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石その後
しおりを挟むマール婆さんに追い返されたカール侯爵の部下は、見た目だけならよく似ている適当な石を持って帰った。
少なくとも、一目見た限りではカール侯爵自身にも区別がつかない。
「……やはり、これだ。うむ、間違いない」
カール侯爵は満足げに石を撫でた。
時折、光の加減で石の表面が淡く輝くように見えたが、それはただの思い込みでしかない。
「ご苦労だった。セデル村はどうだった?」
「はい。特に変わったことは……まあ、田舎の村ですな。雑草がぼうぼうで貧相で」
部下は本心からそう思っていた。
村人が明るく元気とは気づきもしなかったし、ポーションについての噂も耳にしていない。
ましてや、侯爵が求めている石の効能がアルステッド家にもたらしている影響など、まったく想像できる人間ではなかった。
「そうか」
部下が退出し、静寂が戻る。
カール侯爵は石をそっと胸元に抱えた。
幼い頃から、代々伝え聞かされてきた教えが脳裏に蘇る。
どうせ眉唾だと、年寄りの妄言だと気にも留めなかったが。
――この石は家系の命綱だ。決して手放すな
――弱い血を補い、病を遠ざけ、命を繋ぐ石だ
父も祖父も、この石を後生大事に邸内に飾り時折撫でていた。
祖父などは晩年は石を枕元に置き触れるたび「少し楽になった」と言っていた。
やはりこれがなければ我が家は保たぬのか……
そう言えば自身の息子も頭を掻きむしりながら喚き散らすことがある。
ただの癇癪持ちなのかと思っていたが、幼い頃はそのようなことはなかったような。
あれも石を手放してからか?
なにしろ息子に向き合うこともほとんどないカール侯爵にはよくわからなかった。
が、石は戻ったのだ。
そう自信を取り戻しかけたその時。
「……ん?」
胸の奥がずきりと痛んだ。
軽い痛み、のはずだった。
だが痛みは次第に深くなり、呼吸の奥を圧迫するような重さへと変わる。
……今日は少し、息が……
喉の奥が乾き、ひゅうっと細い空気しか入ってこない。
体の芯がじんわりと冷え、背中に汗が流れ落ちる。
「……ゴホッ……ゴホッ……!」
机に手をつきながら、肩を震わせ、必死に咳を押しとどめようとする。
咳は止まらなかった。
おかしい……石が戻ったのだぞ……なぜ……?
石は光も温もりも返してこない。
ただカール侯爵の掌の中の石は——
じっとりと冷たかった。
代々体の弱い者が産まれやすいカール侯爵家にとってその石は家宝とも言えるものだったのに、うそれを全く信じていなかったカール侯爵は、ヘンリーに対する嫌がらせで、商人を通して高額で売りつけてしまった。
その頃セデル村のアルステッド家、
「今日のお漬物もいい塩梅につかってるね」
カール侯爵家の大切な石は、漬物石にちょうど良い重さの石としてマール婆さんに重宝され、アルステッド家のみんなや、その周囲のお裾分けされた人々に美味しさと健康をもたらしている。
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