婚約破棄されたのでサブスク聖女始めました ―平民がダメ?なら侯爵令嬢にしますが、だから何?―

ふわふわ

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第18話 噂は武器、沈黙は同意

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第18話 噂は武器、沈黙は同意

 

 重臣会議から数日。
 王宮は、妙に“普通”だった。

 怒鳴り込みもない。
 呼び出しもない。
 抗議文も、正式には届いていない。

「……これ、
 一番やりにくいやつだな」

 私は自室の机に肘をつき、書類の端を指で叩いた。
 反発がないわけじゃない。
 声に出して反対しなくなっただけ。

 つまり――
 様子見。

 そして、様子見が長引くほど、
 “既成事実”は強くなる。

 その日の昼下がり。
 王宮の回廊で、侍女たちの囁きが耳に入った。

「……昨日の急患、
 時間外だったけど、
 ちゃんと記録つけてたわよね」

「ええ。
 あの新しい用紙」

「時給、
 本当に払われるって」

 私は、足を止めずに通り過ぎる。

 ――来てる。

 噂は、反対より早く広がる。
 しかも、“得をする話”は特に。

 午後、宰相が訪ねてきた。
 書類の束を抱え、珍しく疲れた顔だ。

「シャマル……」

「うん」

 私は、先を促す。

「聖女業務の新指針だが……」

「反対?」

「……実務側は、
 むしろ歓迎している」

 私は、内心で小さく頷いた。

「理由は?」

「記録が明確になった。
 呼び出しの判断基準も整理された」

 宰相は、紙を一枚差し出す。

「無駄な待機が減った。
 結果、
 他の医療体制も動かしやすくなった」

「でしょ」

 私は、即答した。

「沈黙してる重臣たちは?」

「……表立って反対できなくなった」

 宰相は、苦笑する。

「実務が回っている以上、
 “国が困っている”とは言えん」

 それが、最大の勝利条件だった。

「噂は?」

「広がっている」

 宰相は、少し声を落とす。

「“聖女が、
 自分の仕事を守った”と」

 私は、少しだけ目を細めた。

「いい噂だね」

「危険でもある」

「知ってる」

 私は肩をすくめた。

「でも、
 沈黙は同意って言うでしょ」

 宰相は、しばらく考え込んでから頷いた。

「……確かに」

 その夜。
 王太子ステルヴィオが、
 いつもの“生垣ルート”で現れた。

「……最近、
 父上が何も言わない」

「言えないんだよ」

 私は、窓辺に寄りかかる。

「もう、“問題”じゃなくなってきてる」

「それ、
 君が一番得意なやつだな」

「否定しない」

 私は、素直に認めた。

「大騒ぎするより、
 静かに回すほうが、
 止めにくい」

 王太子は、少し考えてから言った。

「マルベーリャも……
 社交界で、
 “扱いが変わってきた”らしい」

「でしょ」

「敵意より、
 探りが増えた」

「それも進歩」

 私は、指を鳴らす。

「敵意は正面から来る。
 探りは、
 もう“無視できない存在”って証拠」

 王太子は、静かに息を吐いた。

「……君、
 本当に戦わないな」

「戦う必要ないときはね」

 私は、淡々と答える。

「仕組みが動いてるなら、
 人は勝手に適応する」

 窓の外。
 王宮の灯りが、
 昨日より少し多い気がした。

 声高な反対は、
 もう聞こえない。

 代わりに広がるのは、
 噂と実感。

 “意外と、困らなかった”
 “むしろ、楽になった”

 それが広がった時点で、
 改革は半分終わっている。

「さて」

 私は、軽く伸びをする。

「次は、
 “静かに得する人”が
 前に出てくる番」

 沈黙は同意。
 噂は武器。

 この国は、
 もう引き返せないところまで、
 静かに進んでいた。
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