形式だけの妻でしたが、公爵様に溺愛されながら領地再建しますわ

3-4 夜に溶ける秘密と、ふたりの距離

3-4　夜に溶ける秘密と、ふたりの距離

リーヴェントンの陰謀が防がれ、彼が社交界から消えたことで、公爵家に広がっていた不穏な気配は一旦収束した。
だが、クラリティの胸にはひとつだけ消えない影が残っていた。

――“ガルフストリームの足元を揺るがすもの”。

リーヴェントンが最後に残した言葉は、まるで胸の奥に小さな棘を刺したように引っかかり続けていた。
夫に直接尋ねるべきか。しかし、彼が話す気になっていない秘密を無理に暴くことは、信頼を壊すことになるかもしれない。

迷いだけが、静かに積もっていった。


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疑念と信頼の狭間で

ガルフストリームと共に調査を進める日々は、クラリティにとって心地よいものになっていた。
以前とは違う。
形式的な夫婦ではなく、ひとつの目的を分かち合う相手として、彼が自分を信じてくれている――そんな実感があった。

だが同時に、彼はすべてを明かしているわけではないことも分かる。

ある夜、彼と向かい合った書斎で、クラリティは思い切って口を開いた。

「……もし、あなたに隠していることがあるのなら、私に話していただけませんか？」

ペン先の音が止まり、ガルフストリームのまつ毛がわずかに震えた。
しかし、彼はすぐに視線をそらす。

その仕草に、クラリティの胸はぎゅっと締めつけられた。
やはり、彼の中には触れられたくない“何か”がある。

「……話すべきかどうか、ずっと迷っていた。」

ガルフストリームの声は低く、かすかに揺れていた。
その弱さに触れた瞬間、クラリティはそっと言葉を重ねた。

「私は……あなたの力になりたいのです。」

信じたい。
ただそれだけだった。


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告白の夜

長い沈黙のあと、ガルフストリームは深く息を吐き、初めて“弱い部分”を見せた。

「――公爵家の財務状況が、限界に近い。」

クラリティは息をのむ。

公爵家は繁栄している――誰もがそう信じていた。
それは彼が完璧に見せていたからだ。

「どうして、そんな……？」

「私が当主になったときには、すでに深刻だった。先代が無謀な投資を繰り返し、負債が積み上がっていた。
公にすれば、公爵家の権威は崩壊する。屋敷で働く者たちの生活も守れなくなる。」

言葉の端々には、重責に押しつぶされそうな苦しさが滲んでいた。

「リーヴェントンが知っていたのは……そのことなんですね。」

「そうだ。彼はそれを盾に、私が金で口をつぐむと思っていたのだろう。」

ガルフストリームはクラリティを見つめた。

「しかし、君がいてくれた。君が動いてくれたおかげで、彼に屈する必要がなかった。」

静かな告白だった。
だが、クラリティの胸には強く響いた。


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支え合う決意

クラリティは穏やかに息を吸い、そして真っ直ぐに彼を見つめた。

「私に、あなたの力になれることはありませんか？」

その瞳には迷いも怯えもなかった。
そこにあるのは、強い意志――ガルフストリームを支えたいという純粋な思い。

ガルフストリームはしばらく彼女を見つめたあと、小さく微笑んだ。

「……君がそう言ってくれるなら、私はもうひとりで抱えるつもりはない。
共に乗り越えよう。」

その微笑みは、これまで見たどんな笑みよりも優しかった。

クラリティの胸に、熱が宿る。
形式だけの夫婦ではなく――彼の隣に立つ“伴侶”になりたいと思った。


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共に歩む未来へ

翌日からクラリティは、公爵夫人としてではなく、ガルフストリームの“協力者”として動き始めた。

・無駄な支出を洗い出し
・屋敷内の管理を改善し
・信頼できる商家と連携して資金循環を整え
・友人たちのネットワークを活用して情報を集める

彼女の働きぶりは、屋敷の者たちの目にも明らかだった。

「君がここまで動いてくれるとは思わなかった。」

感嘆の声を漏らすガルフストリームに、クラリティは静かに微笑む。

「私は、公爵夫人ですから。」

その瞳には、確かな覚悟が光っていた。


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愛の予感

重荷を背負う彼に寄り添い、共に困難へ立ち向かううちに――
二人の距離は、驚くほど自然に縮まっていった。

ガルフストリームはクラリティの強さに惹かれ、
クラリティは彼が抱えてきた孤独に気づき、
触れ合う瞳の奥に温度が宿る。

夜、書斎で並び立つ二人。
帳簿に差し込む灯りの下で、ガルフストリームは静かに呟いた。

「……ありがとう、クラリティ。」

その声音には、深い信頼と……淡い想いが溶け込んでいた。

「あなたとなら、大丈夫です。」

二人はそっと見つめ合う。
その視線の交わりは、
確かに未来へと繋がっていた。

形式から始まった夫婦は、
ようやく“心”で寄り添う関係へと踏み出す――
そんな夜だった。


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