幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ

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夜の教会へ

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食堂は今日も大勢のお客さんでにぎわっていて、労働者風の男達が例の聖環について話している。

「聖環なおって、めでたいなぁ」

「だよなぁ。なんだっけ、慈愛の……なんとか?」

「そうそう、セラフィック・エターナルなんとかだよ」

「セラフィック・サークレット・オブ・エターナル・グレイスだよ」

「それそれそれそれ。長すぎんだよ名前がよ」

「あと足りないのは耳かきくらいらしいなぁ~」

――え?なんですと?

スープをすするときにちょうど聞こえたその言葉に、私は危うく盛大にむせるところだった。

耳かき?
聖女の?
耳かきって……あの、うちで普通に使われてる、例の、父様が高額で買わされちゃったやつ?

いやいや、まさか。
だってあれ、ただの銀色の、ほんと普通の耳かきですよ?
騙されたやつですよ?

でも、周囲の人たちはごく自然に話を続けている。

「なんでも耳かきを見つけた者には賞金が出るらしいぜ」

「本当かよ! どんな耳かきなんだ?」

「教会に絵が飾ってあるだろ? あれよ。銀で、すげぇ普通のやつ」

「……普通なんかい」

「でも銀だぞ。高級品よ」

「貴族にしてみりゃ銀なんてスプーンくらいの感覚だろ」

「あぁ。それはそう」

なんだその価値観。
いやでも銀食器は確かにちょっと高いけどさ。

そして庶民トークはさらに続く。

「“聖女の耳環オーリキュラー・グレイス”って名前なんだと」

「耳かきなのに耳環って名前なの?」

「聖女様に耳かきをしてもらうと、身体のゆがみが整って魔力が強くなるらしいぜ」

「すげぇな!」

――すげぇなじゃないんですよ。

それ、どこかで聞いたことがあるんですけど!

うちの家族、最近みんな動きキレッキレなんですけど!
刺繍が異常に速くなったマール婆さんとか!
頭が冴えまくってるゴフじいさんとか!

そして横に座る兄様が、まるで天啓を受けたかのように私の肩をつついてくる。

「なぁリナ。さっきの耳かきって……あれじゃね?」

「……兄様もそう思います?」

「あぁ。形、完全に一緒だったぞ」

といっても、どこにでもあるいたって普通の耳かきだけど。

「どうやって見分けるのでしょうね……」

「そりゃあ聖女様本人が持って光るとか、そんな感じじゃね?」

「本物だったら賞金もらえてラッキーだな!」

「そうですね!」





かくして――
私たちは耳かきを返しに教会へ行くことになった。

ただし、昼間は人でぎゅうぎゅう詰めなので、夜の教会へ。

夜の教会は……静かで、広くて、正直ちょっと怖い。
私たちはなぜか泥棒みたいにコソコソしてしまう。

「……すみません。誰かいらっしゃいますか」

声も自動的に小さくなる。

けれど少し離れた方で、神父さんたちが何やら話している声が聞こえた。

「耳かきの偽物ばかり持ってくる者が多くて困るな」

「賞金目当てに決まってる」

「だが噂を流さねば本物は出てこないだろう?」

「そうだ。本物を持ち出した盗人が、賞金欲しさに自分で持ってくる可能性もある」

盗人。

盗人って言いましたね?

賞金じゃなくて、罪人コース?

「ま、そういうやつは捕らえて王国騎士団に突き出せばいい」

「違いない」

神父様たちはそのまま私たちの横を通り過ぎ、去っていった。

私たちは、しばらく動けなかった。

そして全員、同時に目を合わせる。

「…………帰ろうか」

父様のその低い声に、私たちはこくこくと頷いた。

もちろん、耳かきは――
しっかりポーチの中にしまったまま。

だって、持ってったら……
私たち、盗人確定エンドじゃないですか。




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