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第17話 反発は、だいたい正論の顔をしてやって来る
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第17話 反発は、だいたい正論の顔をしてやって来る
“聖女の時給”が王宮内に貼り出されてから、三日。
表向きは静かだった。
でも、静かすぎる時はだいたい――水面下が荒れている。
「……来たね」
朝の紅茶を飲みながら、私は書類を閉じた。
扉の外で、気配が三つ。
足音が揃いすぎている。
これは偶然じゃない。
「シャマル・マセラティ公爵令嬢」
通されたのは、
王宮の中でも特に“圧”の強い部屋だった。
重臣会議室。
国王はいない。
その代わり、保守派の重鎮がずらり。
――来た来た。
「本日は、
聖女殿の最近の振る舞いについて、
確認したいことがある」
確認、ね。
「どうぞ」
私は、椅子に腰掛ける。
「まず一つ」
白髪の公爵が、ゆっくり口を開いた。
「聖女が報酬を要求するなど、
前代未聞ではないか」
「前例がなかっただけ」
即答だった。
「必要性は、前からあったでしょ」
ざわり、と空気が動く。
「聖女は、
信仰と奉仕の象徴だ」
「象徴が過労で倒れたら、
信仰も奉仕も終わるよ」
別の貴族が、声を荒げる。
「金を受け取れば、
聖性が損なわれる!」
私は、少しだけ首を傾げた。
「じゃあ聞くけど」
指を一本立てる。
「治癒のために使う薬草は、
誰が払ってる?」
「……それは、国庫だ」
「侍女や医師の給金は?」
「……国庫だ」
「じゃあ、
私の時間と体力だけ、
無限に無料なのは、なんで?」
沈黙。
誰も答えない。
「信仰ってさ」
私は、淡々と続ける。
「誰か一人を消耗させることで
成り立つものじゃないと思う」
今度は、
年若い貴族が皮肉げに笑った。
「だが、
聖女が“契約”などと言い出せば、
他の聖職者も真似をする」
「するでしょ」
私は頷いた。
「仕事なら」
「……それが国を弱体化させる」
「逆」
即答だった。
「持続できない体制のほうが、
よっぽど弱い」
部屋の空気が、重く沈む。
私は、少しだけ声を落とした。
「ねえ」
視線を一人ひとりに向ける。
「反対するなら、
“私が倒れない方法”を
具体的に出して」
「出せないなら、
今の反対は、
ただの感情論」
長い沈黙のあと。
「……」
誰も、何も言えなかった。
その日の夕方。
王太子ステルヴィオが、
いつもの“こそこそ顔”で現れた。
「……重臣会議、
行ったんだって?」
「うん」
「荒れた?」
「正論の顔した感情論だった」
彼は、苦笑する。
「君、本当に容赦ないな」
「容赦する理由、ないし」
私は肩をすくめた。
「倒れるまで奉仕しろ、
って言われてるのと同じだから」
彼は、少し真面目な顔になった。
「父上は……
今回は口を出さなかった」
「知ってる」
私は頷く。
「口を出したら、
論点ずれるから」
窓の外で、
王宮の鐘が鳴った。
改革は、
一気には進まない。
でも――
“止められなかった”
それだけで、十分だった。
「さて」
私は、立ち上がる。
「反発は想定内」
「問題は――
誰が一番早く、
“得だ”って気づくか」
王太子は、
小さく笑った。
「……君、本当に聖女なのか?」
「知らないって言ってるでしょ」
私は、扉に手を掛ける。
「でもね」
振り返って、付け加えた。
「“続く仕組み”を作るのは、
奇跡より大事」
反発はあった。
でも、誰も論破できなかった。
それだけで――
時給聖女は、
もう“例外”じゃなくなりつつあった。
“聖女の時給”が王宮内に貼り出されてから、三日。
表向きは静かだった。
でも、静かすぎる時はだいたい――水面下が荒れている。
「……来たね」
朝の紅茶を飲みながら、私は書類を閉じた。
扉の外で、気配が三つ。
足音が揃いすぎている。
これは偶然じゃない。
「シャマル・マセラティ公爵令嬢」
通されたのは、
王宮の中でも特に“圧”の強い部屋だった。
重臣会議室。
国王はいない。
その代わり、保守派の重鎮がずらり。
――来た来た。
「本日は、
聖女殿の最近の振る舞いについて、
確認したいことがある」
確認、ね。
「どうぞ」
私は、椅子に腰掛ける。
「まず一つ」
白髪の公爵が、ゆっくり口を開いた。
「聖女が報酬を要求するなど、
前代未聞ではないか」
「前例がなかっただけ」
即答だった。
「必要性は、前からあったでしょ」
ざわり、と空気が動く。
「聖女は、
信仰と奉仕の象徴だ」
「象徴が過労で倒れたら、
信仰も奉仕も終わるよ」
別の貴族が、声を荒げる。
「金を受け取れば、
聖性が損なわれる!」
私は、少しだけ首を傾げた。
「じゃあ聞くけど」
指を一本立てる。
「治癒のために使う薬草は、
誰が払ってる?」
「……それは、国庫だ」
「侍女や医師の給金は?」
「……国庫だ」
「じゃあ、
私の時間と体力だけ、
無限に無料なのは、なんで?」
沈黙。
誰も答えない。
「信仰ってさ」
私は、淡々と続ける。
「誰か一人を消耗させることで
成り立つものじゃないと思う」
今度は、
年若い貴族が皮肉げに笑った。
「だが、
聖女が“契約”などと言い出せば、
他の聖職者も真似をする」
「するでしょ」
私は頷いた。
「仕事なら」
「……それが国を弱体化させる」
「逆」
即答だった。
「持続できない体制のほうが、
よっぽど弱い」
部屋の空気が、重く沈む。
私は、少しだけ声を落とした。
「ねえ」
視線を一人ひとりに向ける。
「反対するなら、
“私が倒れない方法”を
具体的に出して」
「出せないなら、
今の反対は、
ただの感情論」
長い沈黙のあと。
「……」
誰も、何も言えなかった。
その日の夕方。
王太子ステルヴィオが、
いつもの“こそこそ顔”で現れた。
「……重臣会議、
行ったんだって?」
「うん」
「荒れた?」
「正論の顔した感情論だった」
彼は、苦笑する。
「君、本当に容赦ないな」
「容赦する理由、ないし」
私は肩をすくめた。
「倒れるまで奉仕しろ、
って言われてるのと同じだから」
彼は、少し真面目な顔になった。
「父上は……
今回は口を出さなかった」
「知ってる」
私は頷く。
「口を出したら、
論点ずれるから」
窓の外で、
王宮の鐘が鳴った。
改革は、
一気には進まない。
でも――
“止められなかった”
それだけで、十分だった。
「さて」
私は、立ち上がる。
「反発は想定内」
「問題は――
誰が一番早く、
“得だ”って気づくか」
王太子は、
小さく笑った。
「……君、本当に聖女なのか?」
「知らないって言ってるでしょ」
私は、扉に手を掛ける。
「でもね」
振り返って、付け加えた。
「“続く仕組み”を作るのは、
奇跡より大事」
反発はあった。
でも、誰も論破できなかった。
それだけで――
時給聖女は、
もう“例外”じゃなくなりつつあった。
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