形式だけの妻でしたが、公爵様に溺愛されながら領地再建しますわ

鍛高譚

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2-1 冷たい新婚生活と、小さな光

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2-1 冷たい新婚生活と、小さな光

ガルフストリーム公爵との結婚式は、貴族社会でも評判になるほど見事な式だった。
しかし、クラリティの胸に残ったのは華やかさではなく、深い空虚さ。

――これは、契約の結婚。

そう理解してはいたものの、実際の生活の冷たさは想像を遥かに超えていた。

式の翌朝。
クラリティが目を覚ました時には、夫の姿はもう邸にない。

「公務に出た。戻りは遅くなる」

それだけの言葉を残して。

夕刻に戻った彼は、形式的な挨拶をして、まるで何事もなかったかのように書斎へ消えていった。
彼女が勇気を出して話題を振っても、返ってくるのは短い返事だけ。
そして食卓には、豪華で広すぎる席にクラリティ一人。

その光景が続く数日間で、クラリティは結婚生活の現実を痛感した。


---

■ 邸内の静けさは、孤独を増幅させる

社交界に出るべきだと周囲は言った。
だが、婚約破棄の噂はまだ消えていない。

――公爵夫人として出ても、また嘲笑が向けられるだけ。

そう思うと足はすくんだ。

結局、クラリティは邸内で過ごす日々を選んだ。
本を読んだり刺繍をしたり……やることはあるのに、気持ちはどこか満たされない。

使用人たちは礼儀正しく接するが、距離は縮まらない。
皆、主のガルフストリームに倣い、一定の線を引いているようだった。

「ここは……私のための家じゃないわ」

誰もいない寝室で呟くその声は、あまりにも小さく震えていた。


---

■ 孤独な夕食と、冷たいメモ

ある夜、一人で夕食を取っていると、使用人が小さなメモを差し出した。

「本日も遅くなる。休息を取るように」

整った筆跡。
それだけの内容。

クラリティはそっとメモを置いた。

「私……何を祈ればよいのかも分からないわ」

食卓には温かい料理が並んでいるのに、胸の中はひどく冷たかった。

食後、彼女は屋敷の庭へ出た。
夜空一面に散った星々がまぶしいほどだったが、その美しささえ胸に届かない。

――誰かと見る星空はあんなに綺麗だったのに。

ふとそんなことを考えてしまう自分が嫌になる。


---

■ 夫との距離は、縮まるどころか深まるばかり

ガルフストリームは最低限の言葉しか交わさない。
まるで、必要以上の情を持つことを避けるかのように。

話しかけても、冷静に、そしてあっという間に会話は終わってしまう。
そのたび胸が痛み、彼女の中の孤独は蓄積していった。

「こんな生活が続くなら……私はどうなるのかしら」

夜になると、涙が頬を伝うことが多くなった。

人目を気にしなくていいのが、弱っている自分には唯一の救いだった。


---

■ “干渉しない”という言葉の意味

そんな日々の中で、ふと結婚前の彼の言葉が脳裏に蘇った。

――お互いに干渉しない自由を与える。

そのときは酷く冷たく感じた言葉。
だが、今は少しだけ違う意味に聞こえた。

(干渉しない……ということは、
 “私がどう生きるかは私が決めていい”ということ?)

自由が寂しさを生む一方で、それは彼女に与えられた唯一の武器でもあった。

「私……私自身のために生きていいの?」

問いかけた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなる。

それは、今まで感じたことのない種類の希望だった。


---

■ 小さな行動、大きな変化の予感

翌日から、クラリティの行動は少しずつ変わり始めた。

邸内を丁寧に歩いてみる。
庭園で咲く花の手入れの様子に目を向ける。
客間に飾られた美術品を眺め、そこに込められた歴史を知ろうとする。

どれも些細なこと。
しかし、彼女が“この家を知ろう”と歩み始めた証だった。

使用人にも、そっと声をかけるようになった。

「いつもありがとうございます。あなたのお仕事は……?」

最初は戸惑っていた彼らも、クラリティの控えめで温かな姿勢に、徐々に心を開き始める。

「……公爵夫人様は、よく見てくださるお方だ」

そんな小さな囁きが、邸の中に生まれつつあった。


---

■ 新しい始まりの予兆

形式的な結婚という現実は変わらない。
ガルフストリームの態度も相変わらず冷たいまま。

それでも――

クラリティは、自分の意志で人生を形作る一歩を踏み出した。

「私、この家で……できることを見つけてみせる」

この小さな決意が、やがて彼女の運命を大きく動かしていく。
そして、冷たい公爵との関係にも、知らぬ間に変化をもたらすことになるのだった。
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