『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA

文字の大きさ
140 / 257

第百四十話

しおりを挟む
「これ、着けても外れ無くなったりしない?」
「するわけあらへんやろ! お客はんにへそないえらいもの売れへんわ!」

 ただ纏わりつくだけや、とは彼女の言葉。

 纏わりつくってのも大概怖い気がするが、要するに紐がなくても顔に被ったり、頭の横に着けておくことが出来るらしい。
 どんなに激しい動きをしても外れないそうで、確かにそれを聞くだけなら結構便利な気もする。
 具体的に何に使うかと言われたら困るが。

 外国人のダンサーとかに売ればいいんじゃないか。

「凄いやろ?」
「すごい」
「欲しくなったやろ?」
「ほし……いや、別にいらない」

 確かにダンジョンで動き回る時目に物が入ったり、風が吹きつけて前がまともに見えなくなる時もある。
 特に『アクセラレーション』を使った直後は顕著で、地面に大きく顔面を擦り付けたことも……ってあれ、これは夢の出来事だったんだっけ。
 やはりあれが夢だったとは未だに飲み込み難い、こんなに鮮明に覚えているなんて。 

 しかしふむ、あれ、このお面ちょっとほしくなってきた。
 いや待て落ち着け私、絶対いらない。無駄な物を買うとろくなことにならないぞ。

「それでな……これ買ってくれる人おらんかなぁってあては思うわけや。そう、ただ買ってくれるだけじゃない、大事に使ってくれる人をや」

 な? と、意味ありげに流し目をする橘さん。
 何となく言いたいことが分かって来た。

「琉希、帰ろ」
「ええ。面白いものを見せてもらいました、ではまた」

 帰ろうとした私たちの前に、いつの間にか席を立っていた彼女が立ちふさがる。
 足の踏みどころもないと思っていたが、店の主でもある彼女にとってはどうとでもなるらしい、無駄に動きが速い。
 もしかしてこの人来る人来る人にこれ売りつけようとしてるんじゃないだろうか、反応や行動がものすごい手馴れていた。

「まあまあ。ちょっと落ち着いてお茶でもしばこうや、和菓子も出すで?」
「フォリアちゃん気を付けてください、この人とんでもないゴミを売りつけようとしてますよ」
「いなりんはゴミちゃうわ!」

 あ、そこは本当に愛着持ってるんだ。

 しかしいくら宣伝されようと所詮は高級ゴーグルにしかならないお面。
 先ほどちょっと欲しいとは確かに思ったが、やはり購入しようと思えるほどのものではない。

 私たちがじりじりと入り口に近寄っていることに気付いたのか、橘さんはセールストークの勢いを少し緩め、新たな搦め手で来た。

「ホンマにいらんか? こないお洒落なモン持っとったら、きっと自信付くと思うけどなぁ」
「え、本当?」

 自信がつく……!?

「そらそうよ! 装飾品ってのは自分に箔をつけるために皆高くて変わったものを付けるんや。このお面をよーく見てみ? 誰も持ってなくて、しかも空まで飛ぶ。間違いなくオンリーワン、付けるだけでやる気と自信があふれてくること間違いナシや。あ、せやせや、このお面はダンジョンの素材で出来とるからな、頑丈な上、使用者が探索者なら魔力を吸って勝手に修復してくれるで!」
「た、確かに……!」

 さあ、つけてみるんやと差し出されたお面。
 半分くらい何を言っていたのか分からないが、ここまで自信満々に言われると妙な説得感がある。

 買うか? 買っちゃうか? どうあがいても粗大ごみのこれを私は買うべきなのか!?

「フォリアちゃん、乗せられてるけど正気に戻ってください。お面一つで自信が満ち溢れるは流石に無理ありますよ」
「そうかな……そうかも……」

 そうだ、冷静になれ私。
 口が上手い人間というのはどこにでもいる、彼女だってそう。
 超高級ゴーグルにしかならないこれを買っても、絶対明日には後悔しているはずだ。

 差し出しかけた手を引っ込め、しかし誘惑にまた惹かれてしまう。
 しばしの葛藤に業を煮やした橘さんは、席から立ち上がり店内を右へ左へ、戻って来た時には三つの物を握っていた。

「ほな、これも無料でつけたるわ。さっき結城はんが気に入ってたお面と槍、それと黄金のトーテムポールや!」

 彼女が差し出したのは先ほどの民族的な槍とお面。
 そしておそらく木製の、表面に塗料か金箔かで飾られた、1メートルほどの顔が連なった棒を差しだして来た。
 このゴージャスな棒はトーテムポールというらしい。

 どや? と問いかけられた琉希は、ぶるりと身を震わせ私の肩を鷲掴み

「フォリアちゃん、これ買いましょう! お金の半分は私が出すので!」



 蝉の合唱にカラスが割り入る。

「あのさ」
「なんですか?」
「私たち、完全に不審者だよね」

 夕暮れの町、槍を右手に、黄金のトーテムポールを抱えた女と、狐のお面を嵌めた女が並び立つ。
 どう見てもやばい奴らである。もし目の前からこんなのがあるいてきたら、私なら絶対道を迂回するだろう。

 茜色に染まった木が、今更気付いたのかと騒めく。

 黄金のトーテムポールと槍を、虹色に彩られた仮面の奥からじっと見つめ、無言で琉希はアイテムボックスへそれらを仕舞う。
 私同様謎の熱に浮かされていた彼女も、歩いているうちに冷静に戻ったのだろう、私の問いかけを聞き流し口を開いた。

「もう夕方ですねぇ」
「会ったの昼だからね」

 楽しかった。
 でも楽しかったからこそ、ふと冷静に戻ったこの瞬間が恐ろしい。

 不安が鎌首をもたげた。。
 目を逸らしていた不気味な記憶の欠如、世間の認識から取り残された恐怖が這い上がってくる。
 誰かに話したところで取り合ってくれない、自分ですら疑っているのだから、頭のおかしい奴だと思われるのがオチだ。

 隣の少女へ遠まわしに、出来る限り何気なく聞いた……つもりだけど、きっと今、私の声は震えている。

「琉希はさ、自分の記憶が信じられなくなった時どうする? 覚えていたものと実際の物が違う時、どうしたらいいと思う?」
「え……えーっと、そうですね。まあ普通確かめるんじゃないですかね?」
「確かめる……?」

 確かめる、一体何を?
 実際に存在しなかったのなら、それを確かめる方法なんてどこにもない。
 容易に変化する人の記憶だけではなく、決して消えることのない電子のデータすらも欠片たりとて残っていなかったのに、どうして確かめることが出来るだろうか。

 それが出来ないから、今こんな恐怖に犯されているというのに。

「ええ。まあ急いでて時間がないとかなら放置しますけど、なんで間違えたのか、何と勘違いしたのか、或いは見逃しているものが何なのか……すり合わせますね」
「あ……!」

 彼女の言葉を受けて、ピンと一本の糸が通った。

 私は、何かを見逃している……!?

 細い糸だ。
 容易く切れてしまうかもしれない糸だ、でも今、確かに私は思い出せた。
 慎重に手繰り寄せる必要がある、この大して賢くもない頭をしっかりと働かせて、神経を限界まで張り巡らせて。

「ごめん、用事が出来た」
「あ、もう帰るんですか? ご飯でも食べに行こうかと思ってたんですけど……」

 彼女にもう一度頭を下げる。
 きっと彼女に今日会わなければ、私はこの不気味な違和感を抱えたまま、結局自分では気づくことが出来ずにいた。

「琉希」
「はい?」
「ありがと」

 コンクリートを蹴飛ばし、闇へ飲み込まれる町を走り抜ける。
 知るんだ、見えなかったものを。

「あ、行っちゃった……ま、よく分かんないですけど……元気になったっぽいからヨシですね!」
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう
ファンタジー
運び屋(ポーター)のルカ・ブライオンは、冒険者パーティーを追放された。ーーが、正直痛くも痒くもなかった。何故なら仕方なく同行していただけだから。 ルカの魔法適正は、運び屋(ポーター)に適した収納系魔法のみ。 攻撃系魔法の適正は皆無だけれど、なんなら独りで魔窟(ダンジョン)にだって潜れる、ちょっと底無しで少し底知れない運び屋(ポーター)。 そんなルカの日常と、ときどき魔窟(ダンジョン)と周囲の人達のお話。 ※タグの「恋愛要素あり」は年の差恋愛です。 ※ごくまれに残酷描写を含みます。 ※【小説家になろう】様にも掲載しています。

処理中です...