白い結婚で結構ですわ。殿下より、私の自由のほうが大事ですので

鍛高譚

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9話

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発覚する裏事情

 王族や大臣たちが集まるガーデンパーティの中心では、まさに外交使節との歓談が行われていた。リオネル殿下も、国王を補佐する立場として会話に加わっているようで、顔にはそれなりに真摯な表情が浮かんでいる。
 私たちは、その場をあまり荒立てないよう、侍女を通じて殿下に「緊急の要件がある」とささやき、少し離れた場所で待機した。ほどなくして、殿下がこちらへやってくる。

「どうしたんだ、ルージュ。それにリナ……顔色が悪いぞ」

 リオネル殿下が近づいてくると、リナは居ても立ってもいられない様子で、膝を折りかけた。

「リオネル様……その、私……こんな大事な書類を……!」

 そう言って差し出された羊皮紙を見たとき、殿下は一瞬息を呑んだ。まるで見てはいけない物を見てしまったかのような、曖昧な驚きの表情。私は、その微かな反応を見逃さなかった。

「殿下、これはリナがあなたの部屋で拾ったと主張しています。私が中身を確認したところ、どうやら軍事や国境警備に関する機密情報らしいですね?」

「……あ、ああ……確かに王家の執務室で取り扱っていた報告書だ。草稿の一部だったはずだが、まだ精査が終わっていなかったな。どうしてこんなところに……?」

 殿下はわずかに動揺の色を見せる。私はじっとその青い瞳を見つめ、静かに言葉を継いだ。

「殿下、あの部屋には殿下しか正式には立ち入れないはずです。それが、なぜ床に落ちていたのか……。しかもリナが拾うまで、殿下は書類を紛失していたことに気づかなかったと?」

「そ、それは……。最近、公務が立て込んでいて、書類整理が追いついていなかったんだ。リナは……ええと、僕がいない間に掃除を任せることがたまにある。かといって、普通は大事な資料は机の奥にしまってあるし、落ちていたのなら僕の不注意かもしれない……」

 言葉を選ぶように言い淀む殿下。そこへリナが必死の形相で訴える。

「リオネル様……私は殿下から特別な指示なんて受けていません。本当にただの拾い物で、殿下に返そうと思っていたんです……! 信じてください!」

「もちろん、リナを疑うつもりはないさ。けど、これはまずい……。もしこの書類が外部に流出したら、王家は大きな痛手を負う。誰かが意図的にリナを巻き込もうとしている可能性だってあるだろう……」

 殿下は苦い表情を浮かべながら書類を受け取り、急いで封をし直す。私も無理やり口を挟む。

「殿下、パーティが終わったら速やかに王家の部局へ報告したほうがいいわ。これが正式に問題化すれば、リナは『平民が機密を盗んだ』と疑われるかもしれないもの」

「わ、わかった。僕が早急に対処する。リナの潔白を証明するのも僕の役目だ」

 リオネル殿下はそう言ってくれたものの、どこか上の空のようにも見える。何かを隠している、そんな違和感があった。

(まさかとは思うけど、殿下ご自身がリナに書類を……? いや、それは考えにくい。だって殿下にメリットがないじゃない)

 私は複雑な気持ちを抱えながらも、とりあえずリナを落ち着かせるべくその場を離れた。ほどなくして、殿下は再び要人たちの輪へと戻っていく。私には何か説明しきれない思惑があるように見えたが、この場で問い詰めるわけにもいかない。
 一方のリナは、ひどく落ち込んだ様子で、「ご迷惑をおかけしてばかりで……本当に申し訳ありません」と何度も頭を下げてくる。私は彼女をなだめつつ、「とりあえずは殿下を信じて待ちましょう」と答えるしかなかった。

 ——それが、暗雲のはじまり。
 あくる日、さらに大きな騒ぎが私たちを襲うことになる。
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