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第15話 初陣は舞踏会、なお逃げ道あり
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第15話 初陣は舞踏会、なお逃げ道あり
社交界デビュー初日。
つまり――洗礼の日だ。
場所は王宮主催の夜会。
名目は「季節の祝賀」。
本音は「新顔の値踏み」。
「……聞いてたけど、
空気、重いね」
私は控室のソファに腰掛けながら、
会場のざわめきを遠くに聞いていた。
マルベーリャは、鏡の前で深呼吸をしている。
ドレスはウィットン家が用意したものだが、
派手すぎず、地味すぎず――
“突っ込ませない”を最優先にした無難な仕上がりだ。
「大丈夫?」
私が聞くと、彼女は小さく笑った。
「……怖いですけど、
覚悟はしてきました」
「それで十分」
私は立ち上がる。
「完璧じゃなくていい。
今日は“無事に帰る”が目標だから」
「逃げてもいい、ってことですか?」
「もちろん」
私は即答した。
「試用期間中だし、
拒否権も発動可能」
マルベーリャは、少し肩の力を抜いた。
会場に足を踏み入れた瞬間、
視線が集まるのが分かる。
囁き声。
値踏みの目。
露骨な好奇心。
「……来たわね」
誰かの声が、わざと聞こえるように落ちる。
私は、マルベーリャの一歩後ろに立った。
盾でも主役でもない。
“逃げ道の管理役”。
最初に近づいてきたのは、
年配の伯爵夫人だった。
「あなたが……噂の」
「マルベーリャです」
彼女は、丁寧に名乗った。
「ウィットン侯爵家の養女として、
現在、試用期間中です」
……完璧。
余計なことを言わない。
でも、立場は明確。
伯爵夫人は、一瞬だけ言葉に詰まった。
「……随分、はっきりしているのね」
「曖昧にすると、
誤解が増えると聞きました」
それは事実だ。
しかも、誰の悪口にもならない。
周囲の視線が、
わずかに変わるのを感じた。
――あ、この子、
思ったより“扱いづらい”。
それは、悪い意味じゃない。
次に来たのは、
露骨に敵意を隠さない若い令嬢だった。
「平民出身でも、
舞踏会には出られるのね」
空気が、ひやりと冷える。
マルベーリャが、私を見る。
私は、目で合図した。
――逃げ道、使っていい。
でも彼女は、一歩前に出た。
「はい」
にこりともせず、
淡々と続ける。
「制度上、問題ありませんので」
一瞬、沈黙。
令嬢は、言い返す言葉を失った。
――事実で殴ると、
だいたいこうなる。
その直後、
王太子ステルヴィオが現れた。
「楽しんでいるようだね」
公的な、完璧な笑顔。
「ええ。
学びが多いです」
マルベーリャは、そう答えた。
その一言で、
周囲は察したはずだ。
――これは“仮”じゃない。
ちゃんと、前に進む選択だ。
夜会の終盤。
私は、マルベーリャに小声で聞いた。
「どう?」
「……思ったより、
生き延びてます」
「上出来」
私は、満足げに頷く。
「初陣でそれなら、
合格点」
帰りの馬車の中。
マルベーリャは、ほっと息を吐いた。
「……逃げなくて、
よかったです」
「逃げ道があるから、
踏み出せるんだよ」
私は、そう言って窓の外を見る。
社交界は、
一夜で変わらない。
でも――
“無事に帰った”という事実は、
確実に積み上がる。
「さて」
私は、軽く伸びをした。
「次も、
逃げ道は確保していこう」
安定したサブスク生活への道は、
どうやら――
初陣クリアの判定を、
静かにもらえたらしい。
社交界デビュー初日。
つまり――洗礼の日だ。
場所は王宮主催の夜会。
名目は「季節の祝賀」。
本音は「新顔の値踏み」。
「……聞いてたけど、
空気、重いね」
私は控室のソファに腰掛けながら、
会場のざわめきを遠くに聞いていた。
マルベーリャは、鏡の前で深呼吸をしている。
ドレスはウィットン家が用意したものだが、
派手すぎず、地味すぎず――
“突っ込ませない”を最優先にした無難な仕上がりだ。
「大丈夫?」
私が聞くと、彼女は小さく笑った。
「……怖いですけど、
覚悟はしてきました」
「それで十分」
私は立ち上がる。
「完璧じゃなくていい。
今日は“無事に帰る”が目標だから」
「逃げてもいい、ってことですか?」
「もちろん」
私は即答した。
「試用期間中だし、
拒否権も発動可能」
マルベーリャは、少し肩の力を抜いた。
会場に足を踏み入れた瞬間、
視線が集まるのが分かる。
囁き声。
値踏みの目。
露骨な好奇心。
「……来たわね」
誰かの声が、わざと聞こえるように落ちる。
私は、マルベーリャの一歩後ろに立った。
盾でも主役でもない。
“逃げ道の管理役”。
最初に近づいてきたのは、
年配の伯爵夫人だった。
「あなたが……噂の」
「マルベーリャです」
彼女は、丁寧に名乗った。
「ウィットン侯爵家の養女として、
現在、試用期間中です」
……完璧。
余計なことを言わない。
でも、立場は明確。
伯爵夫人は、一瞬だけ言葉に詰まった。
「……随分、はっきりしているのね」
「曖昧にすると、
誤解が増えると聞きました」
それは事実だ。
しかも、誰の悪口にもならない。
周囲の視線が、
わずかに変わるのを感じた。
――あ、この子、
思ったより“扱いづらい”。
それは、悪い意味じゃない。
次に来たのは、
露骨に敵意を隠さない若い令嬢だった。
「平民出身でも、
舞踏会には出られるのね」
空気が、ひやりと冷える。
マルベーリャが、私を見る。
私は、目で合図した。
――逃げ道、使っていい。
でも彼女は、一歩前に出た。
「はい」
にこりともせず、
淡々と続ける。
「制度上、問題ありませんので」
一瞬、沈黙。
令嬢は、言い返す言葉を失った。
――事実で殴ると、
だいたいこうなる。
その直後、
王太子ステルヴィオが現れた。
「楽しんでいるようだね」
公的な、完璧な笑顔。
「ええ。
学びが多いです」
マルベーリャは、そう答えた。
その一言で、
周囲は察したはずだ。
――これは“仮”じゃない。
ちゃんと、前に進む選択だ。
夜会の終盤。
私は、マルベーリャに小声で聞いた。
「どう?」
「……思ったより、
生き延びてます」
「上出来」
私は、満足げに頷く。
「初陣でそれなら、
合格点」
帰りの馬車の中。
マルベーリャは、ほっと息を吐いた。
「……逃げなくて、
よかったです」
「逃げ道があるから、
踏み出せるんだよ」
私は、そう言って窓の外を見る。
社交界は、
一夜で変わらない。
でも――
“無事に帰った”という事実は、
確実に積み上がる。
「さて」
私は、軽く伸びをした。
「次も、
逃げ道は確保していこう」
安定したサブスク生活への道は、
どうやら――
初陣クリアの判定を、
静かにもらえたらしい。
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