婚約破棄されたのでサブスク聖女始めました ―平民がダメ?なら侯爵令嬢にしますが、だから何?―

ふわふわ

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第19話 静かに得する人たちが、名乗り出る

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第19話 静かに得する人たちが、名乗り出る

 

 変化は、いつも端から始まる。

 声が大きい人じゃない。
 反対もしない。
 賛成も声高に言わない。

 ただ――
 ちゃっかり順応する人から、動く。

「……聖女様、少しご相談が」

 最初に来たのは、王宮医務局の副長だった。
 白衣の袖をきっちり整え、必要以上に丁寧な姿勢。

「どうぞ」

 私は書類から目を上げる。

「新指針に合わせて、
 治癒依頼の“事前判断”を医務局で行う案を考えまして」

 ああ、来た。

「聖女様を呼ぶ前に、
 通常治療で対応できるか、
 我々が一次判定する形です」

 私は、少し考える素振りを見せてから頷いた。

「いいと思う」

 副長は、ほっと息を吐いた。

「その代わり、
 緊急と判断した場合は、
 即呼び出しで」

「当然」

 私は頷く。

「判断基準、
 一緒に作ろう」

 副長の目が、少し輝いた。

 ――得をしてる。

 無駄な待機が減る。
 責任の所在が明確になる。
 しかも、聖女に丸投げしなくていい。

 午後には、別の訪問者が来た。

「……その、
 侍女長として、
 勤務表の件で」

 来たのは、王宮侍女長。
 この人が動くときは、
 だいたい“現場が限界”のサインだ。

「残業時間の記録を、
 正式に導入したいのですが」

 私は、即答した。

「いいよ」

「よろしいのですか?」

「仕事だし」

 それだけで、
 侍女長の肩の力が抜けたのが分かった。

「……ありがとうございます」

 彼女は、深く頭を下げた。

 ――得をしてる人、二人目。

 夕方。
 王太子ステルヴィオが、
 例の“生垣ルート”で現れた。

「……最近、
 やけに相談が増えてないか?」

「増えてる」

 私は、あっさり言う。

「“文句言う人”じゃなくて、
 “得した人”からね」

 彼は、苦笑した。

「父上が、
 それを一番警戒している」

「でしょ」

 私は、書類を閉じる。

「静かに得する改革は、
 止められない」

「声を上げる理由が、
 なくなるから」

 王太子は、少し考えてから言った。

「……マルベーリャも、
 社交界で似た状況だ」

「どういう?」

「露骨な嫌味は減った。
 代わりに、
 “距離を測る人”が増えた」

「それも順応」

 私は、淡々と答える。

「敵対じゃなく、
 計算に入れ始めた証拠」

 その夜。
 私は、窓辺で王宮の灯りを眺めていた。

 改革って、
 もっと派手なものだと思ってた。

 でも実際は――
 得した人が黙って増えるだけ。

 誰も旗を振らない。
 誰も勝利宣言しない。

 ただ、
 「前より楽だね」
 「これ、悪くないね」

 その一言が、
 一番強い。

「さて」

 私は、小さく呟く。

「次は、
 “得できなかった人”が
 動く番かな」

 静かに進んだ分、
 反動も、
 きっと静かに来る。

 でも――
 もう戻れない。

 だって今、
 前より困ってる人が、
 誰もいないのだから。

 安定したサブスク生活への道は、
 いつの間にか――
 周囲を巻き込みながら、
 当たり前になり始めていた。
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