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第6章:司書ですが、何か?
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朝日が眩しくて目が覚めた。
ゆっくりと起き上がり、ベッドの上で伸びをする。
隣は――あれ? もうアイリスの姿がない。
時計を見ても、まだ六時だ。
なんとなくぼんやりと、夢の記憶が残ってる。
見知った誰かと私が結婚をして、アイリスみたいな幸福な笑顔を私が浮かべている夢。
あれは、誰だったんだろう?
大きくて柔らかいベッドから這い出して、寝室からリビングに入る――お爺ちゃんたちが、キッチンで料理をしてる?!
「何してるの?! なんで料理をしてるの?!」
お爺ちゃんがこちらに振り返り、いつもの笑顔で私に告げる。
「おぅ、起きたか。おはようヴィルマ。
なぁに、ちっと早くに目が覚めちまってな。
部屋を漁ったら食品庫があったんで、物色してたらアイリスも起きてきた。
キッチンもあるし、一品か二品作っておくかって話になった」
アイリスは根菜に包丁を入れながら私に言葉を投げかけてくる。
「おはようございます、ヴィルマさん。
おそらく七時過ぎには王宮が朝食を持ってきますよ」
「朝食が運ばれてくるのがわかってるのに料理をしてるの?!」
「いけませんか?」
……どんだけ『二人で料理』に拘ってるんだろう。
でもやっぱり、二人は新婚夫婦のような空気を醸し出している。
最初からこうだったってことは、それだけ二人の相性が良かったのだろう。
私はダイニングチェアに座りながら、二人が冷製スープを作るのを眺めていた。
****
私はテーブルに並んだジャガイモとネギのスープやハーブ入りのオムレツを見ながら感心していた。
「あっという間に出来上がったね……」
アイリスがふふんと得意気に応える。
「毎日ラーズさんに鍛えられてますから。
まだまだラーズさんの手並みには及びませんが、以前の私と同じだと思わない方が良いですよ?」
お爺ちゃんも満足そうにスープを飲んでいた。
「――うん、いい味だ。もうアイリスに味付けを任せても大丈夫だな」
うわぁ、新婚家庭の『圧』を感じる。なんだこの疎外感。
私にも、こういう相手が居たらなぁ。できるのかな?
「いいなぁ、私もそういう相手が欲しいなぁ」
ぼそりと呟いた私の言葉に、お爺ちゃんたちが意表を突かれた顔をしていた。
「ヴィルマお前、結婚したいと言ったのか?」
「うーん? どうだろう? でもお爺ちゃんとアイリスみたいな関係って羨ましいと思うし」
アイリスが私を見ながら告げる。
「今までそんなこと、口にしてこなかったじゃないですか。どうしたんですか?」
「どうしたって……やっぱりアイリスの影響かも?」
お爺ちゃんとアイリスが顔を見合わせ、ニコリと笑いあった――そこ! 二人だけで意思疎通しないで!
「良い傾向じゃねぇか。同い年のアイリスに刺激されたか。
半月後のお見合いで、いい男が見つかると良いんだがな」
「お見合いか……気が重たいなぁ」
「どうした? 自分に合う男を探したいんじゃねぇのか?」
「そうなんだけど、なんかこう……違う気がして」
お爺ちゃんがニヤリと微笑んだ。
「なるほどな。その気持ちを忘れんなよ?」
どういう意味?
私たちがゆっくりとスープとオムレツを口に運んでいると、侍女たちが朝食を運んできた。
侍女たちも料理の跡に驚いていたみたいだけど、すぐに気を取り直して配膳を始めた。
……さすが王宮がお客をもてなすメニュー。品数が多い!
パンに肉料理、魚料理に卵料理、季節のフルーツにスープまで付いて、飲み物まで?!
でもスープを一口飲んでみたら、さっきのスープの方が美味しく感じた。
アイリス……王宮の料理人より腕が上達してるとか、どういうこと?
ゆっくりと朝食を食べ終わってから、お爺ちゃんが告げる。
「そろそろ帰るか! お前も司書の仕事がしたいだろう」
「そうだね。今からなら、午後の業務に間に合うし」
侍女が王様へ報せに走り、しばらくすると王様が部屋にやってきた。
「もう帰るというのか。もう少しゆっくりしてもよいではないか」
「そうも言ってられねぇよ。こっちもやることがあるからな」
やること? お爺ちゃんがやることって、なんだろう?
王宮の入り口で王様たちに見送られ、私たち三人は馬車で学院に戻っていった。
****
宿舎に帰りついたのはお昼近くだった。
軽い昼食を宿舎で取り、私は図書館に向かった。
司書室でエプロンをまとってマギーを背負う。
そのままカウンターに向かってフランツさんに言葉を投げかける。
「おはようございます! ――っていっても午後ですけど。
何か手伝うこと、ありますか?」
フランツさんが爽やかな笑顔で応える。
「おはよう、でいいかな?
蔵書点検はファビアンとシルビアで足りてるし、修復もサブリナが抱えられる範囲だ。
ヴィルマが今まで頑張ってくれたおかげで、もう五人でも回せるようになったな」
全員が本のダメージを見極められるようになったので、返却の時に修復の必要性を判断できるようになった。
つまり、私が走り回る必要は、もうないのだ。
「それじゃあ私は何をしましょうかねぇ」
「カウンターで本でも読めばいいじゃないか。来客があれば、一緒に対応してくれ」
なるほど、カウンター業務か。
ここの本をほとんど読んでしまった私の有効活用――曖昧なニーズに対して、本を案内することぐらいだ。
繁忙期が終わって暇だから、その時間で残りの本を読み進めてしまおうか。
カウンターの中でフランツさんと並び、本を読む。
言いようのない心地良さが私の心を満たしていく。
やっぱり魔導書を読んでる時が、一番落ち着く……のかなぁ? なんだかちょっと違うような気もする。
フランツさんがぽつりと呟く。
「なぁヴィルマ、次の休日にまた町に出かけないか」
「デートですか? いいですよ。今度はどこに行くんですか?」
「その……今度は町を散策するだけ、じゃだめかな」
私は本からフランツさんに視線を移し、小首を傾げて尋ねる。
「それって楽しいんですか?」
フランツさんは困ったように微笑みながら応える。
「それを確かめてみないか? 少なくとも、一緒に居て辛い相手ではないんだろう?」
まぁそうなんだけど。町を散策かぁ。王都全部を知ってる訳じゃないし、何か新しい発見があるかな?
「わかりました。そのデートプランで手を打ちましょう。
私はまだ平民の身分で自由がないので、前回と同じ感じでよろしくお願いします」
「ああ、わかってる。午後に迎えに行くよ」
「……午後からですか? どうせですし、午前から回りません?」
フランツさんが驚いたような顔で私の顔を見つめてきた。
「……朝から、で大丈夫なのか?」
「そうですね。私は毎朝早起きしてるので、何時でも大丈夫です。
あとはフランツさんが何時に起きられるか次第ですね」
フランツさんが喜色を溢れさせて何度も頷いた。
「ああ! では十時に迎えに来るよ!」
おや、思ったより遅い。
「もう少し頑張れません? 八時とかどうですか?」
「八時?! 店が開く前の時間じゃないか」
「お店に立ち寄る必要はないじゃないですか。
散策って、ぶらぶらと歩くことでしょう?
それで私を楽しませてみてください」
困ったように眉をひそめたフランツさんが、それでもなんとか頷いた。
「わかった、じゃあ八時に、宿舎に行くよ」
「はい、楽しみにしてますね」
私は再び本を魔導書に戻し、読書の続きを始めた。
隣からはフランツさんが困惑する気配が伝わってきて、『どうしたんだろう?』と内心で首を傾げていた。
ゆっくりと起き上がり、ベッドの上で伸びをする。
隣は――あれ? もうアイリスの姿がない。
時計を見ても、まだ六時だ。
なんとなくぼんやりと、夢の記憶が残ってる。
見知った誰かと私が結婚をして、アイリスみたいな幸福な笑顔を私が浮かべている夢。
あれは、誰だったんだろう?
大きくて柔らかいベッドから這い出して、寝室からリビングに入る――お爺ちゃんたちが、キッチンで料理をしてる?!
「何してるの?! なんで料理をしてるの?!」
お爺ちゃんがこちらに振り返り、いつもの笑顔で私に告げる。
「おぅ、起きたか。おはようヴィルマ。
なぁに、ちっと早くに目が覚めちまってな。
部屋を漁ったら食品庫があったんで、物色してたらアイリスも起きてきた。
キッチンもあるし、一品か二品作っておくかって話になった」
アイリスは根菜に包丁を入れながら私に言葉を投げかけてくる。
「おはようございます、ヴィルマさん。
おそらく七時過ぎには王宮が朝食を持ってきますよ」
「朝食が運ばれてくるのがわかってるのに料理をしてるの?!」
「いけませんか?」
……どんだけ『二人で料理』に拘ってるんだろう。
でもやっぱり、二人は新婚夫婦のような空気を醸し出している。
最初からこうだったってことは、それだけ二人の相性が良かったのだろう。
私はダイニングチェアに座りながら、二人が冷製スープを作るのを眺めていた。
****
私はテーブルに並んだジャガイモとネギのスープやハーブ入りのオムレツを見ながら感心していた。
「あっという間に出来上がったね……」
アイリスがふふんと得意気に応える。
「毎日ラーズさんに鍛えられてますから。
まだまだラーズさんの手並みには及びませんが、以前の私と同じだと思わない方が良いですよ?」
お爺ちゃんも満足そうにスープを飲んでいた。
「――うん、いい味だ。もうアイリスに味付けを任せても大丈夫だな」
うわぁ、新婚家庭の『圧』を感じる。なんだこの疎外感。
私にも、こういう相手が居たらなぁ。できるのかな?
「いいなぁ、私もそういう相手が欲しいなぁ」
ぼそりと呟いた私の言葉に、お爺ちゃんたちが意表を突かれた顔をしていた。
「ヴィルマお前、結婚したいと言ったのか?」
「うーん? どうだろう? でもお爺ちゃんとアイリスみたいな関係って羨ましいと思うし」
アイリスが私を見ながら告げる。
「今までそんなこと、口にしてこなかったじゃないですか。どうしたんですか?」
「どうしたって……やっぱりアイリスの影響かも?」
お爺ちゃんとアイリスが顔を見合わせ、ニコリと笑いあった――そこ! 二人だけで意思疎通しないで!
「良い傾向じゃねぇか。同い年のアイリスに刺激されたか。
半月後のお見合いで、いい男が見つかると良いんだがな」
「お見合いか……気が重たいなぁ」
「どうした? 自分に合う男を探したいんじゃねぇのか?」
「そうなんだけど、なんかこう……違う気がして」
お爺ちゃんがニヤリと微笑んだ。
「なるほどな。その気持ちを忘れんなよ?」
どういう意味?
私たちがゆっくりとスープとオムレツを口に運んでいると、侍女たちが朝食を運んできた。
侍女たちも料理の跡に驚いていたみたいだけど、すぐに気を取り直して配膳を始めた。
……さすが王宮がお客をもてなすメニュー。品数が多い!
パンに肉料理、魚料理に卵料理、季節のフルーツにスープまで付いて、飲み物まで?!
でもスープを一口飲んでみたら、さっきのスープの方が美味しく感じた。
アイリス……王宮の料理人より腕が上達してるとか、どういうこと?
ゆっくりと朝食を食べ終わってから、お爺ちゃんが告げる。
「そろそろ帰るか! お前も司書の仕事がしたいだろう」
「そうだね。今からなら、午後の業務に間に合うし」
侍女が王様へ報せに走り、しばらくすると王様が部屋にやってきた。
「もう帰るというのか。もう少しゆっくりしてもよいではないか」
「そうも言ってられねぇよ。こっちもやることがあるからな」
やること? お爺ちゃんがやることって、なんだろう?
王宮の入り口で王様たちに見送られ、私たち三人は馬車で学院に戻っていった。
****
宿舎に帰りついたのはお昼近くだった。
軽い昼食を宿舎で取り、私は図書館に向かった。
司書室でエプロンをまとってマギーを背負う。
そのままカウンターに向かってフランツさんに言葉を投げかける。
「おはようございます! ――っていっても午後ですけど。
何か手伝うこと、ありますか?」
フランツさんが爽やかな笑顔で応える。
「おはよう、でいいかな?
蔵書点検はファビアンとシルビアで足りてるし、修復もサブリナが抱えられる範囲だ。
ヴィルマが今まで頑張ってくれたおかげで、もう五人でも回せるようになったな」
全員が本のダメージを見極められるようになったので、返却の時に修復の必要性を判断できるようになった。
つまり、私が走り回る必要は、もうないのだ。
「それじゃあ私は何をしましょうかねぇ」
「カウンターで本でも読めばいいじゃないか。来客があれば、一緒に対応してくれ」
なるほど、カウンター業務か。
ここの本をほとんど読んでしまった私の有効活用――曖昧なニーズに対して、本を案内することぐらいだ。
繁忙期が終わって暇だから、その時間で残りの本を読み進めてしまおうか。
カウンターの中でフランツさんと並び、本を読む。
言いようのない心地良さが私の心を満たしていく。
やっぱり魔導書を読んでる時が、一番落ち着く……のかなぁ? なんだかちょっと違うような気もする。
フランツさんがぽつりと呟く。
「なぁヴィルマ、次の休日にまた町に出かけないか」
「デートですか? いいですよ。今度はどこに行くんですか?」
「その……今度は町を散策するだけ、じゃだめかな」
私は本からフランツさんに視線を移し、小首を傾げて尋ねる。
「それって楽しいんですか?」
フランツさんは困ったように微笑みながら応える。
「それを確かめてみないか? 少なくとも、一緒に居て辛い相手ではないんだろう?」
まぁそうなんだけど。町を散策かぁ。王都全部を知ってる訳じゃないし、何か新しい発見があるかな?
「わかりました。そのデートプランで手を打ちましょう。
私はまだ平民の身分で自由がないので、前回と同じ感じでよろしくお願いします」
「ああ、わかってる。午後に迎えに行くよ」
「……午後からですか? どうせですし、午前から回りません?」
フランツさんが驚いたような顔で私の顔を見つめてきた。
「……朝から、で大丈夫なのか?」
「そうですね。私は毎朝早起きしてるので、何時でも大丈夫です。
あとはフランツさんが何時に起きられるか次第ですね」
フランツさんが喜色を溢れさせて何度も頷いた。
「ああ! では十時に迎えに来るよ!」
おや、思ったより遅い。
「もう少し頑張れません? 八時とかどうですか?」
「八時?! 店が開く前の時間じゃないか」
「お店に立ち寄る必要はないじゃないですか。
散策って、ぶらぶらと歩くことでしょう?
それで私を楽しませてみてください」
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「わかった、じゃあ八時に、宿舎に行くよ」
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