婚約破棄されたのでサブスク聖女始めました ―平民がダメ?なら侯爵令嬢にしますが、だから何?―

ふわふわ

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第21話 王太子、板挟みをやめる

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第21話 王太子、板挟みをやめる

 

 王太子ステルヴィオが、珍しく“正面から”私を訪ねてきた。

 生垣の陰でも、回廊の曲がり角でもない。
 ちゃんとした応接室。
 扉も閉めない。

「……今日は、逃げ場なし?」

 私が言うと、彼は苦笑した。

「逃げる話じゃないから」

 その一言で、空気が変わる。

 彼は、いつもの公的な姿勢ではなく、
 でも砕けすぎてもいない、
 妙に“腹を決めた顔”をしていた。

「父上と、話してきた」

「うん」

 私は、続きを促す。

「新指針を元に戻す話」

「来た?」

「来た。
 でも……」

 彼は、一瞬だけ言葉を探した。

「今回は、
 “止めなかった”」

 私は、少しだけ眉を上げる。

「止めなかった、じゃなくて?」

「止める理由が、
 見当たらなかった」

 彼は、深く息を吐いた。

「現場は回っている。
 数字も出ている。
 反対は、感情だけだ」

 私は、静かに頷く。

「それを、
 王太子の立場で言った」

 それは、軽い一歩じゃない。

「……板挟み、
 やめたんだ」

「やめた」

 彼は、はっきり言った。

「父上の顔色と、
 現場の現実の間で、
 どちらも“まあまあ”にするのは」

「一番、
 誰も得しない」

 私の言葉を、
 彼がそのまま続けた。

「……完全に、
 影響受けてるね」

「今さら」

 彼は、少しだけ笑った。

「マルベーリャの件でも、
 同じだ」

 私は、少し身を乗り出す。

「どういう?」

「“仮の立場”のまま、
 曖昧に扱う意見が出た」

「でも?」

「却下した」

 即答だったらしい。

「本人が選んだ。
 それ以上の理由はない、
 と」

 私は、ゆっくり息を吐いた。

「それ、
 言える人、
 王宮に少ないよ」

「だから、
 言った」

 彼は、まっすぐ私を見る。

「……王太子って、
 板挟みになる役だと
 思っていた」

「うん。
 だいたいそう」

「でも」

 彼は、静かに続ける。

「板を外す役も、
 必要だと知った」

 その言葉に、
 私は小さく笑った。

「成長したね」

「言うな」

 彼は、照れたように視線を逸らす。

 窓の外では、
 王宮の庭が静かに揺れていた。

「……シャマル」

「なに」

「君が、
 全部引っ張ってるように
 見えるかもしれない」

「うん」

 否定しない。

「でも実際は」

 彼は、言葉を選んだ。

「選ばせてるだけだ」

 私は、静かに頷いた。

「それが一番、
 戻らないやり方」

 彼は、立ち上がる。

「父上は、
 まだ納得していない」

「知ってる」

「でも、
 もう押し戻せない」

「それでいい」

 私は、軽く手を振る。

「全部、
 一度に納得する必要ない」

「止めなければ、
 進むから」

 王太子は、扉の前で振り返った。

「……君」

「なに」

「聖女じゃなくても、
 たぶん、
 同じことしてたな」

「するね」

 即答だった。

「生活がかかってるし」

 彼は、吹き出した。

「……本当に、
 ぶれないな」

 扉が閉まる。

 私は、椅子に深く腰掛けた。

 板挟みをやめた王太子。
 盾になった現場。
 戻れなくなった王宮。

 大きな事件は起きていない。
 でも、
 一番難しいところを、
 もう越えた。

「さて」

 私は、小さく呟く。

「次は、
 “選ばなかった側”が
 どう動くか」

 でも――
 もう、怖くない。

 選ぶ権利が、
 ちゃんと回り始めたから。

 安定したサブスク生活は、
 どうやら――
 王太子の腹が決まった瞬間に、
 完全に現実になったらしい。
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