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第16話 聖女の時給が、王宮をざわつかせる
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第16話 聖女の時給が、王宮をざわつかせる
舞踏会の翌日。
王宮は、昨夜とは別の意味で騒がしかった。
「……本当に、支払うんですか?」
執務官の声が、廊下の向こうから聞こえてくる。
「契約書に、そう書いてある」
別の声。
たぶん、宰相補佐あたりだ。
私は自室で、紅茶を飲みながら書類に目を通していた。
内容は単純。
昨日の夜会中、軽傷者三名の治癒対応――拘束時間、二時間半。
「……うん、合ってる」
数字を確認して、署名する。
それだけで、王宮が揺れるとは思わなかった。
しばらくして、宰相本人が訪ねてきた。
顔色が、少しだけ疲れている。
「シャマル……」
「おはよう」
私は軽く手を振る。
「で、何?」
「その……
聖女の“時給”についてだ」
「ああ」
私は頷いた。
「昨日、夜会の途中で呼ばれたでしょ。
だから、その分」
宰相は、言葉を選びながら言う。
「これまで、
聖女への報酬は“名誉”として扱われてきた」
「知ってる」
私は即答した。
「だから、今まで曖昧だった」
宰相は、ぐっと言葉に詰まった。
「……今回の支払いが、
前例になる可能性がある」
「うん」
私は、あっさり言う。
「なるよ」
その即答に、宰相は目を見開いた。
「前例ができると、
今後、他の聖職者や専門職も――」
「交渉するでしょ」
私は肩をすくめた。
「それ、悪いこと?」
宰相は、しばらく黙り込んだ。
「……王宮の運営が、
変わってしまう」
「変わらない方が、
おかしいと思うけど」
私は紅茶を置く。
「善意と使命感だけで回してると、
いつか必ず破綻する」
宰相は、深くため息をついた。
「……昨日の舞踏会でも、
すでに噂になっている」
「何が?」
「“聖女が、仕事として治癒を行った”と」
私は、少しだけ笑った。
「事実だね」
その日の午後。
王宮内の掲示板に、ひっそりと文書が貼り出された。
《聖女業務に関する新指針(暫定)》
・緊急対応は最優先
・拘束時間は記録
・報酬は契約に基づき支払う
誰の名前も書いていない。
でも、全員が分かっていた。
――これ、シャマル発だ。
侍女たちの空気が、少し変わった。
「……私たちも、
残業って概念、
考えていいんでしょうか」
ぽつりと零した声に、
私は思わず足を止めた。
「いいと思うよ」
即答だった。
「仕事なんだし」
その夜、王太子ステルヴィオが訪ねてきた。
公式でも非公式でもない、微妙な時間帯。
「……君、
本当に王宮を揺らすのが得意だな」
「揺らしてないよ」
私はソファに腰掛けたまま答える。
「立て直してるだけ」
彼は、苦笑した。
「父上が、
“聖女の時給”という言葉を
一日で三回も口にした」
「進歩じゃん」
「そういう問題か?」
「そういう問題」
私は、真顔で言った。
「価値がある仕事には、
対価を払う」
「それが分からない国は、
長持ちしない」
王太子は、しばらく黙っていたが、
やがて小さく頷いた。
「……マルベーリャも、
今日の噂を聞いていた」
「なんて?」
「“選んでよかった”と」
私は、少しだけ肩の力を抜いた。
「それなら、
昨日の夜会は成功だね」
窓の外では、
王宮の灯りが静かに揺れている。
誰かが無理をしない仕組み。
誰かの善意に甘えない体制。
それは、
ゆっくりだけど、確実に広がっていた。
「さて」
私は、軽く伸びをする。
「次は、
“時給聖女”が当たり前になる番かな」
安定したサブスク生活への道は、
どうやら――
王宮の常識を書き換えながら、
前に進んでいるらしい。
舞踏会の翌日。
王宮は、昨夜とは別の意味で騒がしかった。
「……本当に、支払うんですか?」
執務官の声が、廊下の向こうから聞こえてくる。
「契約書に、そう書いてある」
別の声。
たぶん、宰相補佐あたりだ。
私は自室で、紅茶を飲みながら書類に目を通していた。
内容は単純。
昨日の夜会中、軽傷者三名の治癒対応――拘束時間、二時間半。
「……うん、合ってる」
数字を確認して、署名する。
それだけで、王宮が揺れるとは思わなかった。
しばらくして、宰相本人が訪ねてきた。
顔色が、少しだけ疲れている。
「シャマル……」
「おはよう」
私は軽く手を振る。
「で、何?」
「その……
聖女の“時給”についてだ」
「ああ」
私は頷いた。
「昨日、夜会の途中で呼ばれたでしょ。
だから、その分」
宰相は、言葉を選びながら言う。
「これまで、
聖女への報酬は“名誉”として扱われてきた」
「知ってる」
私は即答した。
「だから、今まで曖昧だった」
宰相は、ぐっと言葉に詰まった。
「……今回の支払いが、
前例になる可能性がある」
「うん」
私は、あっさり言う。
「なるよ」
その即答に、宰相は目を見開いた。
「前例ができると、
今後、他の聖職者や専門職も――」
「交渉するでしょ」
私は肩をすくめた。
「それ、悪いこと?」
宰相は、しばらく黙り込んだ。
「……王宮の運営が、
変わってしまう」
「変わらない方が、
おかしいと思うけど」
私は紅茶を置く。
「善意と使命感だけで回してると、
いつか必ず破綻する」
宰相は、深くため息をついた。
「……昨日の舞踏会でも、
すでに噂になっている」
「何が?」
「“聖女が、仕事として治癒を行った”と」
私は、少しだけ笑った。
「事実だね」
その日の午後。
王宮内の掲示板に、ひっそりと文書が貼り出された。
《聖女業務に関する新指針(暫定)》
・緊急対応は最優先
・拘束時間は記録
・報酬は契約に基づき支払う
誰の名前も書いていない。
でも、全員が分かっていた。
――これ、シャマル発だ。
侍女たちの空気が、少し変わった。
「……私たちも、
残業って概念、
考えていいんでしょうか」
ぽつりと零した声に、
私は思わず足を止めた。
「いいと思うよ」
即答だった。
「仕事なんだし」
その夜、王太子ステルヴィオが訪ねてきた。
公式でも非公式でもない、微妙な時間帯。
「……君、
本当に王宮を揺らすのが得意だな」
「揺らしてないよ」
私はソファに腰掛けたまま答える。
「立て直してるだけ」
彼は、苦笑した。
「父上が、
“聖女の時給”という言葉を
一日で三回も口にした」
「進歩じゃん」
「そういう問題か?」
「そういう問題」
私は、真顔で言った。
「価値がある仕事には、
対価を払う」
「それが分からない国は、
長持ちしない」
王太子は、しばらく黙っていたが、
やがて小さく頷いた。
「……マルベーリャも、
今日の噂を聞いていた」
「なんて?」
「“選んでよかった”と」
私は、少しだけ肩の力を抜いた。
「それなら、
昨日の夜会は成功だね」
窓の外では、
王宮の灯りが静かに揺れている。
誰かが無理をしない仕組み。
誰かの善意に甘えない体制。
それは、
ゆっくりだけど、確実に広がっていた。
「さて」
私は、軽く伸びをする。
「次は、
“時給聖女”が当たり前になる番かな」
安定したサブスク生活への道は、
どうやら――
王宮の常識を書き換えながら、
前に進んでいるらしい。
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