17 / 39
第17話 反発は、だいたい正論の顔をしてやって来る
しおりを挟む
第17話 反発は、だいたい正論の顔をしてやって来る
“聖女の時給”が王宮内に貼り出されてから、三日。
表向きは静かだった。
でも、静かすぎる時はだいたい――水面下が荒れている。
「……来たね」
朝の紅茶を飲みながら、私は書類を閉じた。
扉の外で、気配が三つ。
足音が揃いすぎている。
これは偶然じゃない。
「シャマル・マセラティ公爵令嬢」
通されたのは、
王宮の中でも特に“圧”の強い部屋だった。
重臣会議室。
国王はいない。
その代わり、保守派の重鎮がずらり。
――来た来た。
「本日は、
聖女殿の最近の振る舞いについて、
確認したいことがある」
確認、ね。
「どうぞ」
私は、椅子に腰掛ける。
「まず一つ」
白髪の公爵が、ゆっくり口を開いた。
「聖女が報酬を要求するなど、
前代未聞ではないか」
「前例がなかっただけ」
即答だった。
「必要性は、前からあったでしょ」
ざわり、と空気が動く。
「聖女は、
信仰と奉仕の象徴だ」
「象徴が過労で倒れたら、
信仰も奉仕も終わるよ」
別の貴族が、声を荒げる。
「金を受け取れば、
聖性が損なわれる!」
私は、少しだけ首を傾げた。
「じゃあ聞くけど」
指を一本立てる。
「治癒のために使う薬草は、
誰が払ってる?」
「……それは、国庫だ」
「侍女や医師の給金は?」
「……国庫だ」
「じゃあ、
私の時間と体力だけ、
無限に無料なのは、なんで?」
沈黙。
誰も答えない。
「信仰ってさ」
私は、淡々と続ける。
「誰か一人を消耗させることで
成り立つものじゃないと思う」
今度は、
年若い貴族が皮肉げに笑った。
「だが、
聖女が“契約”などと言い出せば、
他の聖職者も真似をする」
「するでしょ」
私は頷いた。
「仕事なら」
「……それが国を弱体化させる」
「逆」
即答だった。
「持続できない体制のほうが、
よっぽど弱い」
部屋の空気が、重く沈む。
私は、少しだけ声を落とした。
「ねえ」
視線を一人ひとりに向ける。
「反対するなら、
“私が倒れない方法”を
具体的に出して」
「出せないなら、
今の反対は、
ただの感情論」
長い沈黙のあと。
「……」
誰も、何も言えなかった。
その日の夕方。
王太子ステルヴィオが、
いつもの“こそこそ顔”で現れた。
「……重臣会議、
行ったんだって?」
「うん」
「荒れた?」
「正論の顔した感情論だった」
彼は、苦笑する。
「君、本当に容赦ないな」
「容赦する理由、ないし」
私は肩をすくめた。
「倒れるまで奉仕しろ、
って言われてるのと同じだから」
彼は、少し真面目な顔になった。
「父上は……
今回は口を出さなかった」
「知ってる」
私は頷く。
「口を出したら、
論点ずれるから」
窓の外で、
王宮の鐘が鳴った。
改革は、
一気には進まない。
でも――
“止められなかった”
それだけで、十分だった。
「さて」
私は、立ち上がる。
「反発は想定内」
「問題は――
誰が一番早く、
“得だ”って気づくか」
王太子は、
小さく笑った。
「……君、本当に聖女なのか?」
「知らないって言ってるでしょ」
私は、扉に手を掛ける。
「でもね」
振り返って、付け加えた。
「“続く仕組み”を作るのは、
奇跡より大事」
反発はあった。
でも、誰も論破できなかった。
それだけで――
時給聖女は、
もう“例外”じゃなくなりつつあった。
“聖女の時給”が王宮内に貼り出されてから、三日。
表向きは静かだった。
でも、静かすぎる時はだいたい――水面下が荒れている。
「……来たね」
朝の紅茶を飲みながら、私は書類を閉じた。
扉の外で、気配が三つ。
足音が揃いすぎている。
これは偶然じゃない。
「シャマル・マセラティ公爵令嬢」
通されたのは、
王宮の中でも特に“圧”の強い部屋だった。
重臣会議室。
国王はいない。
その代わり、保守派の重鎮がずらり。
――来た来た。
「本日は、
聖女殿の最近の振る舞いについて、
確認したいことがある」
確認、ね。
「どうぞ」
私は、椅子に腰掛ける。
「まず一つ」
白髪の公爵が、ゆっくり口を開いた。
「聖女が報酬を要求するなど、
前代未聞ではないか」
「前例がなかっただけ」
即答だった。
「必要性は、前からあったでしょ」
ざわり、と空気が動く。
「聖女は、
信仰と奉仕の象徴だ」
「象徴が過労で倒れたら、
信仰も奉仕も終わるよ」
別の貴族が、声を荒げる。
「金を受け取れば、
聖性が損なわれる!」
私は、少しだけ首を傾げた。
「じゃあ聞くけど」
指を一本立てる。
「治癒のために使う薬草は、
誰が払ってる?」
「……それは、国庫だ」
「侍女や医師の給金は?」
「……国庫だ」
「じゃあ、
私の時間と体力だけ、
無限に無料なのは、なんで?」
沈黙。
誰も答えない。
「信仰ってさ」
私は、淡々と続ける。
「誰か一人を消耗させることで
成り立つものじゃないと思う」
今度は、
年若い貴族が皮肉げに笑った。
「だが、
聖女が“契約”などと言い出せば、
他の聖職者も真似をする」
「するでしょ」
私は頷いた。
「仕事なら」
「……それが国を弱体化させる」
「逆」
即答だった。
「持続できない体制のほうが、
よっぽど弱い」
部屋の空気が、重く沈む。
私は、少しだけ声を落とした。
「ねえ」
視線を一人ひとりに向ける。
「反対するなら、
“私が倒れない方法”を
具体的に出して」
「出せないなら、
今の反対は、
ただの感情論」
長い沈黙のあと。
「……」
誰も、何も言えなかった。
その日の夕方。
王太子ステルヴィオが、
いつもの“こそこそ顔”で現れた。
「……重臣会議、
行ったんだって?」
「うん」
「荒れた?」
「正論の顔した感情論だった」
彼は、苦笑する。
「君、本当に容赦ないな」
「容赦する理由、ないし」
私は肩をすくめた。
「倒れるまで奉仕しろ、
って言われてるのと同じだから」
彼は、少し真面目な顔になった。
「父上は……
今回は口を出さなかった」
「知ってる」
私は頷く。
「口を出したら、
論点ずれるから」
窓の外で、
王宮の鐘が鳴った。
改革は、
一気には進まない。
でも――
“止められなかった”
それだけで、十分だった。
「さて」
私は、立ち上がる。
「反発は想定内」
「問題は――
誰が一番早く、
“得だ”って気づくか」
王太子は、
小さく笑った。
「……君、本当に聖女なのか?」
「知らないって言ってるでしょ」
私は、扉に手を掛ける。
「でもね」
振り返って、付け加えた。
「“続く仕組み”を作るのは、
奇跡より大事」
反発はあった。
でも、誰も論破できなかった。
それだけで――
時給聖女は、
もう“例外”じゃなくなりつつあった。
0
あなたにおすすめの小説
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
あなたが捨てた花冠と后の愛
小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。
順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。
そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。
リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。
そのためにリリィが取った行動とは何なのか。
リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。
2人の未来はいかに···
妹なんだから助けて? お断りします
たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。
私を追い出したければどうぞご自由に
睡蓮
恋愛
伯爵としての立場を有しているグルームは、自身の婚約者として同じく貴族令嬢であるメレーナの事を迎え入れた。しかし、グルームはその関係を築いていながらソフィアという女性に夢中になってしまい、メレーナに適当な理由を突き付けてその婚約を破棄してしまう。自分は貴族の中でも高い地位を持っているため、誰も自分に逆らうことはできない。これで自分の計画通りになったと言うグルームであったが、メレーナの後ろには貴族会の統括であるカサルがおり、二人は実の親子のような深い絆で結ばれているという事に気づかなかった。本気を出したカサルの前にグルームは一方的に立場を失っていくこととなり、婚約破棄を後悔した時にはすべてが手遅れなのだった…。
「婚約破棄だ」と笑った元婚約者、今さら跪いても遅いですわ
ゆっこ
恋愛
その日、私は王宮の大広間で、堂々たる声で婚約破棄を宣言された。
「リディア=フォルステイル。お前との婚約は――今日をもって破棄する!」
声の主は、よりにもよって私の婚約者であるはずの王太子・エルネスト。
いつもは威厳ある声音の彼が、今日に限って妙に勝ち誇った笑みを浮かべている。
けれど――。
(……ふふ。そう来ましたのね)
私は笑みすら浮かべず、王太子をただ静かに見つめ返した。
大広間の視線が一斉に私へと向けられる。
王族、貴族、外交客……さまざまな人々が、まるで処刑でも始まるかのように期待の眼差しを向けている。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる