婚約破棄されたのでサブスク聖女始めました ―平民がダメ?なら侯爵令嬢にしますが、だから何?―

ふわふわ

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第12話 国王、想定外の“条件付き了承”

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第12話 国王、想定外の“条件付き了承”

 

 マルベーリャに考える時間を渡してから、三日。
 王宮の動きが、目に見えて慌ただしくなった。

 理由は簡単だ。
 待つという選択肢を、王宮がほとんど使ったことがなかったから。

「聖女様、国王陛下がお呼びです」

 その口調には、妙な慎重さが混じっていた。
 “命令”ではない。
 かといって“お願い”でもない。

 私は椅子から立ち上がり、軽く伸びをする。

「急患じゃないよね?」

「……協議、とのことです」

「了解」

 協議。
 最近、ようやく覚えた言葉らしい。

 国王の執務室には、国王本人、宰相、王太子ステルヴィオ、そして――
 なぜか、ウィットン侯爵までいた。

「呼ばれてないんだけど?」

 私が言うと、ウィットンは平然と手を振った。

「ついてきた」

「そういうとこだよ」

 国王は、軽く咳払いをした。

「……シャマル」

 名前で呼ばれるのは珍しい。

「例の件だがな」

「うん」

 私は、促すように頷いた。

「ウィットン侯爵家の養女縁組。
 制度上、問題はない」

 そこまで言って、国王は一拍置く。

「だが、それを理由に婚約破棄を正当化されるのは、
 王家としては面白くない」

「正当化、じゃないよ」

 私は即座に返す。

「破棄したのは、殿下。
 事実は変わらない」

 王太子が、気まずそうに視線を逸らした。

 国王は、じっと私を見つめる。

「……お前は、本当に遠慮がないな」

「必要ないから」

 淡々と答える。

「それで?」

 国王は、深く息を吐いた。

「条件付きで、認める」

 その言葉に、部屋の空気が一瞬張り詰めた。

「条件?」

 私が聞き返す。

「養女縁組は、
 “マルベーリャ本人の意思を最優先”とする」

 ――おや?

「さらに」

 国王は続けた。

「ウィットン家の庇護のもと、
 一定期間、社交界での適性を見る」

 ウィットンが、にやりと笑う。

「試用期間ってやつだな」

「言い方」

 国王は睨んだが、否定はしなかった。

「問題がなければ、
 正式に侯爵令嬢として認める」

 私は、ゆっくりと頷いた。

「……意外と、まともな落としどころ」

 宰相が、疲れたように言う。

「これ以上、
 王宮が強引に動けば、
 世論が荒れます」

 国王は、苦々しげに頷いた。

「聖女を“使い潰す国”など、
 誰も支持せぬからな」

 ――自覚、あったんだ。

 私は、少しだけ評価を上げた。

「で」

 私は、指を一本立てる。

「私の件は?」

 国王が、眉をひそめる。

「……条件は、変わらんのだろう?」

「うん」

 私は頷く。

「非常勤。呼び出し制。時給制。
 婚約の有無に関わらず」

 王太子が、苦笑した。

「本当に、ぶれないな」

「生活がかかってるから」

 即答だった。

 国王は、しばらく考え込んでから言った。

「……聖女の契約についても、
 再検討する」

 それは、今までで一番の譲歩だった。

 ウィットンが、楽しそうに言う。

「おお、
 歴史的瞬間じゃないか?」

「黙れ」

 国王は即座に返した。

 私は、内心で小さく息を吐く。

 完勝ではない。
 でも、流れは確実に変わった。

「じゃあ」

 私は立ち上がる。

「次は、
 マルベーリャの答え待ちだね」

 王太子が、静かに頷いた。

 国の都合。
 家の都合。
 王家の威信。

 それら全部を並べた上で、
 最後に残ったのが――
 本人の意思。

 この国は、
 ようやくそこに辿り着いたらしい。

 安定したサブスク生活への道は、
 まだ完成じゃない。

 でも少なくとも――
 “勝手に決められる未来”からは、
 一歩、抜け出せた気がした。
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