婚約破棄されたのでサブスク聖女始めました ―平民がダメ?なら侯爵令嬢にしますが、だから何?―

ふわふわ

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第11話 養女の話、本人が一番まともだった

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第11話 養女の話、本人が一番まともだった

 

 ウィットン侯爵邸の応接室に、
 珍しく“普通の空気”が流れていた。

 理由は簡単だ。
 そこにいる当事者が、ようやく一人増えたから。

「……えっと」

 控えめに手を胸の前で組み、少し緊張した様子で立っている少女。
 それが――マルベーリャだった。

 平民の娘。
 王太子ステルヴィオが「真実の愛を見つけた」と言って連れてきた相手。

 噂では、もっとこう……
 泣くとか、怯えるとか、舞い上がるとか、
 そういう“物語的反応”を期待されていたらしい。

 でも、実物は違った。

「……突然呼ばれて、
 いきなり“侯爵家の養女になる話”って言われても」

 マルベーリャは、ちらりとウィットンを見て、
 次に私と王太子を見た。

「正直、頭が追いついてません」

「だよね」

 私は即座に頷いた。

「私でも追いついてない」

「おい」

 ウィットンが突っ込む。

「考えたのお前だろ」

「実行するのは殿下、自己責任でよろ~って言った」

 王太子が、無言で頭を抱えた。

 マルベーリャは、そのやり取りを見て、少しだけ肩の力を抜いたようだった。

「……あの」

 彼女は、恐る恐る口を開く。

「私、
 誰かの都合で振り回されるのは、あまり得意じゃなくて」

 その一言で、場の空気が変わった。

 ウィットンが、興味深そうに眉を上げる。

「ほう?」

「殿下のことは、好きです」

 マルベーリャは、はっきり言った。

 王太子が、びくっとする。

「でも」

 彼女は続けた。

「だからといって、
 急に身分を変えろと言われて、
 何も考えずに頷けるほど、
 夢見がちでもありません」

 一瞬の沈黙。

 最初に笑ったのは、ウィットンだった。

「……いいね。
 思ってたより、ずっとまともだ」

「褒め言葉ですか?」

「最大級のな」

 私は、マルベーリャに視線を向ける。

「安心していいよ。
 これは“強制イベント”じゃない」

「断っても、
 誰も責めない」

 王太子も、慌てて頷いた。

「そうだ。
 これは、君の意思が最優先だ」

 マルベーリャは、少し驚いた顔をした。

「……本当に?」

「うん」

 私は肩をすくめる。

「だってさ。
 ここで無理やり進めたら、
 結局また誰かが消耗するでしょ」

 彼女は、しばらく考え込んでいた。

 そして――

「もし」

 小さな声で言う。

「もし、養女になるとしたら……」

 全員の視線が集まる。

「私は、“道具”扱いされるのは嫌です」

 その言葉は、はっきりしていた。

「誰かの体面のためだけに使われるなら、
 断ります」

 私は、思わず笑った。

「うん。
 それ、正しい」

 ウィットンも、腕を組んで頷く。

「条件を出せる立場だな」

 マルベーリャは、少し戸惑いながらも言った。

「……条件、出していいんですか?」

「もちろん」

 私は即答した。

「契約だもん」

 その瞬間、
 マルベーリャの表情が、ほんの少しだけ柔らいだ。

「じゃあ……」

 彼女は、深呼吸してから続けた。

「私は、
 自分の人生を、自分で選びたいです」

「身分が変わっても、
 誰かの影に隠れる存在にはなりたくない」

 王太子が、真剣な顔で頷いた。

「約束する」

 ウィットンは、楽しそうに笑う。

「こりゃあ、
 国王より手強い相手だな」

 私は、内心で同意した。

 ――一番まともなのが、
 一番立場の弱いはずの平民の娘。

 この国、
 どこか根本からズレてる。

「さて」

 私は立ち上がる。

「話は、ようやくスタート地点」

「形だけの養女縁組にするか、
 本気で“新しい立場”を作るか」

 視線を一巡させる。

「選ぶのは、
 マルベーリャ本人」

 彼女は、少しだけ背筋を伸ばした。

「……考える時間をください」

「もちろん」

 私は微笑んだ。

「急ぐ話じゃない」

 ――急ぐのは、
 王宮のほうだ。

 その事実を、
 この場にいる全員が、
 はっきり理解していた。

 安定したサブスク生活への道は、
 思わぬところで、
 一番まともな分岐点に差しかかっていた。
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