言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹

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成り立てほやほや王女殿下の初仕事

10 聖騎士

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 少年は生きる道を選んだみたいね。

 列の最後尾を、必死で歩いて付いて来ているのが見えた。ポーションは返したようね。持ってないから。ならいいわ。それよりも、

「あの少年を荷台に」

 私は傍に控えていた聖騎士に命じる。

 だって、このままだとスピードが上げられないじゃない。チンタラ進んでる余裕はないの。少年が生きると選んだ以上、彼は保護対象になったんだから。

「畏まりました」

 聖騎士はそう答えると、最後尾にいる少年を荷物のように担ぐと荷台に放り込んだ。

「スピードを上げます」

 それを確認してから、私は隊全体に命じた。

 イシリス様の結界が解かれるまで、まだ時間はあるけど、隊には民間人と怪我人がいるからね。距離はできるだけとっておいた方がいい。

 まぁこの先は、往路で駆除してきたから生きる屍はいないと思うけど、絶対とは言えないからね。警戒を怠らないように進まないと。

 全員無事に帰る。

 それが、私に科せられた使命なのだから。

 スピードを上げたおかげで、マントの町からかなりの距離をとることができた。遠く離れた崖の上で、マントの町が豆粒のように見える。

 安全を確認してから、私はここで隊を止めた。念のためにイシリス様に結界を張ってもらう。

 すると、少年が荷台から降りて来た。

 両膝を付いてボロボロと声を上げ嗚咽する少年。その視線の先は、マントの町。

 私を含め全員が膝を付き、頭を垂れ冥福を祈った。救えない今、私たちにできるのはそれだけだから。

「……どうして?」

 しばらくしてから、少年はか細い声で尋ねてきた。

「生きる屍は呪われた存在。でも、それは憐れで悲しき者たちの姿。誰が好き好んで生きる屍になるの。なりたくてなったんじゃない。人ではなくなっても、人だった者たちよ。最低限の敬意を払わなければならないわ。だから、私たちは彼らの冥福を祈るの」

「…………訊いてもいい?」

 少年はおずおずしながら訊いてきた。

「何を訊きたいのですか? 答えれる範囲なら答えましょう」

「どうして、神様は俺たちを見捨てたの?」

 やはり、それが訊きたかったのね。

「それは、この王国の王族たちが、どうしようもない屑で、創世神様と聖獣様を怒らせたからです。恩恵と加護を長年受けておりながら、それが当たり前だと勘違いし、創世神様を愚弄し、聖獣様の力を自分たちのためだけに使おうと企んだからです。だから、創世神様は王国の加護を解いた」

 私は隠さずに、事実を伝えた。

「そんなのおかしいじゃないか!! 俺たちは何も悪いことしてないのに!!」

 少年の怒りはもっともね。屑王族たちのせいで、多くの民がその犠牲となったのだから。

「そうね……理不尽よね。上が馬鹿だと、下にしわ寄せがくる。一番可哀想なのは、戦う力がない民だわ。……悔しかったら、力を持ちなさい。戦う力を。なんでもいいわ、人を護れる力を身に付けなさい。こんな悲劇を二度と繰り返さないために」

 それは私にも言えることだわ。

「……なら、俺は聖騎士になる!!」

 そう答えた少年の目には、涙は浮かんでいなかった。

「厳しいわよ」

「構わない。どんな訓練も耐えてやる!! もう、こんな悲劇は二度と誰にも味わって欲しくない!!」

 大なり小なり、聖騎士を目指す者は似た経験を経ている。

「聖騎士になるのなら、これだけは覚えておきなさい。私たちは、かつて人であった者たちを手に掛けてきた。聖なる炎に焼かれた者は救われるというけど、それでも……内心、皆傷を負っている。でも、その傷を隠し剣を振るう。貴方は、その傷に耐えられる? 聖騎士は剣の技量だけじゃない。一番鍛えなければならないのは、その精神。心に柔軟性がなく、弱い者は聖騎士にはなれない。私はそう思う。だから、尊敬に値する人たちなの。わかりますよね?」

 少年は小さく頷いた。そして答える。

「……傷に耐えれるかなんてわからない。でも、耐えてみせる。そして、強くなってみせる!!」

 少年のその目には、一点の曇もなかった。

「そう……なら、試験を受けてみなさい」

 少年が聖騎士になれるかどうかはわからないけど、生きる目的を見付けることができてよかったと、私は心からそう思った。

 

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