言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹

文字の大きさ
22 / 78
成り立てほやほや王女殿下の初仕事

10 聖騎士

しおりを挟む


 少年は生きる道を選んだみたいね。

 列の最後尾を、必死で歩いて付いて来ているのが見えた。ポーションは返したようね。持ってないから。ならいいわ。それよりも、

「あの少年を荷台に」

 私は傍に控えていた聖騎士に命じる。

 だって、このままだとスピードが上げられないじゃない。チンタラ進んでる余裕はないの。少年が生きると選んだ以上、彼は保護対象になったんだから。

「畏まりました」

 聖騎士はそう答えると、最後尾にいる少年を荷物のように担ぐと荷台に放り込んだ。

「スピードを上げます」

 それを確認してから、私は隊全体に命じた。

 イシリス様の結界が解かれるまで、まだ時間はあるけど、隊には民間人と怪我人がいるからね。距離はできるだけとっておいた方がいい。

 まぁこの先は、往路で駆除してきたから生きる屍はいないと思うけど、絶対とは言えないからね。警戒を怠らないように進まないと。

 全員無事に帰る。

 それが、私に科せられた使命なのだから。

 スピードを上げたおかげで、マントの町からかなりの距離をとることができた。遠く離れた崖の上で、マントの町が豆粒のように見える。

 安全を確認してから、私はここで隊を止めた。念のためにイシリス様に結界を張ってもらう。

 すると、少年が荷台から降りて来た。

 両膝を付いてボロボロと声を上げ嗚咽する少年。その視線の先は、マントの町。

 私を含め全員が膝を付き、頭を垂れ冥福を祈った。救えない今、私たちにできるのはそれだけだから。

「……どうして?」

 しばらくしてから、少年はか細い声で尋ねてきた。

「生きる屍は呪われた存在。でも、それは憐れで悲しき者たちの姿。誰が好き好んで生きる屍になるの。なりたくてなったんじゃない。人ではなくなっても、人だった者たちよ。最低限の敬意を払わなければならないわ。だから、私たちは彼らの冥福を祈るの」

「…………訊いてもいい?」

 少年はおずおずしながら訊いてきた。

「何を訊きたいのですか? 答えれる範囲なら答えましょう」

「どうして、神様は俺たちを見捨てたの?」

 やはり、それが訊きたかったのね。

「それは、この王国の王族たちが、どうしようもない屑で、創世神様と聖獣様を怒らせたからです。恩恵と加護を長年受けておりながら、それが当たり前だと勘違いし、創世神様を愚弄し、聖獣様の力を自分たちのためだけに使おうと企んだからです。だから、創世神様は王国の加護を解いた」

 私は隠さずに、事実を伝えた。

「そんなのおかしいじゃないか!! 俺たちは何も悪いことしてないのに!!」

 少年の怒りはもっともね。屑王族たちのせいで、多くの民がその犠牲となったのだから。

「そうね……理不尽よね。上が馬鹿だと、下にしわ寄せがくる。一番可哀想なのは、戦う力がない民だわ。……悔しかったら、力を持ちなさい。戦う力を。なんでもいいわ、人を護れる力を身に付けなさい。こんな悲劇を二度と繰り返さないために」

 それは私にも言えることだわ。

「……なら、俺は聖騎士になる!!」

 そう答えた少年の目には、涙は浮かんでいなかった。

「厳しいわよ」

「構わない。どんな訓練も耐えてやる!! もう、こんな悲劇は二度と誰にも味わって欲しくない!!」

 大なり小なり、聖騎士を目指す者は似た経験を経ている。

「聖騎士になるのなら、これだけは覚えておきなさい。私たちは、かつて人であった者たちを手に掛けてきた。聖なる炎に焼かれた者は救われるというけど、それでも……内心、皆傷を負っている。でも、その傷を隠し剣を振るう。貴方は、その傷に耐えられる? 聖騎士は剣の技量だけじゃない。一番鍛えなければならないのは、その精神。心に柔軟性がなく、弱い者は聖騎士にはなれない。私はそう思う。だから、尊敬に値する人たちなの。わかりますよね?」

 少年は小さく頷いた。そして答える。

「……傷に耐えれるかなんてわからない。でも、耐えてみせる。そして、強くなってみせる!!」

 少年のその目には、一点の曇もなかった。

「そう……なら、試験を受けてみなさい」

 少年が聖騎士になれるかどうかはわからないけど、生きる目的を見付けることができてよかったと、私は心からそう思った。

 

しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

その発言、後悔しないで下さいね?

風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。 一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。 結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。 一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。 「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が! でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません! 「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」 ※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※クズがいますので、ご注意下さい。 ※ざまぁは過度なものではありません。

それは私の仕事ではありません

mios
恋愛
手伝ってほしい?嫌ですけど。自分の仕事ぐらい自分でしてください。

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです

風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。 婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。 そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!? え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!? ※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。 ※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

婚約解消しろ? 頼む相手を間違えていますよ?

風見ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢である、私、リノア・ブルーミングは元婚約者から婚約破棄をされてすぐに、ラルフ・クラーク辺境伯から求婚され、新たな婚約者が出来ました。そんなラルフ様の家族から、結婚前に彼の屋敷に滞在する様に言われ、そうさせていただく事になったのですが、初日、ラルフ様のお母様から「嫌な思いをしたくなければ婚約を解消しなさい。あと、ラルフにこの事を話したら、あなたの家がどうなるかわかってますね?」と脅されました。彼のお母様だけでなく、彼のお姉様や弟君も結婚には反対のようで、かげで嫌がらせをされる様になってしまいます。ですけど、この婚約、私はともかく、ラルフ様は解消する気はなさそうですが? ※拙作の「どうして私にこだわるんですか!?」の続編になりますが、細かいキャラ設定は気にしない!という方は未読でも大丈夫かと思います。 独自の世界観のため、ご都合主義で設定はゆるいです。

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。 あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。 ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。 聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。 ※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。 ※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。 ※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。

赤毛の伯爵令嬢

もも野はち助
恋愛
【あらすじ】 幼少期、妹と同じ美しいプラチナブロンドだった伯爵令嬢のクレア。 しかし10歳頃から急に癖のある赤毛になってしまう。逆に美しいプラチナブロンドのまま自由奔放に育った妹ティアラは、その美貌で周囲を魅了していた。いつしかクレアの婚約者でもあるイアルでさえ、妹に好意を抱いている事を知ったクレアは、彼の為に婚約解消を考える様になる。そんな時、妹のもとに曰く付きの公爵から婚約を仄めかすような面会希望の話がやってくる。噂を鵜呑みにし嫌がる妹と、妹を公爵に面会させたくない両親から頼まれ、クレアが代理で公爵と面会する事になってしまったのだが……。 ※1:本編17話+番外編4話。 ※2:ざまぁは無し。ただし妹がイラッとさせる無自覚系KYキャラ。 ※3:全体的にヒロインへのヘイト管理が皆無の作品なので、読まれる際は自己責任でお願い致します。

婚約破棄していただき、誠にありがとうございます!

風見ゆうみ
恋愛
「ミレニア・エンブル侯爵令嬢、貴様は自分が劣っているからといって、自分の姉であるレニスに意地悪をして彼女の心を傷付けた! そのような女はオレの婚約者としてふさわしくない!」 「……っ、ジーギス様ぁ」  キュルルンという音が聞こえてきそうなくらい、体をくねらせながら甘ったるい声を出したお姉様は。ジーギス殿下にぴったりと体を寄せた。 「貴様は姉をいじめた罰として、我が愚息のロードの婚約者とする!」  お姉様にメロメロな国王陛下はジーギス様を叱ることなく加勢した。 「ご、ごめんなさい、ミレニアぁ」 22歳になる姉はポロポロと涙を流し、口元に拳をあてて言った。 甘ったれた姉を注意してもう10年以上になり、諦めていた私は逆らうことなく、元第2王子であり現在は公爵の元へと向かう。 そこで待ってくれていたのは、婚約者と大型犬と小型犬!? ※過去作品の改稿版です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるく、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観や話の流れとなっていますのでご了承ください。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

処理中です...