言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹

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成り立てほやほや王女殿下の初外交

15 概念がないものに概念を求めるのは無理な話でした

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 ……ずいぶん、風通しが良くなりましたね。

 私はイシリス様と一緒に、安全圏である空中に待機中。

 イシリス様が「任せておけ」と自信満々に仰ったので任せていると、まさかまさかの、大技を繰り出したわ。
 
 屋根が全て取り外されたの。ブッ壊されたって言った方が適切ね。さすがの私もビックリしたわ。その後、「淀んだ空気をなんとかする」と言って、風魔法を放ってましたね。ボロボロになった家具がコロコロと転がっていたので、どれほどの威力かは想像できるわね。普通、生きた人間相手には放たないわよ。絶対大怪我するもの。最悪なことも起きかねないからね。

 でも、ここにいるのは【死なない人間】と【生きる屍】だから大丈夫。怪我をしても治るもの。

 それに、自らの欲望のために命を弄んできたものに、なんの遠慮があるのよ。命を弄んだ者には、自らの命を弄ばれても仕方ないわよね。自業自得だわ。

「……荒業ですね」

「これで、かなりマシになったんじゃないか? ついでに、浄化魔法も建物に掛けてきたぞ」

 さすがですね、イシリス様。建物内にいる生きる屍を避けてなんて。ナイスですわ。

「そうですね。まだ、少し悪臭はしますが、衣服や髪に付くことはありませんわ」

 建物内の汚物や汚れは、イシリス様の浄化魔法でピカピカになったのに、ましてや空気も入れ替えて、空気が通りやすくしたのに、まだ悪臭がするなんて。自然と悪臭の出どころはわかるよね。

 悪臭の出どころたちが、コロコロと転がる勢いで走って来るのが見えるもの。

 あっ、まだ、ドレス着てるんだ……もう、らしきものになってるけどね。あまりにも、屑らしくて笑っちゃうわ。

「そうだな。なら、あいつらも浄化魔法を掛けるか?」

 そう訊いてくるイシリス様だけど、彼は掛けたくなさそう。なら、ここはイシリス様の気持ちを汲まないと。私もそう思ってたし。

「その必要はありませんよ。あいつらに浄化魔法は、行き過ぎたサービスですわ。元王城が綺麗になっただけで十分です」

「ならば、一定以上近づけないように結界でも張るか。これで、少しは違うだろ?」

 イシリス様はそう言うと、片手を上げ軽く払う。

 お礼を言わなくちゃいけないのに、代わりに笑い声が出ちゃった。だって、走って来た屑たちが、次々と見えない壁に勢いよくぶつかってるんだもの。笑うなっていうのが、無理だよ。

「……最高ですわ、イシリス様」

「喜んでもらえたのは嬉しいが、少し複雑だな」

「仕方ありませんわ。とうに見切りは付けていたとはいえ、長い間護ってきた人たちですもの。割り切っていても、わだかまりはあるでしょう」

 イシリス様を見詰めながらそう告げると、イシリス様にさらに強く抱き寄せられた。

「ありがとう……ミネリア。俺の番が君でほんとうによかった」

 甘い顔と声で、イシリス様は囁く。

 途端に、真っ赤になる私。いつも間近で、光り輝く尊顔を特等席で拝顔してるけど、それでも、これは私にもダメージが加わるレベルだわ。直視できなくて、視線を屑たちに移した。さりげにできたから、屑たちに感謝。

 そういえば、さっきから、やけに騒いでるわね。煩いわよ。全員が喚いてるから、何言ってるのかわかんない。

「……イシリス様、屑たち、ついに頭が退化したのですか?」

 まだ、喚いている。普通わかるでしょ。全員が一緒に声出したら相手に通じないって。

「それだけ追い詰められて、興奮してるんじゃないか」

「ああ、そうかも。魔猿が興奮した時と同じだわ。真っ赤だわ」

「魔猿が可哀想だ」

「ですね」

 私とイシリス様が和やかな会話を楽しんでいる時も、下にいる屑たちは喚き続けていた。さすがに、起き上がって結界の壁を連打してる。最悪のBGMだわ。なので、

「煩いですわ。こちらには、何を仰ってるかわかりませんわ。言いたいことがあるのなら、一人ずつにしてくれません」

 はっきりと口にした。

 すると、一瞬黙った後、また一斉に喚き出した。それには、私もイシリス様も溜め息を吐いたわ。

 ほんと、つくづく自分優勢の人たちね。折れるってことを全くしない。っていうか、そもそも、その概念がないのかも。だったら、私が悪かったわね。概念がないものに概念を求めてもね……無理な話だったわ。学習能力がない奴らだし。

 さて、どうしようかって考えようとした時、イシリス様がキレて、軽く雷魔法を屑たちの傍に落とした。

 効果てきめんで、ピタッと喚き声が止まったよ。これで、会話ができるわね。

「煩い!! 言いたいことがあれば、一人ずつ言え!!」

 口調はとても厳しくて声も低いけど、イシリス様は優しいわね。

 おそらく、私とイシリス様がこの場に訪れるのは、今日で最後。

 一方的に伝えてもよかったのだけど、わざわざ屑たちの言葉を聞こうなんて。……そんなイシリス様だから、私は番になることを了承したの。強いだけじゃない。深い愛情と優しさも持っているから……


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