お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ

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第4章:夢幻泡影

閑話 ある兄弟と姉の話

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 シトラス十二歳の春の日――

 コルラウトとエルベルトが、シトラスの部屋に遊びに来ていた。

 二人は両腕に溢れるほどのリラの花を抱えている。

「森の中で見つけたのです! 姉上、これをどうぞ!」
「どうぞ!」

「まぁ! 綺麗ね、ありがとう二人とも」

 二人の弟から花束を受け取ったシトラスが、その香りを楽しんでから嬉しそうに微笑んだ。

「じゃあ姉上、僕たちはこれで!」
「これで!」

 微笑むシトラスを見て満足したコルラウトが、恥ずかしそうに部屋から駆け出した。

 エルベルトも兄を追いかけるように部屋から出ていった。




 廊下を歩く二人の兄弟が、頬を染めながら言葉を交わす。

「姉上の前だと、緊張するな」

「なんでだろうねー?」

 通りかかったアンリに、コルラウトが言葉をかける。

「アンリ兄上! 聞いてください!」

「ん? どうした二人とも」

「僕たち、姉上に花を贈ったんです。
 でも姉上が笑ってくださると、なんだかとても恥ずかしくなってしまって、顔を見れなくなるんです。なぜなのでしょうか」

 アンリが困ったように微笑んだ。

 コルラウトは今年で九歳、エルベルトは六歳だ。

 幼いころから五年間、見慣れているはずの二人の弟たちでもシトラスの前では緊張するらしいと知って、アンリは何と言って良いか分からないようだった。

「お前たちにとって、シトラスはどんな存在なんだ?」

 コルラウトが恥ずかしそうに頬を染めた。

「理想の女性です! いつか僕は、姉上のような伴侶をめとりたいと思っています!」

 エルベルトは明るい笑顔で告げる。

「母上と同じくらい大好きな人です!」

 アンリが頭をきながら告げる。

「うーん……コルラウト、それは難しいと思うぞ?
 シトラスに匹敵する令嬢は、お前たちの年代でも居ないはずだ。
 望みを高くし過ぎると、婚期を逃すことになる」

「それほど姉上は美しい女性なのですか?」

「私も、シトラスほど美しい令嬢を見た覚えがないからな。
 シトラスを見慣れているお前たちは、婚約者選びに苦労するかもしれない」

「では、兄上の婚約者はどうなるのですか?
 兄上も、婚約者がいないままですよね?」

 アンリが少し寂しそうに微笑んだ。

「私は、できればシトラスをめとりたいと思っている。
 その道は簡単ではないだろう。
 それでも私には、シトラス以外を考えることができないんだ」

 コルラウトがまじまじとアンリを見つめていた。

「兄上がめとれるなら、僕が姉上をめとることもできるのでしょうか」

「ははは! 不可能ではないだろう。だがシトラスは手強いぞ?
 特にお前たちは、男として見てもらえないだろう。
 私以上に苦しい道だという覚悟が必要だな」

「兄上は、男として見てもらえるのですか?」

 痛恨のカウンターだった。

 子供の言葉は、時にナイフより鋭く心をえぐる。

 アンリは胸を抑え、壁に寄り掛かっていた。

「……そうなるよう、努力はしているのだがな。
 五年った今でも、男として見てもらえている気がしない。
 年齢が近い私ですら難しいのだから、年下のお前たちではまず無理だろう」

 コルラウトがアンリの目をまっすぐ見つめた。

「姉上と兄上は三歳差、僕と姉上も三歳差です。
 兄上に可能性があるなら、僕にだって可能性があるはずです」

 アンリがクスリと笑った。

「そうか、では私とコルラウトはライバルだな。
 どちらが先にシトラスに男として認めてもらえるか、勝負だ。
 ――だがおそらく、お前に機会はないと思うぞ?」

 エルベルトが元気に手を挙げた。

「兄上! 僕はー?!」

「さすがにエルベルトは、どう頑張っても無理だろう。
 素直に他の令嬢を探す努力をするべきだ。
 ――じゃあな。お前たち、あまりシトラスに迷惑をかけるなよ」

 アンリが部屋に戻っていくのを見送って、二人の兄弟が顔を見合わせた。

「兄上だけが姉上をめとる機会があるだなんて、ずるいと思わないか?」

「思うー! 僕も姉上とずっと一緒に居たい!」

「よし、エルベルト! 僕らも姉上に見合う男になるよう、これから頑張ろう!」

「頑張るー!」


 周囲の従者たちは、その微笑ましい会話を笑いをこらえながら聞いていた。

 幼い彼らには、まだシトラスが背負う王統の話など理解はできないだろう。

 彼女と添いげるならば、この国を背負う覚悟が必要だ。

 それをいつか理解した時、彼らがどんな結論を下すのか――従者たちはそれを温かく見守ることにした。

 今はまだ、幼い彼らに夢を見せても構わないだろう。

 二人の兄弟は意気込みながら、自習をするために部屋に戻っていった。
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