形式だけの妻でしたが、公爵様に溺愛されながら領地再建しますわ

４−４ 未来へ向けた誓い

４－４　未来へ向けた誓い


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領地巡りの旅が終わりに近づく頃、クラリティとガルフストリームの間には、以前とは比べものにならないほどの信頼が芽生えていた。
形式的だった夫婦関係は、旅の中で少しずつ温度を帯び、互いを支え合う心が育ちはじめていた。

そして迎えた最後の訪問地――ガルフストリーム家の中心都市。
ここで二人は、夫婦として大切な決断を下すことになる。


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◆城下町の喧騒と、彼女の自覚

城下町は活気に満ちていた。
市場には香辛料や布地、細工物が所狭しと並び、町人たちの声が飛び交う。

クラリティはそんな光景を見つめながら、胸の奥で静かに感じていた。

――私は、この土地と、この人々を守る存在になりたい。

「君が微笑むと、人が集まってくるな。」
隣で歩くガルフストリームがそう言って小さく笑った。

「そんな……私はただ、挨拶をしているだけです。」

「それがいいんだ。領民にとって、君の笑顔は安心そのものだ。」

褒められたクラリティの胸に、ふわりと温かさが灯る。
彼の言葉はいつも真っ直ぐで、嘘がない。


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◆祝宴の夜のダンス

夜になると、公会堂では二人の帰還を祝う宴が開かれた。

音楽が流れ、領民たちの笑顔が明かりに照らされる。
クラリティは淡い金糸のドレスに身を包み、気品と柔らかさを併せ持つ姿で視線を集めていた。

「クラリティ。」
ガルフストリームがそっと手を差し出した。

「よければ、一曲付き合ってくれないか。」

「……はい。」

手を添えると、彼は優しく導き、二人はゆっくりとホールの中央へ。
回転するたびにドレスの裾が花のように広がり、クラリティの頬もまた――ひらりと桃色に染まっていく。

「美しい。」
ガルフストリームが低く呟く。

「な……何を急に……。」

「心から思ったことを言っただけだ。」

彼の声は深く落ち着いていて、クラリティは返す言葉を失ってしまう。
胸がぽうっと熱くなるのを感じながらも、彼の肩に預ける手は自然と力を抜いていった。


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◆突然の火種

しかし、穏やかな時間は突如破られる。

「報告！ 市街に不審者が侵入！武装した集団です！」

騎士の叫びに場が一瞬で騒然となった。

ガルフストリームはすぐさま鋭い目つきに戻り、指示を飛ばす。
クラリティもまた迷うことなく動き出した。

「皆さん、こちらへ！ 落ち着いて、順番に避難してください！」

その声は驚くほど強く、澄んでいた。
領民たちはクラリティを中心にまとまり、混乱は最小限に抑えられた。

ガルフストリームは一瞬だけ彼女の姿を見つめる。
その胸に走った感情は――頼もしさ、そして誇りだった。

「クラリティ。ここは頼んだ。すぐ戻る。」

「……はい。どうかお気をつけて。」

短い言葉に全ての想いを込めて、彼を送り出した。


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◆荒事の後の再会

騒動は短い戦闘で終わりを迎えた。
かつてリーヴェントンに従っていた残党の仕業だったが、公爵軍は迅速に鎮圧した。

ガルフストリームが戻ってきた時、クラリティは避難した人々をひとりずつ見回して安心させているところだった。

「よくやってくれた。」
ガルフストリームが静かに声をかける。

「領民の誰一人として傷ついていない。……君のおかげだ。」

クラリティは小さく首を振る。

「いいえ。あなたが守ってくれると信じていたから、私も動けたのです。」

二人は互いの目を見つめ、ほんの数秒だけ、何も言わずに微笑み合った。
それだけで、胸の奥に温かいものが満ちていく。


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◆本物の夫婦へ

屋敷に戻った夜、ガルフストリームはクラリティを廊下で呼び止めた。

「クラリティ。」

彼はいつになく真剣で、揺るぎない眼差しを向けている。

「今回の旅で……私は変わった。
そして、気づいたんだ。
君が、ただの“契約上の妻”ではないことに。」

クラリティの胸が大きく跳ねた。

「クラリティ。
これからは形式ではなく、心で……君の隣に立ちたい。
君と共に未来を歩みたい。」

その言葉は、まっすぐで、ひどく優しくて、胸を強く締めつけた。

クラリティはゆっくりと笑みを浮かべる。

「……私もです。
あなたと共に歩めるのなら、どんな未来でも怖くありません。」

ガルフストリームの表情が春のように和らぎ、二人はそっと手を重ねた。
その手は、もう二度と離れることはないと約束するように温かかった。


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◆二人の未来

形式だけで結ばれたはずの夫婦は、旅を通して互いの心を知り、そして選んだ。

――ただの夫婦ではなく、本当の夫婦として共に生きる未来を。

夜空の下、二人の影は寄り添うように重なり合い、その先に続く道を照らしていた。

これは一つの“終わり”であり、同時に――
二人が紡ぎ始める新しい愛の物語の“始まり”だった。