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第20話 困らなかった人たちが、盾になる
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第20話 困らなかった人たちが、盾になる
変化が当たり前になり始めると、
次に起きるのは決まっている。
――戻そうとする動きだ。
それは、怒鳴り声でも、正面衝突でもない。
もっと静かで、もっと厄介な形でやって来る。
「……“暫定措置を見直すべきではないか”?」
その言葉を聞いたのは、
王宮の廊下を歩いているときだった。
重臣の一人が、
宰相に“善意の助言”をしている声。
私は、足を止めない。
聞こえなかったふりをする。
――来たな。
同日の午後。
宰相が、少し困った顔で私を訪ねてきた。
「シャマル……」
「うん」
私は、先を促す。
「一部の重臣から、
“そろそろ原状復帰を”という声が出ている」
「理由は?」
「……明確ではない」
私は、内心で笑った。
「不便になった?」
「いいや」
「混乱してる?」
「むしろ逆だ」
「じゃあ、
困ってるのは“感情”だけだね」
宰相は、深くため息をついた。
「……否定できん」
その日の夕方。
意外な来客があった。
王宮医務局の副長。
侍女長。
さらに、文官部門の調整役まで。
全員、
呼んでいないのに来た。
「聖女様」
副長が、代表して口を開く。
「もし、
新指針が撤回されるようなことがあれば……」
私は、黙って聞く。
「医務局として、
正式に意見書を提出します」
侍女長も、静かに頷いた。
「現場は、
今の体制で回っています」
「以前に戻す理由が、
見当たりません」
文官が、書類を差し出す。
「業務効率、
残業時間、
予算消費――」
「すべて、
改善しています」
私は、少しだけ目を細めた。
――盾、できてる。
声を上げたのは、
“聖女の味方”じゃない。
**“困らなかった人たち”**だ。
「ありがとう」
私は、静かに言った。
「でもね」
一拍置く。
「これは、
私を守るためじゃない」
全員が、こちらを見る。
「自分たちの仕事を守るためでしょ」
副長は、苦笑した。
「……おっしゃる通りです」
「だから、強い」
私は、はっきり言った。
「感情じゃなく、
実務だから」
その夜。
王太子ステルヴィオが、
いつもの場所に現れた。
「……聞いた」
「うん」
「現場が、
父上に意見書を出すらしい」
「出すね」
私は、窓の外を見る。
「止められない」
彼は、静かに息を吐いた。
「……君、
味方を集めた覚えは?」
「ないよ」
私は、肩をすくめる。
「困らなかった人が、
勝手に残っただけ」
王太子は、少し笑った。
「それが、
一番厄介だな」
「でしょ」
私は、軽く伸びをする。
「改革って、
敵を倒すことじゃない」
「戻る理由を、
なくすこと」
王宮の灯りが、
静かに揺れている。
大きな拍手も、
劇的な勝利宣言もない。
でも――
戻せなくなった。
それだけで、
十分すぎる成果だ。
「さて」
私は、心の中で呟く。
「サブスク生活、
いよいよ“安定期”に入ったかな」
国も、
王宮も、
人の働き方も。
誰も困らないなら、
それが正解だ。
そしてその正解は、
もう――
一人の聖女のものじゃなくなっていた。
変化が当たり前になり始めると、
次に起きるのは決まっている。
――戻そうとする動きだ。
それは、怒鳴り声でも、正面衝突でもない。
もっと静かで、もっと厄介な形でやって来る。
「……“暫定措置を見直すべきではないか”?」
その言葉を聞いたのは、
王宮の廊下を歩いているときだった。
重臣の一人が、
宰相に“善意の助言”をしている声。
私は、足を止めない。
聞こえなかったふりをする。
――来たな。
同日の午後。
宰相が、少し困った顔で私を訪ねてきた。
「シャマル……」
「うん」
私は、先を促す。
「一部の重臣から、
“そろそろ原状復帰を”という声が出ている」
「理由は?」
「……明確ではない」
私は、内心で笑った。
「不便になった?」
「いいや」
「混乱してる?」
「むしろ逆だ」
「じゃあ、
困ってるのは“感情”だけだね」
宰相は、深くため息をついた。
「……否定できん」
その日の夕方。
意外な来客があった。
王宮医務局の副長。
侍女長。
さらに、文官部門の調整役まで。
全員、
呼んでいないのに来た。
「聖女様」
副長が、代表して口を開く。
「もし、
新指針が撤回されるようなことがあれば……」
私は、黙って聞く。
「医務局として、
正式に意見書を提出します」
侍女長も、静かに頷いた。
「現場は、
今の体制で回っています」
「以前に戻す理由が、
見当たりません」
文官が、書類を差し出す。
「業務効率、
残業時間、
予算消費――」
「すべて、
改善しています」
私は、少しだけ目を細めた。
――盾、できてる。
声を上げたのは、
“聖女の味方”じゃない。
**“困らなかった人たち”**だ。
「ありがとう」
私は、静かに言った。
「でもね」
一拍置く。
「これは、
私を守るためじゃない」
全員が、こちらを見る。
「自分たちの仕事を守るためでしょ」
副長は、苦笑した。
「……おっしゃる通りです」
「だから、強い」
私は、はっきり言った。
「感情じゃなく、
実務だから」
その夜。
王太子ステルヴィオが、
いつもの場所に現れた。
「……聞いた」
「うん」
「現場が、
父上に意見書を出すらしい」
「出すね」
私は、窓の外を見る。
「止められない」
彼は、静かに息を吐いた。
「……君、
味方を集めた覚えは?」
「ないよ」
私は、肩をすくめる。
「困らなかった人が、
勝手に残っただけ」
王太子は、少し笑った。
「それが、
一番厄介だな」
「でしょ」
私は、軽く伸びをする。
「改革って、
敵を倒すことじゃない」
「戻る理由を、
なくすこと」
王宮の灯りが、
静かに揺れている。
大きな拍手も、
劇的な勝利宣言もない。
でも――
戻せなくなった。
それだけで、
十分すぎる成果だ。
「さて」
私は、心の中で呟く。
「サブスク生活、
いよいよ“安定期”に入ったかな」
国も、
王宮も、
人の働き方も。
誰も困らないなら、
それが正解だ。
そしてその正解は、
もう――
一人の聖女のものじゃなくなっていた。
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