婚約破棄されたのでサブスク聖女始めました ―平民がダメ?なら侯爵令嬢にしますが、だから何?―

ふわふわ

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第14話 社交界デビューは、試用期間つき

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第14話 社交界デビューは、試用期間つき

 

 マルベーリャの意思が正式に王宮へ伝えられた翌朝。
 王都は、目に見えないざわめきに包まれていた。

 理由は単純だ。
 「平民の娘が、侯爵家の養女になるらしい」
 その噂が、あっという間に広がったから。

 しかも条件付き。
 試用期間あり。
 本人の意思最優先。

「……貴族社会で一番嫌われるやつだよね、それ」

 私は自室で書類をめくりながら、ぼそっと呟いた。

 前例を壊す。
 空気を読まない。
 でも、制度上は完全に合法。

 そりゃあ、荒れる。

 その日の午後、王宮の小会議室には、
 宰相、数名の高官、王太子、そして――私が呼ばれていた。

「状況は把握しているな」

 宰相が、開口一番そう言った。

「うん。
 社交界がざわついてる」

「“ざわつく”では済まん」

 別の高官が、眉をひそめる。

「平民出身の娘を、
 いきなり侯爵令嬢扱いなど……」

「扱いじゃないよ」

 私は即座に訂正した。

「“試用期間中の養女”」

 空気が一瞬、止まる。

「正式な身分確定は、
 一定期間の後」

「それまでの間は、
 ウィットン家の庇護下で学ぶ立場」

 私は淡々と続ける。

「文句つけるなら、
 どの条文に違反してるか教えてほしい」

 誰も答えられなかった。

 王太子が、静かに口を開く。

「それに、この形は――
 本人が選びました」

 その一言で、
 議論の方向が変わる。

「……本人の意思、か」

 宰相が、苦い顔で呟く。

「最近、その言葉が
 やけに重くなったな」

「いい傾向だと思うよ」

 私は肩をすくめた。

「誰も倒れないし、
 誰も無理しない」

 会議は、結論だけが淡々と決まった。

 ・養女縁組は仮成立
 ・社交界への参加は限定的
 ・発言権と拒否権は本人にあり
 ・不当な圧力は禁止

 ――貴族社会にしては、かなり革新的だ。

 その夕方。
 ウィットン侯爵邸では、
 まったく別の空気が流れていた。

「よし、まずは挨拶の仕方からだな!」

 ウィットンが、やけに張り切っている。

「……いきなり王族向けはやめてください」

 マルベーリャが、少し引き気味に言った。

「大丈夫大丈夫。
 失敗しても“試用期間中”だから」

「その言葉、便利すぎません?」

「便利だから使うんだ」

 私は、ソファに腰掛けながら二人を眺める。

「無理に完璧目指さなくていいよ」

 マルベーリャが、こちらを見る。

「でも……失敗したら、
 やっぱり叩かれますよね」

「うん」

 私は、はっきり言った。

「確実に」

 彼女が、少しだけ身構える。

「でもね」

 私は続けた。

「それ、
 “あなたが悪い”わけじゃない」

「変化を嫌う人が、
 騒いでるだけ」

 ウィットンが、にやりと笑う。

「騒ぐほど、
 話題になる」

「話題になるほど、
 既成事実になる」

 マルベーリャは、少し考えてから言った。

「……なんだか、
 怖いけど」

「怖くていい」

 私は即答した。

「怖くない改革なんて、
 だいたい誰かが無理してる」

 その夜。
 私は王宮から戻る馬車の中で、
 窓の外を眺めていた。

 試用期間。
 条件付き了承。
 本人の選択。

 どれも、
 この国では新しすぎる。

「……でも」

 小さく呟く。

「ちゃんと“選んだ”ってだけで、
 ここまで景色が変わるんだ」

 聖女の仕事も、
 婚約の話も、
 国の在り方も。

 全部が一気に変わるわけじゃない。
 でも、戻らないところまでは来た。

「さて」

 私は、軽く伸びをした。

「次は、
 社交界の洗礼か」

 安定したサブスク生活への道は、
 どうやら――
 嵐の中を、試用期間付きで進む
 そんなフェーズに入ったらしい。
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