『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA

文字の大きさ
139 / 257

第百三十九話

しおりを挟む
「これやこれ!」

 しばらくして戻ってきた彼女が手に持っていたのは、紫色のひもで縛られた長方形の木箱、大きさとしては縦横2、30センチくらいだろうか。
 箱の大きさに比べ厚さは大したものではなく、私の親指程度あればいい方だ。

 丁寧に持ってきた割に、随分と軽い音を立てて机へ置かれた箱を覗くと、琉希がピンときた様子で口を開いた。

「ほう、これ桐の箱ですね」

 桐、実物は見たことなかったがこれがうわさに聞く高級木材か。
 なるほど、確か桐はとても軽いと聞くし、それならさっきの音も納得だ。

「んふふー、開けたら多分二人とも魂消るで?」

 彼女の口元はにんまりと弧を描いていたが、はて、この薄くて軽い箱に一体何が入っているのか。
 滅茶苦茶大きなものを持ってきたらどんなものが出てくるのかドキドキするかもしれないが、こんな小さいものでは割とたかが知れている。

 例えばそう、純金製のお面とか?
 でも結構軽そうだしなぁ、金って重いらしいし違う気がする。

「いくで? いっちゃうで?」

 なかなか焦らしてくれる橘さん。

 謎にテンションが上がり続けた彼女は、自分で焦らしておきながら私たちが何か言うのを待てなかったようで、早々に紐を解き箱を開けてしまった。
 そこまで彼女が意気揚々と持ってきた箱の中身は……

「じゃじゃーん!」
「――なにこれ」
「狐面ですね、能楽とかで使う奴ですよ」

 暗闇から現れた鮮やかな白と紅、小さな鈴で飾られた狐面。
 箱の中身は、彼女が後生大事に取り出すようには決して見えない、いたって普通のお面であった。

 確かに紅色の塗りは丁寧で、緻密な模様は素人目にも良い出来であるが、とっておきと言うにはあまりに特徴がない。
 しいて言えば所々に入った金色のアクセントが、ちょっとだけ高級感を漂わせているくらいだろう。

「実はこれ、ダンジョン内で拾った木で作られててな」
「拾った? 切ったじゃなくて?」

 切ったなら分かる。
 ダンジョンの木は切っても切っても生えてくるし、植林して切ってとするより断然楽だから。
 この桐の箱みたいに高級なものを除けば、現状流通している木材の、結構な割合がダンジョン産なんじゃないだろうか。

 私の疑問に待っていましたとばかりの頷き、彼女は椅子の上で足と腕を組んでこちらをビシッと指した。

「せや! 知り合いの職人がBダンジョンで倒したモンスターのドロップで出来てるんよこれ」
「え? 職人が倒したんですか?」
「素材は己の手で見極めてこそやって、同じモンスターからドロップしたものでもちょっとずつ質が違うらしくてなぁ。ってもあての知り合いやなくて親の方やから、ほとんど受け売りなんやけどな」

 職人がB級ダンジョン周回……いったいどんな化け物なのだろう。
 世の中にはまだ知らないことが多いらしい。

 勢いに乗った彼女の語りはとどまることを知らない。
 あれこれとこの朱色や金色、全部の素材もどこのダンジョンで取れたなんちゃらという話を繰り返し……

「それでな? 木で出来てるからかは知らんけど、こうやって光に当ててると……おっ、来た来た」

 話の途中、突然彼女が黙ったかと思うと、仮面が震え出した。

「え、なにこれ怖い」
「あの、橘さん、これ呪いのお面とか言いませんよね?」

 震えは揺れに、激しさは増すばかり。
 まあ見とき? とは彼女の言葉で、一体何が起こっているのか分からない私たちは、ただ彼女の言葉を信じ固唾をのんで見守るしかない。

 1分か、それとも数秒だったのか。
 時間の感覚が分からない異様な時間が過ぎ去った後。

「来たぁ!」

 ふわりと、突然お面が空を飛んだ。

「ふぁ!? しゅごい……」
「え、え、飛びましたけど!?」

 飛ぶといってもどっかへ飛んでいくわけではなく、机の上20センチほどを滞空しているだけ。
 しかし上や下へ手を差し込んでも何かに引っかかることもなく、風が起こっているわけでもない。
 軽く突いてもその場で微かに揺れるだけ、一旦手に取って机に押し付けてもまた浮き上がる。

 種も仕掛けもない、本当に空を飛んでいる。

「せやろ? 凄いやろ! これ浮くんよ!」

 最初は彼女の謎の興奮に引いていた私たちであったが、流石にこれには興奮を隠せない。
 マジで飛んでる、すげーというアホっぽい感想しか出てこなかった。

 そういえば以前あった安心院さんも空を飛んでいたが、あれは結構近くにいた私にも結構な風が来ていたし、この狐面のように風もなく浮くというのは……ああ、そういえばあの『炎来』で助けてくれたコートの人がそうだったか。

 ともかくなかなか見ないものだ。

「凄い、高そう」

 とっておきと言うだけはあった。
 ダンジョン産の素材を惜しげもなく使い作られた浮くお面、戦いにはあまり役に立ちそうにないが欲しい人はいるんじゃないだろうか。

「しかもこれ被るとなんかよく分からんけど目元に風が入ってこないんよ、睫毛が煽られへんのや」
「それはゴーグルで良いと思う」
「風除けだけのためにこのお面はちょっとレベルが高いですね」

 謎のゴーグル機能付きだった。
 それはともかく……

「これ売らないの?」
「最初は結構な値段で大々的に売り出したんやけど……常連はんに呪われそうだの不気味だの言われてなぁ、結局倉庫の裏で塩漬けにされとったのをあてがこの前見っけたんや」

 あれ? それってもしかして 

「不良在庫じゃん」
「ですねー」
「なっ、このいなりんのかわいらしさが分からへん奴らがあかんねん!」

 可愛くはないと思う、というか勝手に商品に『いなりん』なんて名前つけてるけどダメじゃないか。

 本人曰く毎日取り出しては飾り、被り、拭いているらしい。
 ものすごい気に入っているじゃないか、もうそれ売らずに自分で大事に持っておいとくべきだと思う。

 凄いやろ? 可愛いやろ? と自分の子供を自慢する勢いであった橘さんだが、ふと彼女の瞳に寂し気な光が零れた。
 何か置き去りにされたような、孤独を湛えているような、そんな顔だ。

「でもな、いなりん不良在庫なんよ……売れ残り過ぎると倉庫整理の時に捨てられちゃうんや……あても大切にしておきたいんやけど、あての部屋に多様なもの沢山あるから、いなりん置く場所がなくてなぁ……」

 やっぱり不良在庫なんじゃん。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう
ファンタジー
運び屋(ポーター)のルカ・ブライオンは、冒険者パーティーを追放された。ーーが、正直痛くも痒くもなかった。何故なら仕方なく同行していただけだから。 ルカの魔法適正は、運び屋(ポーター)に適した収納系魔法のみ。 攻撃系魔法の適正は皆無だけれど、なんなら独りで魔窟(ダンジョン)にだって潜れる、ちょっと底無しで少し底知れない運び屋(ポーター)。 そんなルカの日常と、ときどき魔窟(ダンジョン)と周囲の人達のお話。 ※タグの「恋愛要素あり」は年の差恋愛です。 ※ごくまれに残酷描写を含みます。 ※【小説家になろう】様にも掲載しています。

処理中です...