」

 レオナードは、一瞬も迷わず頷いた。

「それが、最も合理的です」

 私は立ち上がる。

「では、向かいましょう」

 レオナードの目が、わずかに見開かれた。

「……よろしいのですか」

「ええ」
 私は静かに微笑む。
「国民に罪はありませんから」

 ただし――と、心の中で付け加える。

(覚悟のない者に、居場所はありませんわよ)

 窓の外、空は変わらず晴れている。
 けれど、確かに世界は動いた。

 差し出された条件は、
 金や書面ではなく――
 覚悟そのものだった。

 私はその重さを受け取り、
 歩き出す。

 救うために。
 支配するためではなく、
 選び続けるために。

 それが、私の出した答えだ。
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