形式だけの妻でしたが、公爵様に溺愛されながら領地再建しますわ

3-3 再び揺らぐ影

3-3　再び揺らぐ影

ガルフストリーム公爵家で進められていた調査は、着実に核心へ近づいていた。
そしてついに、クラリティは耳を疑うような報告を受ける。

――かつての婚約者、リーヴェントン・グラシア。
その名が、不審な取引や影の動きの中心に浮かび上がったのだ。

「……やはり、彼でしたか。」

クラリティは静かに目を伏せた。
驚きよりも、妙な納得が胸に広がる。


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再来訪者

庭園で花の手入れをしていた午後。
一人の客の姿を見た途端、クラリティの手がぴたりと止まった。

――リーヴェントン・グラシア。

「これは驚いたな。君、前よりずっと綺麗じゃないか。」

軽薄な笑みを浮かべて近づいてくる彼。
その余裕めいた態度の奥に、焦りと追い詰められた気配が滲む。

「ご用件を伺います。ここは公爵家ですので。」

かつてのように怯えることはない。
今のクラリティの背には、公爵夫人としての確かな誇りがあった。

「本当は、公爵を通すべきなのは分かっている。だが、どうしても……君と話がしたくて。」

彼の声音には妙な湿り気があったが、
クラリティにはその演技が痛々しくすら見えた。

「ここで私が話すことはありません。どうぞ正式な手続きを。」

そう言って立ち去ろうとしたその瞬間、
リーヴェントンが慌てて進路を塞ぐ。

「待ってくれ！　私は……破滅寸前なんだ！」


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哀願と偽り

自分勝手な言葉に、クラリティは胸の奥で冷たい笑みを覚えた。

「あなたがその状況に陥ったのは、ご自身の選択です。私が口を挟むことではありません。」

落ち着いた声で返すと、リーヴェントンはさらに一歩踏み込んでくる。

「分かっている！　分かっているんだ……。
だが、君にはまだ私への情が残っているだろう？　後悔しているんだ、あの時のことを。今度こそ、君を大切に――」

――よくもまあ、息をするようにそんなことが言えたものだ。

クラリティは心の中でそう呟きながら、表情ひとつ変えず答えた。

「私は公爵夫人です。あなたの言葉に、価値はありません。」

淡々とした断言。それだけで、リーヴェントンの顔は引きつる。


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嫉妬という名の醜さ

「……そうか。やはり、あの冷たい男に心を奪われたんだな。」

リーヴェントンが低く呟いた。

「だが覚えておけ。私は――ガルフストリーム公爵の弱点を握っている。」

一瞬、クラリティの胸に緊張が走った。
しかし、その動揺を外に漏らすことはない。

「夫を侮辱するのはやめてください。あなたと夫を比べること自体が無意味です。」

毅然と言い切ると、リーヴェントンは苦々しく彼女を睨んだ。

クラリティは一度も振り返らず、その場を後にした。


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夫婦の対話

その夜、クラリティは全てをガルフストリームに報告した。

「……“足元を揺るがすもの”、ですか。」

ガルフストリームは眉をわずかに寄せた。
普段は滅多に表に出さぬ警戒心が、そこには確かにあった。

「彼の虚勢である可能性も高いが、念のため調査を強めよう。」

クラリティが不安を口にしようとすると、
ガルフストリームは優しく首を振る。

「君は十分に助けてくれているよ。これ以上、危険なことに巻き込まれる必要はない。」

その静かな言葉に、クラリティの胸に温かさが広がった。


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最後の悪あがき

ほどなくして、リーヴェントンは追い詰められた獣のように動いた。
内通者を使って書類を盗み、公爵を脅迫しようとしたのだ。

だが――。

「罠にかけたつもりが、自分が落ちるとはね。」

全ての動きはガルフストリームに読まれていた。
証拠は押さえられ、内通者も拘束され、リーヴェントンの計画は完全に瓦解する。

彼が最後に見せた表情は、
哀れ、という言葉がぴたりと当てはまるものだった。

「クラリティ、君が知らせてくれたおかげだ。ありがとう。」

静かに礼を告げるガルフストリーム。
その瞳に宿る誠実さが、クラリティの胸を温かく満たした。


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沈む者と、前を向く者

リーヴェントンは全てを失い、
ついに社交界から跡形もなく姿を消した。

彼の末路を聞いたクラリティは、
悲しみではなく、不思議なほどの解放感を覚えていた。

――自分は、もう後ろを見なくていい。

そう静かに実感しながら、
クラリティは新しい未来へ歩み出す決意を固めていった。