司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ

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第6章:司書ですが、何か?

75.

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 晩餐会のメニューは、見たこともない料理が続いた。

 食べ方がわからない私やアイリスは、向かいに座るみんなから食べ方を教わりながら食べ進めた。

 お爺ちゃんは……そんなの気にせず、マイペースで口に料理を放り込んでいく。

 王様が微笑みながらお爺ちゃんに告げる。

「ラーズ王、あなたはこれからもそのように過ごされるつもりか」

 お爺ちゃんは頬張った料理を飲み込んでから答える。

「俺ぁ俺以外のものになる気はねぇ。誰が何と言おうが、これが俺だ。
 それで蔑んでくる奴ぁ、直後にそれを後悔することになる」

「ハハハ! 恐ろしい話だな。わかった、臣下たちには徹底させておこう」

 アイリスは慣れない環境、慣れない料理に悪戦苦闘しているようだったけど、マイペースのお爺ちゃんが隣に居るからか、少しはプレッシャーが和らいでるみたい。

 シルビアさんがアイリスに告げる。

「アイリス王妃殿下……こう呼ぶのも変な感じですね。
 今までとまるで違うお立場ですが、お慣れになれそうですか?」

「ええ?! そ、そんなのわかりませんよ!
 そんな敬語を使われる立場なんて、生まれて初めてだし」

 お爺ちゃんがアイリスの背中を優しくポンポンと叩いた。

「俺の妻になるつもりなら、今から覚悟して慣れておけ。
 今日はリハーサル、半月後には本番だ。
 礼儀作法で文句は言わせねぇが、心の準備だけはしとかねぇとな」

 あーでもそっか。平民出身の王族が三人ってことになるのか。

 そりゃあ貴族たちから侮れてもしかたないよなぁ。

 お爺ちゃんは口では『検討段階』って言ってたけど、心はすっかりアイリスを奥さんにするつもりみたいだ。

 ……まぁ、いつも新婚夫婦みたいな空気を漂わせてたしな。きっと気が合うんだろう。

 子供が生まれたら、と思うと頭が痛いけど、だからってアイリスに『子供は諦めて』って要求するのも違う気がする。

 アイリスだって、愛する人の子供が欲しくなっても不思議じゃないし。

 お爺ちゃんの子供、お父さんの弟でも生まれたら、その子が次のエテルナ王だ。

 ……やっぱり、産むな、とは言えないなぁ。

 王様がワインを一口飲み、機嫌良さそうにお爺ちゃんに告げる。

「王族が職員用の宿舎に住むのも体裁が悪い。
 そこで邸宅の選定を進めているところだが、なにか要望はあるかな?」

 お爺ちゃんが面倒くさそうに顔をしかめた。

「別に宿舎でいいと思うがな。
 だがもし選ぶなら、俺たちが料理をできる家にしてくれ。
 料理は俺とアイリスの共通趣味だ。そこは譲れねぇ」

 やっぱりお爺ちゃん、アイリスと料理するのが楽しかったのか!

 王様がゆっくりと頷いた。

「心得よう。あまり大きな邸宅でなくとも構わない――その認識で間違いはないかな?」

「おうよ。無駄に広くても落ち着かねぇ。必要最低限の部屋が揃ってりゃ、充分だろう」


 お爺ちゃんは王様とその後もこれからの事を話し合ってるみたいだった。

 なんだか着々と私たちが王族の道を歩むみたいで、なんとなく落ち着かない。

 だって、エテルナ王国は百年前に滅びた国。領地も国民も持ってない王家だ。

 どうして王様が私たちをそこまで厚遇するかはわからないけど、王家の権威を支えるものが何もないんじゃないかな?

 これでこの国の貴族たちが納得するんだろうか。

 私は王族が口にする料理をもぎゅもぎゅと噛み締めながら、これからのことを考えていた。




****

 晩餐会は無事終わり、司書のみんなも帰っていった。

 私がメイクを落とし、ドレスを脱いでから客間に戻ると、お風呂上りらしいアイリスがお爺ちゃんに引っ付いていた。

「アイリス、なんだかお爺ちゃんとの距離が縮まってない?」

「だって、今の私はラーズさんの妻。これが夢だったらと思うと怖いくらいです」

 まぁそうだよね……ずっと年上の男性に憧れて、叶わぬ恋と覚悟しながら頑張ってたんだもんね。

 私はアイリスの隣に座って疑問を投げかける。

「それで、子供はどうするの?」

 アイリスはお爺ちゃんの胸に抱き着きながら応える。

「もちろん作りますよ? 次のエテルナ王になる子を私が産むんです。
 大変だと思いますけど、一生懸命頑張りますから!」

 本気だ……これはもうノンストップモードのアイリス。

「お爺ちゃん、アイリスと子供を作る気はあるの?」

 お爺ちゃんは頭を掻きながら悩んでるみたいだった。

「俺ぁそこまでするつもりはねぇんだが、アイリスがこんだけ望んでるしなぁ。
 妻が望むなら応えてやりてぇ。けど年の差がなぁ……」

 お爺ちゃんも結論を出せないのか。

「魔導の素質はどうなると思う?」

「んー? 俺とアイリスの子供か? たぶん、お前の親父程度の素質は持って生まれるんじゃねーか?」

「それってどれくらいなの? お父さんの魔導士らしいところ見たことないから、わかんないんだよね」

「う~~~~ん、ヴォルフガングよりは上だと思うぞ?」

 ……あのヴォルフガングさんより、上?

「お爺ちゃん?! それってとんでもなくない?!」

 お爺ちゃんはニヤリと笑って私に告げる。

「何言ってやがる。素質だけならお前だって俺より上だ。
 エテルナの秘儀を伝えてねぇから、その分、魔導が未熟なだけだ。
 ガキの頃からキッチリ仕込めば、ヴォルフガング程度は目じゃなくなるさ」

 ……なるほど、だからお爺ちゃんは厚遇されてるのか?

 殿下が私との結婚に拘るのも、そういう理由?

 まぁ、その話は流れたからもういいんだけど。

 私はため息をつくと「よいしょ」っと立ち上がってお爺ちゃんに告げる。

「じゃあお風呂に入ってくるね」

「おぅ。ゆっくりしてこい」

 私は何故か侍女に取り囲まれながら、浴室へ入って行った。




****

 夜は私とアイリスが一緒に寝ることになった。

 アイリスはお爺ちゃんと同じベッドで寝たがったけど、お爺ちゃんは『正式に結婚する前にそういうことをするもんじゃねぇ』と譲らず、アイリスがすごすごと引き下がった。

 大きなベッドの中で、アイリスがぽつりと呟く。

「なんだか本当に夢見たいです。
 平民の私が、王様の奥さんになるなんて」

「そんなの、私は『これは悪夢かな?』とか思ってるよ。
 王族になって司書業務に支障が出たらどうしよう。
 今までみたいなお気楽な生活は、望めないかも……」

 アイリスがクスリと笑った。

「まるで逆なんですね。
 でも司書を辞めることにはならないと思いますよ。
 そこはラーズさんが絶対に譲らないと思うので」

「……なんか、私よりお爺ちゃんに詳しくなってない?
 私は断言できるほど自信はないかなぁ」

「大丈夫ですよ。あのラーズさんがヴィルマさんを悲しませる真似を許す訳がありません。
 『司書を辞めさせろ』なんて言われたら、私たちを連れて姿を隠すはずです」

 私は呆気に取られてアイリスの顔を見つめた。

 その顔は確信に満ちた笑み。既に妻の貫禄を漂わせている。

「……すごいね、いつのまにそんなにお爺ちゃんと仲良くなったの?」

「一緒に料理をしていると、相手の事を理解していないと作業が滞るんです。
 毎日一緒に料理をしているうちに、どんどんラーズさんの事がわかるようになっていきました。
 ラーズさんが新しい邸宅でも私との料理を望んでくれているのが、私には何よりうれしいです」

 そっか、そんなに心を寄せあってるのか。

 お爺ちゃんなら、アイリスの情熱的な想いも平気な顔で包み込んで受け止めてくれそうだしな。

 じゃあもう、二人の子供のことは二人に任せて、私は私の未来に集中しようか。

「おやすみアイリス。良い夢を見てね」

「もう胸いっぱいに見てますよ。ヴィルマさんこそ、良い夢を」

 良い夢か。見れるかなぁ? 結婚相手とか、考えたことないんだけど。


 目をつぶって夢の世界を漂う私は、爽やかに笑う見知った顔を見た気がした。
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