25 / 32
ポーション
しおりを挟む「……あ、やっぱりギルバート様です」
うちの村の門から見えた騎士の姿を見た瞬間、私は思わず声が漏れてしまいました。
「久しぶりだね……いや、まだ数か月ぶりか?」
「ええ、前回は耳か……じゃなかった、教会から帰る時でしたね」
危ない、耳かきと言うところでした。
あれは、もう秘密の中でも最重要機密です。
わたしたちが善意ある置き換え(勝手にそう呼んでます)をしたのも騎士団には内緒なのです。
そしてギルバート様の隣には、ひときわ威圧感のある人物が。
ベルナー・クラウス副団長である
「本日はようこそセデル村へ……」
背筋が勝手に伸びてしまいました。
ベルナー様は相変わらず、氷のような空気を発してるね。
さて、今回騎士団の皆さんが各地に派遣されているのは、例の“耳かき騒動”が原因なんだけど、もちろん、私は耳かきについてはなにも知らないふりをします。
知らないです。
ええ、本当に。
少なくとも、何かを交換したとは言っていません。はい。
しかし、この派遣はただの罰というわけではありません。
村や街に出る魔獣討伐も、ちゃんとしたお仕事なのです。
そして、ちょうど隣町にも騎士団が来ていたらしく——
その町にたまたま行っていた村の青年たちが、家に帰ってきて話を教えてくれました。
「なぁリナ、あの騎士様らは結構気さくだったぜ。村人の家の屋根直したり、井戸掃除手伝ったりしてた」
「騎士様って、思ったより働き者なんですね……!」
「まぁ、罰らしいけどな」
それから、話題は自然と例のポーションに。
「そういや、その騎士団が配給されたってポーション、セデル村のやつだったぞ」
「最近人気みたいで隣町の薬屋でも格安で売ってるって喜んでたぞ」
青年達によると、この遠征にあたって騎士様方に以前納品したセデル村のポーションが配給されたようだ。
例の流行病の時は、騎士団は優先的に聖環で治すことができたし、これまでの王都勤務ではポーションを使う事はあまりなかったらしいが、遠征ではポーションの出番が多くこれがよく効くと。
怪我にはもちろん、ちょっとしたホームシックや慣れない討伐による気鬱にも効くと。
「なんでもセデル村の村長さんというかヘンリー様が、カール侯爵様に感謝して格安で納めてるとか言われてるらしいぞ」
「…………」
感謝?
格安?
……うちの村、貧乏なんですけど?
感謝も格安も初耳ですけど……
隣町で売られているポーションは、セデル村で作られたものだ。
しかもセデル村から下ろした値段よりもかなり高い。
つまり激安でセデル村から買ったポーションが、隣の街では何倍の値段にもなって売られている。
その値段はうちがギルバート様に直接売っているのと同じくらいの値段で、御礼も兼ねてかなり高く買ってくれているのかと思っていたが、実は適正な価格だったらしい、いや、むしろ王都と比べたらまだまだ安いとのこと。
王都のポーションの値段がおそろしいことになってるけど、それはともかく、
うちから隣町での卸価格は安すぎではないだろうか?
隣町はカール侯爵のお膝元だ。
前エルミナ様に聞いた話からも、カール侯爵と言うのはあまり信用ならない人物のようだし。
ぜひ私の性格を良くする魔法を試してみたいものだ。
ポーションの話をギルバート様にいうとギルバート様も苦い顔をしていました。
ベルナー副団長が腕を組み、低い声で言います。
「村の富は村民のものだ。本来の価値以上に搾られてはならん」
うわ、めちゃくちゃ正しい……!
ギルバート様はこちらを見て、柔らかく微笑みました。
「リナさん。あなたのお父様……ヘンリー殿は、とても良い方です。ですが、良い人が損をしてよい理由はありません」
「……はい」
私はぎゅっと拳を握りました。
245
あなたにおすすめの小説
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
悪役令嬢、休職致します
碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。
しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。
作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。
作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?
あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。
理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。
レイアは妹への処罰を伝える。
「あなたも婚約解消しなさい」
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる