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第8話 王宮の庭で、しゃがみ込む二人
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第8話 王宮の庭で、しゃがみ込む二人
国王との協議が終わった翌日。
私は久しぶりに、王宮の庭を一人で歩いていた。
会議が続くと、どうしても屋内にこもりがちになる。
緑を見ると、頭が少しだけ整理される気がした。
生垣の間を抜け、小径を曲がったところで――違和感に気づく。
……人の気配?
次の瞬間、低い声が聞こえた。
「いや、だからさ……それを今さら言われても、どうにもならないって」
聞き覚えがありすぎる声だった。
私はそっと足音を殺し、生垣の陰を覗き込む。
そこには――
王太子ステルヴィオ・アルファロメオが、
しゃがみ込んでいた。
しかも一人じゃない。
庭師用の石段の影に隠れるようにして、完全に“こそこそ話”の体勢だ。
「……殿下?」
思わず声が出る。
ステルヴィオは、びくっと肩を跳ねさせてこちらを見た。
「シャマル!?
いや、これは、その……」
「何してんの」
私は無表情で聞いた。
「王太子が、生垣の裏でしゃがみ込んで。
しかも、見張りでもないよね?」
沈黙。
そして、彼は観念したように肩を落とした。
「……話、聞いてた?」
「途中から」
私はため息をつき、彼の隣にしゃがみ込む。
結果、
公爵令嬢と王太子が並んでしゃがみ込む
という、侍女が見たら卒倒しそうな光景が完成した。
「で?」
私は聞く。
「なに。
また、親父が何か言ってきた?」
ステルヴィオは、額を押さえた。
「婚約を……蒸し返そうとしてる」
「だろうね」
即答だった。
「国王と父親、セットで来るやつでしょ?」
「……なんで分かる」
「分かりやすすぎ」
私は小石を拾って、指先で転がす。
「はやく、きっちり断ってきて」
ステルヴィオが、じっとこちらを見る。
「……それ、簡単に言うな」
「簡単じゃないのは知ってるよ」
私は視線を逸らさずに続けた。
「でも、私をもう一回巻き戻す気なら、
ちゃんと止めてもらわないと困る」
語尾を、少しだけ流す。
「でないと、
安定したサブスク生活が手に入らないから」
ステルヴィオが、吹き出した。
「そこか」
「そこ」
私は真顔だ。
「生活、大事」
しばらく沈黙が落ちる。
王宮の庭に、風が葉を揺らす音だけが流れた。
「……なあ、シャマル」
ステルヴィオが、小さな声で言う。
「君ってさ。
聖女なのに、妙に現実的だよな」
「聖女だからでしょ」
私は肩をすくめた。
「理想論で倒れたら、意味ないし」
「それ、父上に言ったら卒倒するぞ」
「言わない。
言うのは殿下の役目」
彼は、苦笑しながら頭を掻いた。
「……完全に、影響受けてる気がする」
「今さら?」
私は立ち上がり、土を払う。
「それよりさ」
一歩だけ彼に近づく。
「次の手、考えといた方がいいよ。
感情論だけで来られると、話が進まないから」
「……次の手?」
私は、少しだけ口角を上げた。
「身分の話が問題なら、
身分を用意すればいい」
ステルヴィオが、目を瞬かせる。
「それって……」
「まだ案の段階」
私は手を振った。
「実行するかどうかは、殿下次第。
自己責任で、よろ~」
彼は、完全に呆れた顔で笑った。
「……君、本当に聖女か?」
「知らない。
なりたくてなったわけじゃないし」
そう言い残して、私は庭を後にする。
背後から聞こえたのは、
王太子の小さな笑い声だった。
王宮の庭。
生垣の陰。
そこで交わされたのは、
国の命運を左右するかもしれない話と、
安定したサブスク生活への第一歩。
――たぶん、誰もそんな風には見ていない。
国王との協議が終わった翌日。
私は久しぶりに、王宮の庭を一人で歩いていた。
会議が続くと、どうしても屋内にこもりがちになる。
緑を見ると、頭が少しだけ整理される気がした。
生垣の間を抜け、小径を曲がったところで――違和感に気づく。
……人の気配?
次の瞬間、低い声が聞こえた。
「いや、だからさ……それを今さら言われても、どうにもならないって」
聞き覚えがありすぎる声だった。
私はそっと足音を殺し、生垣の陰を覗き込む。
そこには――
王太子ステルヴィオ・アルファロメオが、
しゃがみ込んでいた。
しかも一人じゃない。
庭師用の石段の影に隠れるようにして、完全に“こそこそ話”の体勢だ。
「……殿下?」
思わず声が出る。
ステルヴィオは、びくっと肩を跳ねさせてこちらを見た。
「シャマル!?
いや、これは、その……」
「何してんの」
私は無表情で聞いた。
「王太子が、生垣の裏でしゃがみ込んで。
しかも、見張りでもないよね?」
沈黙。
そして、彼は観念したように肩を落とした。
「……話、聞いてた?」
「途中から」
私はため息をつき、彼の隣にしゃがみ込む。
結果、
公爵令嬢と王太子が並んでしゃがみ込む
という、侍女が見たら卒倒しそうな光景が完成した。
「で?」
私は聞く。
「なに。
また、親父が何か言ってきた?」
ステルヴィオは、額を押さえた。
「婚約を……蒸し返そうとしてる」
「だろうね」
即答だった。
「国王と父親、セットで来るやつでしょ?」
「……なんで分かる」
「分かりやすすぎ」
私は小石を拾って、指先で転がす。
「はやく、きっちり断ってきて」
ステルヴィオが、じっとこちらを見る。
「……それ、簡単に言うな」
「簡単じゃないのは知ってるよ」
私は視線を逸らさずに続けた。
「でも、私をもう一回巻き戻す気なら、
ちゃんと止めてもらわないと困る」
語尾を、少しだけ流す。
「でないと、
安定したサブスク生活が手に入らないから」
ステルヴィオが、吹き出した。
「そこか」
「そこ」
私は真顔だ。
「生活、大事」
しばらく沈黙が落ちる。
王宮の庭に、風が葉を揺らす音だけが流れた。
「……なあ、シャマル」
ステルヴィオが、小さな声で言う。
「君ってさ。
聖女なのに、妙に現実的だよな」
「聖女だからでしょ」
私は肩をすくめた。
「理想論で倒れたら、意味ないし」
「それ、父上に言ったら卒倒するぞ」
「言わない。
言うのは殿下の役目」
彼は、苦笑しながら頭を掻いた。
「……完全に、影響受けてる気がする」
「今さら?」
私は立ち上がり、土を払う。
「それよりさ」
一歩だけ彼に近づく。
「次の手、考えといた方がいいよ。
感情論だけで来られると、話が進まないから」
「……次の手?」
私は、少しだけ口角を上げた。
「身分の話が問題なら、
身分を用意すればいい」
ステルヴィオが、目を瞬かせる。
「それって……」
「まだ案の段階」
私は手を振った。
「実行するかどうかは、殿下次第。
自己責任で、よろ~」
彼は、完全に呆れた顔で笑った。
「……君、本当に聖女か?」
「知らない。
なりたくてなったわけじゃないし」
そう言い残して、私は庭を後にする。
背後から聞こえたのは、
王太子の小さな笑い声だった。
王宮の庭。
生垣の陰。
そこで交わされたのは、
国の命運を左右するかもしれない話と、
安定したサブスク生活への第一歩。
――たぶん、誰もそんな風には見ていない。
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