婚約破棄されたのでサブスク聖女始めました ―平民がダメ?なら侯爵令嬢にしますが、だから何?―

ふわふわ

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第9話 そうだ、ウィットンに力を借りよう

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第9話 そうだ、ウィットンに力を借りよう

 

 王宮の庭での“しゃがみ会議”から、半日。

 私は自室のソファに転がりながら、天井を見上げていた。
 頭の中では、さっきの会話が何度も再生されている。

「身分の話が問題なら、身分を用意すればいい」

 口に出したときは軽かったけど、案としてはかなり現実的だ。
 貴族社会は、感情より形式。
 逆に言えば、形式さえ整えば、反対理由は消える。

「……誰に頼むか、だよね」

 そこで、思い浮かぶ顔は一つしかなかった。

 若くして侯爵位を継ぎ、
 王宮の裏事情にも明るく、
 何より――面倒ごとを“面白い”で片づける男。

 タイガー・ウィットン侯爵。

 数時間後、私は王太子ステルヴィオに呼び出された。
 場所は、王宮の外れにある控えめな応接室。
 公式でも非公式でもない、微妙な立ち位置の部屋だ。

「……で?」

 私は椅子に腰掛けるなり、聞いた。

「考えた?」

 ステルヴィオは、少し疲れた顔で頷く。

「考えた。
 そして、同じ結論に至った」

 彼は、苦笑して続けた。

「ウィットンに相談するしかない」

「だよね」

 私は即答した。

「身分問題を“問題じゃなくする”なら、
 あいつ以上の適任はいない」

 ステルヴィオは、微妙な顔をする。

「……正直、
 国の将来を左右する話を、
 あんな男に持ち込むのはどうかと思う」

「大丈夫」

 私は、さらっと言った。

「ウィットン、仕事はちゃんとするから」

「それ、褒めてるのか?」

「一応」

 彼は小さく息を吐いた。

「で、具体案は?」

「簡単」

 私は指を一本立てる。

「平民の娘――マルベーリャを、
 ウィットン家の養女にする」

 ステルヴィオが、目を見開いた。

「……侯爵令嬢に仕立てる、ってことか」

「うん」

 私は頷く。

「平民じゃなきゃ、
 文句も言えないでしょ」

 彼は、しばらく黙り込んだ。

「それ……
 シャマルの悪知恵だよな」

「失礼な」

 私は眉をひそめる。

「事実を並べてるだけだよ。
 養女縁組は合法。
 身分は正式に上がる。
 嘘は一つもない」

「……確かに」

 ステルヴィオは、頭を押さえた。

「でも、それを国王が黙って見ているか?」

「見てるしかない」

 私は肩をすくめた。

「反対理由が“平民だから”しかないんだもん。
 それが消えたら、
 あとは感情論になる」

「……」

「感情論で押し切ったら、
 今度こそ王家の威信が傷つく」

 そこまで言って、私は一拍置いた。

「実行するのは、殿下ね。
 自己責任で、よろ~」

 ステルヴィオが、思わず吹き出す。

「……完全に、君に毒されてる気がする」

「今さらでしょ」

 私は立ち上がり、背伸びをした。

「とにかく、
 話を持ち込むだけ持ち込んでみて」

「ウィットンがどう出るかは、
 あいつ次第だけど」

「大丈夫」

 私は自信ありげに言った。

「“面白そう”って言われた時点で、
 もう半分成功だから」

 数日後。
 王都の一角にあるウィットン侯爵邸へ向かう馬車の中で、
 私は窓の外を眺めながら思う。

 国王と父が、
 “正論”で私を縛ろうとするなら。

 こちらは、“形式”で切り返すだけ。

「……はやく、きっちり片づけてほしいな」

 小さく呟く。

「でないと、
 安定したサブスク生活が手に入らない」

 聖女の未来と、
 国の体面と、
 私の生活。

 その全部を天秤にかける作戦が、
 いま、動き出そうとしていた。
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