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第35話 それでも、日常は続く
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第35話 それでも、日常は続く
朝の温泉郷に、いつもと違う音はなかった。
鳥の声。
湯気の立つ音。
遠くで桶を置く、木の軽い響き。
「……今日も、変わりませんね」
リヴォルタ・レーレは、そう呟いて布団を畳んだ。
特別な感慨はない。
ただの確認だ。
世界がどうなっているか。
自分が何を守っているか。
そんなことを考えなくても、
日常は、今日も無事に続いている。
午前、町では小さな出来事があった。
パン屋の釜が、いつもより熱を持ちすぎた。
本来なら、焦げるか、火傷人が出てもおかしくない。
「……今日は、ここまでにしましょう」
職人が、そう判断した。
理由はない。
ただ、そうしたほうがいい気がした。
結果、事故は起きなかった。
誰も、それ以上考えない。
考えなくていいからだ。
昼前、旅人が一人、宿に立ち寄った。
「泊まれますか?」 「ええ」
それだけのやり取り。
名を尋ねない。
目的を聞かない。
この町では、
人は通り過ぎるものとして扱われる。
午後、リヴォルタは川沿いを歩いていた。
「……水、少し冷たいですね」
足を浸し、すぐに引き上げる。
それだけ。
だが、その瞬間、
上流で起きかけていた増水が、
穏やかに収まった。
誰も知らない。
知る必要もない。
夕方、宿の女将が声をかける。
「今日は、早めにお湯を張りますね」 「ありがとうございます」
感謝は、軽く。
重ねない。
この町では、
感情さえも、過剰にしない。
夜。
露天風呂で、リヴォルタは月を見上げる。
「……今日も、一日終わりました」
何も成し遂げていない。
何も解決していない。
それでも、
世界は壊れていない。
「それで、いいですね」
小さく息を吐く。
その頃、遠くの国では、
「今年は、特別な対策を取らずに済んだ」
という報告が、各地から集まっていた。
誰も、理由を探らない。
理由を探ること自体が、
余計だからだ。
日常は、続く。
英雄がいなくても。
奇跡を語らなくても。
誰かを働かせなくても。
中心にいる彼女は、
今日も、何もしなかった。
だが――
何もしない一日が、
最も多くを守った一日だったことを、
世界だけが、静かに知っている。
それでも、日常は続く。
明日もまた、
変わらない朝を迎えるために。
朝の温泉郷に、いつもと違う音はなかった。
鳥の声。
湯気の立つ音。
遠くで桶を置く、木の軽い響き。
「……今日も、変わりませんね」
リヴォルタ・レーレは、そう呟いて布団を畳んだ。
特別な感慨はない。
ただの確認だ。
世界がどうなっているか。
自分が何を守っているか。
そんなことを考えなくても、
日常は、今日も無事に続いている。
午前、町では小さな出来事があった。
パン屋の釜が、いつもより熱を持ちすぎた。
本来なら、焦げるか、火傷人が出てもおかしくない。
「……今日は、ここまでにしましょう」
職人が、そう判断した。
理由はない。
ただ、そうしたほうがいい気がした。
結果、事故は起きなかった。
誰も、それ以上考えない。
考えなくていいからだ。
昼前、旅人が一人、宿に立ち寄った。
「泊まれますか?」 「ええ」
それだけのやり取り。
名を尋ねない。
目的を聞かない。
この町では、
人は通り過ぎるものとして扱われる。
午後、リヴォルタは川沿いを歩いていた。
「……水、少し冷たいですね」
足を浸し、すぐに引き上げる。
それだけ。
だが、その瞬間、
上流で起きかけていた増水が、
穏やかに収まった。
誰も知らない。
知る必要もない。
夕方、宿の女将が声をかける。
「今日は、早めにお湯を張りますね」 「ありがとうございます」
感謝は、軽く。
重ねない。
この町では、
感情さえも、過剰にしない。
夜。
露天風呂で、リヴォルタは月を見上げる。
「……今日も、一日終わりました」
何も成し遂げていない。
何も解決していない。
それでも、
世界は壊れていない。
「それで、いいですね」
小さく息を吐く。
その頃、遠くの国では、
「今年は、特別な対策を取らずに済んだ」
という報告が、各地から集まっていた。
誰も、理由を探らない。
理由を探ること自体が、
余計だからだ。
日常は、続く。
英雄がいなくても。
奇跡を語らなくても。
誰かを働かせなくても。
中心にいる彼女は、
今日も、何もしなかった。
だが――
何もしない一日が、
最も多くを守った一日だったことを、
世界だけが、静かに知っている。
それでも、日常は続く。
明日もまた、
変わらない朝を迎えるために。
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