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第36話 変わらない場所に、人は集まる
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第36話 変わらない場所に、人は集まる
温泉郷に、少しずつ“人の流れ”が生まれていた。
観光客、というほど賑やかではない。
移住者、というほど覚悟もない。
ただ――
疲れた人たちだ。
「……ここ、静かですね」 「ええ。だから来ました」
理由は皆、同じだった。
争いに疲れ、
競争に疲れ、
説明することに疲れた。
この町では、
何者であるかを説明しなくていい。
それが、何よりの魅力になっていた。
一方、その中心にいる人物は。
「……最近、知らない人が増えましたね」
リヴォルタ・レーレは、朝の散歩中にそう呟いた。
増えたのは人の数ではない。
“気配”だ。
それでも、町は騒がしくならない。
声が大きくならない。
看板が増えない。
誰も、
ここを“特別な場所”にしようとしないからだ。
昼前、町の集会所で簡単な話し合いが行われた。
「新しく来た人たち、どうします?」 「どうもこうも……普通に、ですね」
議題はそれだけ。
登録もしない。
審査もしない。
歓迎式もしない。
「困ったら、助ける」 「困らなければ、放っておく」
それが、この町の決まりになった。
午後。
リヴォルタは、湯治宿の裏で洗濯物を干していた。
「……風、ちょうどいいですね」
白い布が、揺れる。
絡まらない。
落ちない。
その瞬間、
遠くの都市で起きかけていた暴動が、
なぜか自然解散していた。
誰も理由を知らない。
だが、
“もういいか”
という空気だけが、残った。
夕方、トレイル・ブレイザーは報告を受けていた。
「温泉郷周辺、流入人口が増えています」 「制限は?」 「かけていません」 「正しい」
王は、即答する。
「制限は、線を引く」 「線は、役割を生む」 「ここには、線はいらない」
必要なのは、
戻れる場所だ。
夜。
露天風呂で、リヴォルタは星を眺めていた。
「……人が増えると、落ち着かなくなるかと思いましたけど」
少し考えてから、続ける。
「そうでもないですね」
皆、
ここで何かを得ようとしていない。
ただ、
何も求められない時間を、
過ごしに来ている。
その空気が、
町を壊さない理由だった。
変わらない場所に、
人は集まる。
だが、
変えようとしない限り、
その場所は変わらない。
中心にいる彼女は、
今日も何も指示せず、
何も拒まず、
ただ、湯に浸かっている。
それが、
人が集まっても壊れない――
唯一の条件だと、
世界はもう、学び終えていた。
温泉郷に、少しずつ“人の流れ”が生まれていた。
観光客、というほど賑やかではない。
移住者、というほど覚悟もない。
ただ――
疲れた人たちだ。
「……ここ、静かですね」 「ええ。だから来ました」
理由は皆、同じだった。
争いに疲れ、
競争に疲れ、
説明することに疲れた。
この町では、
何者であるかを説明しなくていい。
それが、何よりの魅力になっていた。
一方、その中心にいる人物は。
「……最近、知らない人が増えましたね」
リヴォルタ・レーレは、朝の散歩中にそう呟いた。
増えたのは人の数ではない。
“気配”だ。
それでも、町は騒がしくならない。
声が大きくならない。
看板が増えない。
誰も、
ここを“特別な場所”にしようとしないからだ。
昼前、町の集会所で簡単な話し合いが行われた。
「新しく来た人たち、どうします?」 「どうもこうも……普通に、ですね」
議題はそれだけ。
登録もしない。
審査もしない。
歓迎式もしない。
「困ったら、助ける」 「困らなければ、放っておく」
それが、この町の決まりになった。
午後。
リヴォルタは、湯治宿の裏で洗濯物を干していた。
「……風、ちょうどいいですね」
白い布が、揺れる。
絡まらない。
落ちない。
その瞬間、
遠くの都市で起きかけていた暴動が、
なぜか自然解散していた。
誰も理由を知らない。
だが、
“もういいか”
という空気だけが、残った。
夕方、トレイル・ブレイザーは報告を受けていた。
「温泉郷周辺、流入人口が増えています」 「制限は?」 「かけていません」 「正しい」
王は、即答する。
「制限は、線を引く」 「線は、役割を生む」 「ここには、線はいらない」
必要なのは、
戻れる場所だ。
夜。
露天風呂で、リヴォルタは星を眺めていた。
「……人が増えると、落ち着かなくなるかと思いましたけど」
少し考えてから、続ける。
「そうでもないですね」
皆、
ここで何かを得ようとしていない。
ただ、
何も求められない時間を、
過ごしに来ている。
その空気が、
町を壊さない理由だった。
変わらない場所に、
人は集まる。
だが、
変えようとしない限り、
その場所は変わらない。
中心にいる彼女は、
今日も何も指示せず、
何も拒まず、
ただ、湯に浸かっている。
それが、
人が集まっても壊れない――
唯一の条件だと、
世界はもう、学び終えていた。
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