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漬物でお茶
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重くなりかけた空気を裂くように、台所の方から元気な声が響きました。
「はいはい、お茶をご用意しましたよー! 村のお菓子も漬物もありますのでね!」
マール婆さんは、まるで戦場へ突撃する兵士のような勢いでお盆を抱えて登場しました。
……いや、よりによって漬物をお貴族様の前に出すのはどうなの、婆さん。
私が内心ひやひやしていると、ギルバート様がにこりと笑われました。
「セデル村のお茶はうまいんだよな」
「まぁ、そう仰っていただけると嬉しゅうございますわ。エルダ草のブレンドでして、体にも良うございますのよ」
私が補足すると、ベルナー副団長もほんの少しだけ表情を緩められた。
「……ありがたく頂戴しよう」
よかった……緊張、少しはほぐれたかな
マール婆さんは勢いそのまま、湯気の立つポットをテーブルへ置き、次に色鮮やかな漬物の皿をどんと置いた。
父様まで調子づいて、
「マール婆さんの漬物は絶品なんですよ。ギルバート様も、ぜひ!」
……だから父様、何度も申し上げていますでしょう?
お貴族様に漬物、通じる時と通じない時があるんと思うの。
ところがギルバート様は興味津々で身を乗り出された。
「へぇ……すごく良い匂い。これは何の漬物なの?」
「秘密なんてありませんよ」とマール婆さんが胸を張る。「強いて言うなら、この漬物石がとってもちょうどいいんですよ」
「漬物石?」
ギルバート様は首をかしげ、石を軽く持ち上げられた。
ベルナー副団長までもが眉を寄せる。
「妙に……滑らかで均一な石だな。どこで手に入れた?」
私もつい声が漏れてしまう。
「石って……まさか」
「そうですよ」とマール婆さんがあっけらかんと頷いた。
「ヘンリー様がだま……いえ、高額でお買い求めになられた“健康になる石”ですよ。漬物石にぴったりでねぇ!」
「健康になる……石?」
ギルバート様は思わず苦笑いを浮かべ、父様は「だ、騙されてはいませんよ!」とやや後ろ向きな否定をされている。
私はこっそりため息をついた。
あぁ……あの石。お父様がこれさえ家の中心に置けば魔力の流れが良くなり家族全員健康に!なんて言われて買わされた、あれ……
父様、健康グッズに弱すぎでしょ。
もちろん、私の魔法で念入りに確認しましたが、どう考えてもただの石。
だから部屋の片隅に放置されていたのですけれど――まさか漬物石になっていたとは。
しかし。
ふと、違和感が胸に残りました。
そういえば……この漬物、食べると妙に元気になるんだよね。
マール婆さんもゴフじいさんも、年齢のわりにぴんぴんしているどころか、以前より血色が良い。
我が家の誰も風邪を引かなくなったのも、ここ一年くらいだ。
私の魔法やエルダ草や耳かきのこともあるし、元気になった原因がたくさんありすぎて深く考えていなかったけれど……
……この石、もしかして本物だったり?
そんな事を考えていたらギルバート様が漬物をぽりぽり食べながら呟かれた。
「セデル村って……ただの田舎だと思ってたけど、本当はすごい場所なのかもね」
「そ、そんな大層な村ではございませんわ……ただ、ええと……少しだけ、不思議なものは多いと申しますか……」
「うん。来ると体の調子が良くなるしね」
実はイケメンなギルバート様の穏やかな笑みに、私は思わず頬が熱くなるのを感じた。
そのとき、マール婆さんが「あら?」と首をかしげた。
「そういえばこの石ね、漬物石にしてから味がよく染むようになったんですよ。不思議ねぇ」
「それは……」
私、父様、兄様、ゴフじいさん、一斉に顔を見合わせてしまった。
なんとも言えない沈黙が流れ――
最終的に、我がアルステッド家らしい結論が出た。
「まぁ……マール婆さんが作れる漬物の量なんて、たかが知れてますし。もし本物でも、別に困ることはないですね」
「うむ、そういうことだな」と父様。
「ですねぇ」とゴフじいさん。
……私が言うのもなんだけど、そういうところがアルステッド家だよね。
「はいはい、お茶をご用意しましたよー! 村のお菓子も漬物もありますのでね!」
マール婆さんは、まるで戦場へ突撃する兵士のような勢いでお盆を抱えて登場しました。
……いや、よりによって漬物をお貴族様の前に出すのはどうなの、婆さん。
私が内心ひやひやしていると、ギルバート様がにこりと笑われました。
「セデル村のお茶はうまいんだよな」
「まぁ、そう仰っていただけると嬉しゅうございますわ。エルダ草のブレンドでして、体にも良うございますのよ」
私が補足すると、ベルナー副団長もほんの少しだけ表情を緩められた。
「……ありがたく頂戴しよう」
よかった……緊張、少しはほぐれたかな
マール婆さんは勢いそのまま、湯気の立つポットをテーブルへ置き、次に色鮮やかな漬物の皿をどんと置いた。
父様まで調子づいて、
「マール婆さんの漬物は絶品なんですよ。ギルバート様も、ぜひ!」
……だから父様、何度も申し上げていますでしょう?
お貴族様に漬物、通じる時と通じない時があるんと思うの。
ところがギルバート様は興味津々で身を乗り出された。
「へぇ……すごく良い匂い。これは何の漬物なの?」
「秘密なんてありませんよ」とマール婆さんが胸を張る。「強いて言うなら、この漬物石がとってもちょうどいいんですよ」
「漬物石?」
ギルバート様は首をかしげ、石を軽く持ち上げられた。
ベルナー副団長までもが眉を寄せる。
「妙に……滑らかで均一な石だな。どこで手に入れた?」
私もつい声が漏れてしまう。
「石って……まさか」
「そうですよ」とマール婆さんがあっけらかんと頷いた。
「ヘンリー様がだま……いえ、高額でお買い求めになられた“健康になる石”ですよ。漬物石にぴったりでねぇ!」
「健康になる……石?」
ギルバート様は思わず苦笑いを浮かべ、父様は「だ、騙されてはいませんよ!」とやや後ろ向きな否定をされている。
私はこっそりため息をついた。
あぁ……あの石。お父様がこれさえ家の中心に置けば魔力の流れが良くなり家族全員健康に!なんて言われて買わされた、あれ……
父様、健康グッズに弱すぎでしょ。
もちろん、私の魔法で念入りに確認しましたが、どう考えてもただの石。
だから部屋の片隅に放置されていたのですけれど――まさか漬物石になっていたとは。
しかし。
ふと、違和感が胸に残りました。
そういえば……この漬物、食べると妙に元気になるんだよね。
マール婆さんもゴフじいさんも、年齢のわりにぴんぴんしているどころか、以前より血色が良い。
我が家の誰も風邪を引かなくなったのも、ここ一年くらいだ。
私の魔法やエルダ草や耳かきのこともあるし、元気になった原因がたくさんありすぎて深く考えていなかったけれど……
……この石、もしかして本物だったり?
そんな事を考えていたらギルバート様が漬物をぽりぽり食べながら呟かれた。
「セデル村って……ただの田舎だと思ってたけど、本当はすごい場所なのかもね」
「そ、そんな大層な村ではございませんわ……ただ、ええと……少しだけ、不思議なものは多いと申しますか……」
「うん。来ると体の調子が良くなるしね」
実はイケメンなギルバート様の穏やかな笑みに、私は思わず頬が熱くなるのを感じた。
そのとき、マール婆さんが「あら?」と首をかしげた。
「そういえばこの石ね、漬物石にしてから味がよく染むようになったんですよ。不思議ねぇ」
「それは……」
私、父様、兄様、ゴフじいさん、一斉に顔を見合わせてしまった。
なんとも言えない沈黙が流れ――
最終的に、我がアルステッド家らしい結論が出た。
「まぁ……マール婆さんが作れる漬物の量なんて、たかが知れてますし。もし本物でも、別に困ることはないですね」
「うむ、そういうことだな」と父様。
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……私が言うのもなんだけど、そういうところがアルステッド家だよね。
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