14 / 39
第14話 社交界デビューは、試用期間つき
しおりを挟む
第14話 社交界デビューは、試用期間つき
マルベーリャの意思が正式に王宮へ伝えられた翌朝。
王都は、目に見えないざわめきに包まれていた。
理由は単純だ。
「平民の娘が、侯爵家の養女になるらしい」
その噂が、あっという間に広がったから。
しかも条件付き。
試用期間あり。
本人の意思最優先。
「……貴族社会で一番嫌われるやつだよね、それ」
私は自室で書類をめくりながら、ぼそっと呟いた。
前例を壊す。
空気を読まない。
でも、制度上は完全に合法。
そりゃあ、荒れる。
その日の午後、王宮の小会議室には、
宰相、数名の高官、王太子、そして――私が呼ばれていた。
「状況は把握しているな」
宰相が、開口一番そう言った。
「うん。
社交界がざわついてる」
「“ざわつく”では済まん」
別の高官が、眉をひそめる。
「平民出身の娘を、
いきなり侯爵令嬢扱いなど……」
「扱いじゃないよ」
私は即座に訂正した。
「“試用期間中の養女”」
空気が一瞬、止まる。
「正式な身分確定は、
一定期間の後」
「それまでの間は、
ウィットン家の庇護下で学ぶ立場」
私は淡々と続ける。
「文句つけるなら、
どの条文に違反してるか教えてほしい」
誰も答えられなかった。
王太子が、静かに口を開く。
「それに、この形は――
本人が選びました」
その一言で、
議論の方向が変わる。
「……本人の意思、か」
宰相が、苦い顔で呟く。
「最近、その言葉が
やけに重くなったな」
「いい傾向だと思うよ」
私は肩をすくめた。
「誰も倒れないし、
誰も無理しない」
会議は、結論だけが淡々と決まった。
・養女縁組は仮成立
・社交界への参加は限定的
・発言権と拒否権は本人にあり
・不当な圧力は禁止
――貴族社会にしては、かなり革新的だ。
その夕方。
ウィットン侯爵邸では、
まったく別の空気が流れていた。
「よし、まずは挨拶の仕方からだな!」
ウィットンが、やけに張り切っている。
「……いきなり王族向けはやめてください」
マルベーリャが、少し引き気味に言った。
「大丈夫大丈夫。
失敗しても“試用期間中”だから」
「その言葉、便利すぎません?」
「便利だから使うんだ」
私は、ソファに腰掛けながら二人を眺める。
「無理に完璧目指さなくていいよ」
マルベーリャが、こちらを見る。
「でも……失敗したら、
やっぱり叩かれますよね」
「うん」
私は、はっきり言った。
「確実に」
彼女が、少しだけ身構える。
「でもね」
私は続けた。
「それ、
“あなたが悪い”わけじゃない」
「変化を嫌う人が、
騒いでるだけ」
ウィットンが、にやりと笑う。
「騒ぐほど、
話題になる」
「話題になるほど、
既成事実になる」
マルベーリャは、少し考えてから言った。
「……なんだか、
怖いけど」
「怖くていい」
私は即答した。
「怖くない改革なんて、
だいたい誰かが無理してる」
その夜。
私は王宮から戻る馬車の中で、
窓の外を眺めていた。
試用期間。
条件付き了承。
本人の選択。
どれも、
この国では新しすぎる。
「……でも」
小さく呟く。
「ちゃんと“選んだ”ってだけで、
ここまで景色が変わるんだ」
聖女の仕事も、
婚約の話も、
国の在り方も。
全部が一気に変わるわけじゃない。
でも、戻らないところまでは来た。
「さて」
私は、軽く伸びをした。
「次は、
社交界の洗礼か」
安定したサブスク生活への道は、
どうやら――
嵐の中を、試用期間付きで進む
そんなフェーズに入ったらしい。
マルベーリャの意思が正式に王宮へ伝えられた翌朝。
王都は、目に見えないざわめきに包まれていた。
理由は単純だ。
「平民の娘が、侯爵家の養女になるらしい」
その噂が、あっという間に広がったから。
しかも条件付き。
試用期間あり。
本人の意思最優先。
「……貴族社会で一番嫌われるやつだよね、それ」
私は自室で書類をめくりながら、ぼそっと呟いた。
前例を壊す。
空気を読まない。
でも、制度上は完全に合法。
そりゃあ、荒れる。
その日の午後、王宮の小会議室には、
宰相、数名の高官、王太子、そして――私が呼ばれていた。
「状況は把握しているな」
宰相が、開口一番そう言った。
「うん。
社交界がざわついてる」
「“ざわつく”では済まん」
別の高官が、眉をひそめる。
「平民出身の娘を、
いきなり侯爵令嬢扱いなど……」
「扱いじゃないよ」
私は即座に訂正した。
「“試用期間中の養女”」
空気が一瞬、止まる。
「正式な身分確定は、
一定期間の後」
「それまでの間は、
ウィットン家の庇護下で学ぶ立場」
私は淡々と続ける。
「文句つけるなら、
どの条文に違反してるか教えてほしい」
誰も答えられなかった。
王太子が、静かに口を開く。
「それに、この形は――
本人が選びました」
その一言で、
議論の方向が変わる。
「……本人の意思、か」
宰相が、苦い顔で呟く。
「最近、その言葉が
やけに重くなったな」
「いい傾向だと思うよ」
私は肩をすくめた。
「誰も倒れないし、
誰も無理しない」
会議は、結論だけが淡々と決まった。
・養女縁組は仮成立
・社交界への参加は限定的
・発言権と拒否権は本人にあり
・不当な圧力は禁止
――貴族社会にしては、かなり革新的だ。
その夕方。
ウィットン侯爵邸では、
まったく別の空気が流れていた。
「よし、まずは挨拶の仕方からだな!」
ウィットンが、やけに張り切っている。
「……いきなり王族向けはやめてください」
マルベーリャが、少し引き気味に言った。
「大丈夫大丈夫。
失敗しても“試用期間中”だから」
「その言葉、便利すぎません?」
「便利だから使うんだ」
私は、ソファに腰掛けながら二人を眺める。
「無理に完璧目指さなくていいよ」
マルベーリャが、こちらを見る。
「でも……失敗したら、
やっぱり叩かれますよね」
「うん」
私は、はっきり言った。
「確実に」
彼女が、少しだけ身構える。
「でもね」
私は続けた。
「それ、
“あなたが悪い”わけじゃない」
「変化を嫌う人が、
騒いでるだけ」
ウィットンが、にやりと笑う。
「騒ぐほど、
話題になる」
「話題になるほど、
既成事実になる」
マルベーリャは、少し考えてから言った。
「……なんだか、
怖いけど」
「怖くていい」
私は即答した。
「怖くない改革なんて、
だいたい誰かが無理してる」
その夜。
私は王宮から戻る馬車の中で、
窓の外を眺めていた。
試用期間。
条件付き了承。
本人の選択。
どれも、
この国では新しすぎる。
「……でも」
小さく呟く。
「ちゃんと“選んだ”ってだけで、
ここまで景色が変わるんだ」
聖女の仕事も、
婚約の話も、
国の在り方も。
全部が一気に変わるわけじゃない。
でも、戻らないところまでは来た。
「さて」
私は、軽く伸びをした。
「次は、
社交界の洗礼か」
安定したサブスク生活への道は、
どうやら――
嵐の中を、試用期間付きで進む
そんなフェーズに入ったらしい。
0
あなたにおすすめの小説
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
あなたが捨てた花冠と后の愛
小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。
順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。
そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。
リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。
そのためにリリィが取った行動とは何なのか。
リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。
2人の未来はいかに···
妹なんだから助けて? お断りします
たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。
私を追い出したければどうぞご自由に
睡蓮
恋愛
伯爵としての立場を有しているグルームは、自身の婚約者として同じく貴族令嬢であるメレーナの事を迎え入れた。しかし、グルームはその関係を築いていながらソフィアという女性に夢中になってしまい、メレーナに適当な理由を突き付けてその婚約を破棄してしまう。自分は貴族の中でも高い地位を持っているため、誰も自分に逆らうことはできない。これで自分の計画通りになったと言うグルームであったが、メレーナの後ろには貴族会の統括であるカサルがおり、二人は実の親子のような深い絆で結ばれているという事に気づかなかった。本気を出したカサルの前にグルームは一方的に立場を失っていくこととなり、婚約破棄を後悔した時にはすべてが手遅れなのだった…。
「婚約破棄だ」と笑った元婚約者、今さら跪いても遅いですわ
ゆっこ
恋愛
その日、私は王宮の大広間で、堂々たる声で婚約破棄を宣言された。
「リディア=フォルステイル。お前との婚約は――今日をもって破棄する!」
声の主は、よりにもよって私の婚約者であるはずの王太子・エルネスト。
いつもは威厳ある声音の彼が、今日に限って妙に勝ち誇った笑みを浮かべている。
けれど――。
(……ふふ。そう来ましたのね)
私は笑みすら浮かべず、王太子をただ静かに見つめ返した。
大広間の視線が一斉に私へと向けられる。
王族、貴族、外交客……さまざまな人々が、まるで処刑でも始まるかのように期待の眼差しを向けている。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる