11 / 39
第11話 養女の話、本人が一番まともだった
しおりを挟む
第11話 養女の話、本人が一番まともだった
ウィットン侯爵邸の応接室に、
珍しく“普通の空気”が流れていた。
理由は簡単だ。
そこにいる当事者が、ようやく一人増えたから。
「……えっと」
控えめに手を胸の前で組み、少し緊張した様子で立っている少女。
それが――マルベーリャだった。
平民の娘。
王太子ステルヴィオが「真実の愛を見つけた」と言って連れてきた相手。
噂では、もっとこう……
泣くとか、怯えるとか、舞い上がるとか、
そういう“物語的反応”を期待されていたらしい。
でも、実物は違った。
「……突然呼ばれて、
いきなり“侯爵家の養女になる話”って言われても」
マルベーリャは、ちらりとウィットンを見て、
次に私と王太子を見た。
「正直、頭が追いついてません」
「だよね」
私は即座に頷いた。
「私でも追いついてない」
「おい」
ウィットンが突っ込む。
「考えたのお前だろ」
「実行するのは殿下、自己責任でよろ~って言った」
王太子が、無言で頭を抱えた。
マルベーリャは、そのやり取りを見て、少しだけ肩の力を抜いたようだった。
「……あの」
彼女は、恐る恐る口を開く。
「私、
誰かの都合で振り回されるのは、あまり得意じゃなくて」
その一言で、場の空気が変わった。
ウィットンが、興味深そうに眉を上げる。
「ほう?」
「殿下のことは、好きです」
マルベーリャは、はっきり言った。
王太子が、びくっとする。
「でも」
彼女は続けた。
「だからといって、
急に身分を変えろと言われて、
何も考えずに頷けるほど、
夢見がちでもありません」
一瞬の沈黙。
最初に笑ったのは、ウィットンだった。
「……いいね。
思ってたより、ずっとまともだ」
「褒め言葉ですか?」
「最大級のな」
私は、マルベーリャに視線を向ける。
「安心していいよ。
これは“強制イベント”じゃない」
「断っても、
誰も責めない」
王太子も、慌てて頷いた。
「そうだ。
これは、君の意思が最優先だ」
マルベーリャは、少し驚いた顔をした。
「……本当に?」
「うん」
私は肩をすくめる。
「だってさ。
ここで無理やり進めたら、
結局また誰かが消耗するでしょ」
彼女は、しばらく考え込んでいた。
そして――
「もし」
小さな声で言う。
「もし、養女になるとしたら……」
全員の視線が集まる。
「私は、“道具”扱いされるのは嫌です」
その言葉は、はっきりしていた。
「誰かの体面のためだけに使われるなら、
断ります」
私は、思わず笑った。
「うん。
それ、正しい」
ウィットンも、腕を組んで頷く。
「条件を出せる立場だな」
マルベーリャは、少し戸惑いながらも言った。
「……条件、出していいんですか?」
「もちろん」
私は即答した。
「契約だもん」
その瞬間、
マルベーリャの表情が、ほんの少しだけ柔らいだ。
「じゃあ……」
彼女は、深呼吸してから続けた。
「私は、
自分の人生を、自分で選びたいです」
「身分が変わっても、
誰かの影に隠れる存在にはなりたくない」
王太子が、真剣な顔で頷いた。
「約束する」
ウィットンは、楽しそうに笑う。
「こりゃあ、
国王より手強い相手だな」
私は、内心で同意した。
――一番まともなのが、
一番立場の弱いはずの平民の娘。
この国、
どこか根本からズレてる。
「さて」
私は立ち上がる。
「話は、ようやくスタート地点」
「形だけの養女縁組にするか、
本気で“新しい立場”を作るか」
視線を一巡させる。
「選ぶのは、
マルベーリャ本人」
彼女は、少しだけ背筋を伸ばした。
「……考える時間をください」
「もちろん」
私は微笑んだ。
「急ぐ話じゃない」
――急ぐのは、
王宮のほうだ。
その事実を、
この場にいる全員が、
はっきり理解していた。
安定したサブスク生活への道は、
思わぬところで、
一番まともな分岐点に差しかかっていた。
ウィットン侯爵邸の応接室に、
珍しく“普通の空気”が流れていた。
理由は簡単だ。
そこにいる当事者が、ようやく一人増えたから。
「……えっと」
控えめに手を胸の前で組み、少し緊張した様子で立っている少女。
それが――マルベーリャだった。
平民の娘。
王太子ステルヴィオが「真実の愛を見つけた」と言って連れてきた相手。
噂では、もっとこう……
泣くとか、怯えるとか、舞い上がるとか、
そういう“物語的反応”を期待されていたらしい。
でも、実物は違った。
「……突然呼ばれて、
いきなり“侯爵家の養女になる話”って言われても」
マルベーリャは、ちらりとウィットンを見て、
次に私と王太子を見た。
「正直、頭が追いついてません」
「だよね」
私は即座に頷いた。
「私でも追いついてない」
「おい」
ウィットンが突っ込む。
「考えたのお前だろ」
「実行するのは殿下、自己責任でよろ~って言った」
王太子が、無言で頭を抱えた。
マルベーリャは、そのやり取りを見て、少しだけ肩の力を抜いたようだった。
「……あの」
彼女は、恐る恐る口を開く。
「私、
誰かの都合で振り回されるのは、あまり得意じゃなくて」
その一言で、場の空気が変わった。
ウィットンが、興味深そうに眉を上げる。
「ほう?」
「殿下のことは、好きです」
マルベーリャは、はっきり言った。
王太子が、びくっとする。
「でも」
彼女は続けた。
「だからといって、
急に身分を変えろと言われて、
何も考えずに頷けるほど、
夢見がちでもありません」
一瞬の沈黙。
最初に笑ったのは、ウィットンだった。
「……いいね。
思ってたより、ずっとまともだ」
「褒め言葉ですか?」
「最大級のな」
私は、マルベーリャに視線を向ける。
「安心していいよ。
これは“強制イベント”じゃない」
「断っても、
誰も責めない」
王太子も、慌てて頷いた。
「そうだ。
これは、君の意思が最優先だ」
マルベーリャは、少し驚いた顔をした。
「……本当に?」
「うん」
私は肩をすくめる。
「だってさ。
ここで無理やり進めたら、
結局また誰かが消耗するでしょ」
彼女は、しばらく考え込んでいた。
そして――
「もし」
小さな声で言う。
「もし、養女になるとしたら……」
全員の視線が集まる。
「私は、“道具”扱いされるのは嫌です」
その言葉は、はっきりしていた。
「誰かの体面のためだけに使われるなら、
断ります」
私は、思わず笑った。
「うん。
それ、正しい」
ウィットンも、腕を組んで頷く。
「条件を出せる立場だな」
マルベーリャは、少し戸惑いながらも言った。
「……条件、出していいんですか?」
「もちろん」
私は即答した。
「契約だもん」
その瞬間、
マルベーリャの表情が、ほんの少しだけ柔らいだ。
「じゃあ……」
彼女は、深呼吸してから続けた。
「私は、
自分の人生を、自分で選びたいです」
「身分が変わっても、
誰かの影に隠れる存在にはなりたくない」
王太子が、真剣な顔で頷いた。
「約束する」
ウィットンは、楽しそうに笑う。
「こりゃあ、
国王より手強い相手だな」
私は、内心で同意した。
――一番まともなのが、
一番立場の弱いはずの平民の娘。
この国、
どこか根本からズレてる。
「さて」
私は立ち上がる。
「話は、ようやくスタート地点」
「形だけの養女縁組にするか、
本気で“新しい立場”を作るか」
視線を一巡させる。
「選ぶのは、
マルベーリャ本人」
彼女は、少しだけ背筋を伸ばした。
「……考える時間をください」
「もちろん」
私は微笑んだ。
「急ぐ話じゃない」
――急ぐのは、
王宮のほうだ。
その事実を、
この場にいる全員が、
はっきり理解していた。
安定したサブスク生活への道は、
思わぬところで、
一番まともな分岐点に差しかかっていた。
0
あなたにおすすめの小説
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
あなたが捨てた花冠と后の愛
小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。
順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。
そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。
リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。
そのためにリリィが取った行動とは何なのか。
リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。
2人の未来はいかに···
妹なんだから助けて? お断りします
たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。
私を追い出したければどうぞご自由に
睡蓮
恋愛
伯爵としての立場を有しているグルームは、自身の婚約者として同じく貴族令嬢であるメレーナの事を迎え入れた。しかし、グルームはその関係を築いていながらソフィアという女性に夢中になってしまい、メレーナに適当な理由を突き付けてその婚約を破棄してしまう。自分は貴族の中でも高い地位を持っているため、誰も自分に逆らうことはできない。これで自分の計画通りになったと言うグルームであったが、メレーナの後ろには貴族会の統括であるカサルがおり、二人は実の親子のような深い絆で結ばれているという事に気づかなかった。本気を出したカサルの前にグルームは一方的に立場を失っていくこととなり、婚約破棄を後悔した時にはすべてが手遅れなのだった…。
「婚約破棄だ」と笑った元婚約者、今さら跪いても遅いですわ
ゆっこ
恋愛
その日、私は王宮の大広間で、堂々たる声で婚約破棄を宣言された。
「リディア=フォルステイル。お前との婚約は――今日をもって破棄する!」
声の主は、よりにもよって私の婚約者であるはずの王太子・エルネスト。
いつもは威厳ある声音の彼が、今日に限って妙に勝ち誇った笑みを浮かべている。
けれど――。
(……ふふ。そう来ましたのね)
私は笑みすら浮かべず、王太子をただ静かに見つめ返した。
大広間の視線が一斉に私へと向けられる。
王族、貴族、外交客……さまざまな人々が、まるで処刑でも始まるかのように期待の眼差しを向けている。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる