幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ

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嘘は言ってない

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「失礼します。もしかして、肌荒れや吹き出物に効く薬をお探しですか?」

声をかけると、侍女たちが一斉にこちらを振り向いた。視線が鋭い。都会の女は目が強い。こわい。

「……誰? 観光客?」

「田舎の騎士爵家の娘、リナ・アルステッドと申します。家で育てた薬草を加工した化粧水を持っています」

一歩進んでスカートの裾をつまみ、ぺこりとお辞儀。貴族の礼儀はこういう時のためにある。

「そんなもの信用でき――」

「信じるかどうかはお試しになってからで構いません。ちなみにこの薬草から作られるポーションは王国騎士団の方々にもご贔屓にしていただいております」

「まあ、騎士団に?」

嘘は言っていない。
贔屓にしているのはギルバート様ひとりだけだが、それは事実である。
多少の誇張は田舎者の処世術だ。

私は小瓶を取り出し、こっそりリペアの魔法を少しだけ多めにかけておく。
効き目マシマシ。リナスペシャル。

「ただの薬草じゃないですよ。育て方と配合が違います。もしお嬢様の肌に効けば、それはもう『田舎の奇跡』ってことで」

侍女たちが互いに生唾を飲み込む音がした。
ひとりが、ぽつりと漏らす。

「……お嬢様、もうすぐご結婚されるのに、肌に異変が出てしまって……。婚約者様ともお会いできずに、屋敷の雰囲気も悪く……。肌荒れ程度では聖環にお願いすることもできませんし。でも、怪しい薬で悪化したら……」

なるほど。
貴族にとって「顔」は資産そのものだ。
失敗は許されない。

「ま、信じないなら仕方ありません。王都の高級薬だけに頼るのも、貴族様の特権ですしね」

私が肩をすくめると、侍女たちは一瞬だけ顔を見合わせた。

「……っ、わかりました。その化粧水……お嬢様に試してみます。もし効いたら、報酬は?」

「効いたらでいいです。セデル村、という名前だけ覚えていただければ」

にこり、と笑って小瓶を渡す。

背を向けた瞬間、父様とカイル兄様の口が ぽかーん と開いていた。

「……え、無料で渡したの? 売るんじゃなかったの?」

「タダより高いものはないって言うでしょ。『田舎の薬草が上級貴族の令嬢を救った』って噂が広まった方が、何よりの宣伝になるんです」

「というか、それ化粧水っていうかポーションだよな?ほんとに肌に効くのか?」

「もちろんです!何にでもちょっと効く、便利ポーションなんだから。それにさっきのは特別リナスペシャルだから効果はばっちりです」

「さすがリナ。じゃあ化粧水として売るときは、全部にリナスペシャルかけんの?」

「しませんよ。ご令嬢は、たぶん色々やり過ぎて肌が弱ってただけ。だから最初にガッと効かせて調子が戻れば、あとは普通のポーションでもいい状態をキープできると思います。うちのは優しいしね」

「なるほど……」

「それでね、もし『普通のポーションでも治らないほど深刻な人』がいたら、その人は絶対うちに連絡してくるでしょ? その人にはリナスペシャルを売ればいいのです。高額で」

「…………お前、商売人だったのか?」

「さすが私の娘だ……!」

「なんか最近、たくましくなった気がする……」

二人の視線がやたら温かくて小っ恥ずかしい。



――そして、その翌日、


外で、大きな車輪の止まる音。
それから、ひそひそとしたざわめき。

「ねえ、カイル兄様……あの馬車、金ピカだよ……」

「いや、あれは普通に高いやつだ。間違いない」

宿の主人すら慌てて出ていくほどの、とんでもなく上等な馬車が玄関前に止まった。

扉が開き――

降りてきたのは、絹のドレスに身を包んだ、気品ある少女。

昨日侍女が言っていた、
“婚約破棄寸前で肌荒れに悩む令嬢”。

その人本人だった。

「――アルステッド家の方に、お会いしたく参りました」

そう言って頭を下げた少女の肌は。

――すでに、うっすらと光を宿していた。

リナスペシャル、効きすぎ。

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