言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹

文字の大きさ
20 / 78
成り立てほやほや王女殿下の初仕事

08 引き際

しおりを挟む


 特級ポーションが効いたのか、それとも、特級ポーションが来るまで、上級ポーションを使って保たしていたのがよかったのか、先兵の呼吸が安定してきた。心配していた、黒く爛れ腐っていた箇所は、少し変色しただけですんだみたい。食い千切られた箇所も治っている。

「…………もう、大丈夫でしょう」

 治療師の声に、その場にいる全員ホッと胸を撫で下ろした。 

「よくやったな」

 イシリス様が頭を撫でてくれた。

「よかった……本当によかった……ありがとうございます!! ミネリア王女殿下!!」

 いつの間にか目を覚ましていた相棒の先兵が、涙ながらに私に礼を言った。

「当然のことをしたまでですわ。貴方たちは、我がベルケイド王国の大事な民ですもの」

「ミネリア王女殿下……」

 いやいや、そこまで泣かなくても……皆、感動したように私を見てくるし、ちょっと恥ずかしいんだけど。なので、私は軽く咳をしてから話を反らすことにした。

「それで、訊きたいのだけど、マントの町は生きる屍に支配された状態なのかしら?」

「はい……これまでの村とは違い、生きる屍がばっこしております」

「そう……で、あの少年は?」

「教会の地下室に隠れていたのを保護しました」

 建物は壊れても、地下室までは及ばなかったってことね。そこまでの頭脳はないみたい。本能が勝ったってところね。

「他に生存者は?」

 そう尋ねると、先兵は少し顔を曇らせる。

「実は……地下室にもう一人隠れていました。しかし……」

「噛まれていたのね」

「はい。皮膚は黒く爛れ、腐臭がし、生きる屍に変貌する一歩手前の状態でした。辛うじて、人の意識が残っていたのでしょう、俺たちに少年を託し、自ら地下室の扉を閉めました」

「そう……」

 私は胸の奥が痛み顔を歪ませる。

「そのすぐ後、俺たちも襲われてしまい、このようなことに」

「……わかったわ。今はゆっくりと休んで」

 私は治療師に二人を頼むと、テントを出た直後、

「あんた、偉いんだろ!! 姉さんを助けて!! まだ、あの地下室にいるんだ!!」

 少年が私に縋り付き、懇願する。聖騎士が引き離そうとしたのを、私は止めた。

 そう……先兵に少年を託したのは、彼の姉だったのね。私も助けてあげたい。でも、それは不可能だわ。

「先兵に貴方を託した時、彼女はもう呪いで生きる屍化していたそうよ。今から向かっても、貴方の姉を助けることはできないわ」

 酷だが、はっきりと私は告げた。

「あのおっさんは助かったんだろ!! なら、姉さんも!!」

「貴方の姉さんがこの場にいるのなら、治療はできるわ。でも、いない」

「だったら、助けに行ってよ!!」

 少年は私の上着を掴み、涙をボロボロと流しながら必死で助けるよう懇願する。

 その時、お父様が言った言葉が頭を過ぎった。

 情に流されるなーー。

 その通りだわ。

 情に流されてはいけない。

 私はこの隊全員の命を預かっているのよ。私の無責任な一言で、死ぬ者が出るのがわかっているのに、それを突き通すことはできない。ましてや、ここは他国なのよ。

「私の民を、他国のために、これ以上危険な目に晒すわけにはいかないわ」

「……どうしてだよ!! 戦う力があるのに、見捨てるのかよ!!」

 少年の目には憎しみの炎が宿っていた。それを咎めるつもりはない。

「貴方にどう思われても構わない。私は私の民を護るわ。むざむざ、死にに行くのを認めるわけにはいかない」

 憎まれても、この決定を覆すつもりはないわ。

 少年は「絶対、俺はお前を許さない!!」と怒鳴ると駆け出した。

「ミネリア王女殿下は間違ってはおりません」

「ああ。ミネリアは間違ってない」

 聖騎士とイシリス様がそう慰めてくれる。イシリス様は私の肩を抱き寄せ、抱き締めてくれた。

「私は、あの少年に恨まれるでしょうね」

 そうポツリと呟いてから、私は聖騎士に向かって告げた。

「この時点をもって、ベルケイド王国に帰還します」

 生者の臭いに敏感な生きる屍。

 このままこの場に留まれば、囲まれるのも時間の問題だからね。マントの町はそれなりに大きな町だったし。いくら、イシリス様の結界があって安全でも、囲まれれば面倒だからね。

 ここが引き際だわ。



 
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

その発言、後悔しないで下さいね?

風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。 一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。 結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。 一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。 「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が! でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません! 「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」 ※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※クズがいますので、ご注意下さい。 ※ざまぁは過度なものではありません。

それは私の仕事ではありません

mios
恋愛
手伝ってほしい?嫌ですけど。自分の仕事ぐらい自分でしてください。

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです

風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。 婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。 そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!? え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!? ※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。 ※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。 だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。 私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。 ……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。 しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。 えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた? いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

処理中です...