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9話
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皇帝との対面
皇宮の内部へと足を踏み入れると、まず目に飛び込んできたのは、豪奢な廊下と天井の装飾だ。黄金や白銀だけでなく、漆黒の石材や深紅の絨毯が絶妙に組み合わされ、帝国らしい重厚な美を作り上げている。
その廊下を、クラウスとフローラ、そして数名の侍従や騎士たちが連れ立って進んでいく。扉がいくつも並び、所々に甲冑が飾られていたり、美しい壁画が描かれていたりと、見どころは尽きない。
そして、やや広い空間を抜けた先に、一際頑丈そうな大扉が待ち受けていた。そこには金細工で帝国の紋章が掲げられ、衛兵が二人、厳かに控えている。
「こちらが、謁見の間でございます」
侍従の言葉に、フローラは緊張で思わず背筋を伸ばす。王国の王城にも「謁見の間」はあったが、そこに通されるときはいつも息苦しい思いをしたものだ。
扉が開かれ、フローラはクラウスに伴われながら中へ進む。室内は広々としており、左右には華麗な柱が連なり、上部には高い天井がある。奥には玉座らしき豪奢な椅子が据えられ、そこに座していたのは……
「――よく来たな、クラウス。隣にいるのが、例の王国から来た令嬢か」
玉座の少し手前で立ち上がった男性――壮年の域に入っていると思しきその人物は、鋭い眼光と堂々たる体躯を持ち、まさしく皇帝の威厳を体現していた。
クラウスは軽く頭を下げる。
「父上。先ほど帰還した。こちらが、王国より迎え入れることとなったフローラ・フォン・リヴェールだ」
名を呼ばれ、フローラは慌てて礼を取った。
「は、初めまして……フローラ・フォン・リヴェールと申します。皇帝陛下にこうしてお目にかかれること、大変光栄に存じます」
おそるおそる顔を上げると、皇帝陛下――クラウスの父が、じっとフローラを見つめているのがわかる。その眼差しは厳格ではあるが、敵意や嫌悪は感じられない。むしろ冷静に「どんな人物なのか」を評価しようとしているようだ。
「……なるほど。見たところ、まだ若く、か弱そうな娘だな。だが、王国の王太子を蹴ってでも手に入れる価値があると、我が息子は判断したわけか?」
フローラが返答に詰まっていると、クラウスが口を開く。
「いや。俺が欲しくなったから、こっちに来てもらっただけだ。それに、そもそも王国の王太子がフローラを放り出したんだ。だったら遠慮なく迎え入れればいいだろう」
なんとも率直な言い方に、フローラは一瞬ドキリとする。皇帝の前でも、変わらずはっきりした物言いをするあたり、クラウスらしいと言うべきか。
皇帝は苦笑ともつかない微妙な表情を浮かべるが、その目は息子を頼もしげに見ているようでもある。
「……ふむ、クラウスらしいな。まったく。だが、私は構わん。お前がどう判断しようと、この帝国の後継者はお前だ。花嫁の一人や二人、好きにすればいい」
「父上、数が多いのは勘弁だ。俺にはフローラがいればいい」
さらりとそう言い放つクラウスの隣で、フローラは恥ずかしさのあまり顔が熱くなる。こんな公の場で、しかも皇帝相手に何を言っているのだろう……と思わず俯きそうになるが、それこそが彼の自然体なのだろう。
しかし皇帝は、そのやり取りを面白がるかのように微笑を浮かべ、フローラに向き直った。
「フローラ・フォン・リヴェールとやら、歓迎しよう。このラグナ帝国で不自由があれば、遠慮なく言うがいい。ここではお前も、立派な『皇太子妃候補』だ。自分の身を安んじてもらわねばならんからな」
「……あ、ありがとうございます。恐れながら、私など至らぬ点ばかりですが……」
「知らん。至らぬならば学べばいい。学びたければ、うちの息子を使えばいい。お前らの好きにやれば、自然と周りもついてくるだろう」
実に豪胆な言葉だ。王国での王太子や貴族たちの態度とは大違いだ。ふと、フローラは「本来なら、皇帝陛下はもっと威厳を全面に押し出すような方では?」と思ってしまうが、どうやら彼は必要以上に威圧するつもりはないらしい。
もちろん内心はどうか分からない。しかし少なくとも、この場ではフローラを敵視していないことは確かだ。それが、彼女にとっては救いだった。
皇宮の内部へと足を踏み入れると、まず目に飛び込んできたのは、豪奢な廊下と天井の装飾だ。黄金や白銀だけでなく、漆黒の石材や深紅の絨毯が絶妙に組み合わされ、帝国らしい重厚な美を作り上げている。
その廊下を、クラウスとフローラ、そして数名の侍従や騎士たちが連れ立って進んでいく。扉がいくつも並び、所々に甲冑が飾られていたり、美しい壁画が描かれていたりと、見どころは尽きない。
そして、やや広い空間を抜けた先に、一際頑丈そうな大扉が待ち受けていた。そこには金細工で帝国の紋章が掲げられ、衛兵が二人、厳かに控えている。
「こちらが、謁見の間でございます」
侍従の言葉に、フローラは緊張で思わず背筋を伸ばす。王国の王城にも「謁見の間」はあったが、そこに通されるときはいつも息苦しい思いをしたものだ。
扉が開かれ、フローラはクラウスに伴われながら中へ進む。室内は広々としており、左右には華麗な柱が連なり、上部には高い天井がある。奥には玉座らしき豪奢な椅子が据えられ、そこに座していたのは……
「――よく来たな、クラウス。隣にいるのが、例の王国から来た令嬢か」
玉座の少し手前で立ち上がった男性――壮年の域に入っていると思しきその人物は、鋭い眼光と堂々たる体躯を持ち、まさしく皇帝の威厳を体現していた。
クラウスは軽く頭を下げる。
「父上。先ほど帰還した。こちらが、王国より迎え入れることとなったフローラ・フォン・リヴェールだ」
名を呼ばれ、フローラは慌てて礼を取った。
「は、初めまして……フローラ・フォン・リヴェールと申します。皇帝陛下にこうしてお目にかかれること、大変光栄に存じます」
おそるおそる顔を上げると、皇帝陛下――クラウスの父が、じっとフローラを見つめているのがわかる。その眼差しは厳格ではあるが、敵意や嫌悪は感じられない。むしろ冷静に「どんな人物なのか」を評価しようとしているようだ。
「……なるほど。見たところ、まだ若く、か弱そうな娘だな。だが、王国の王太子を蹴ってでも手に入れる価値があると、我が息子は判断したわけか?」
フローラが返答に詰まっていると、クラウスが口を開く。
「いや。俺が欲しくなったから、こっちに来てもらっただけだ。それに、そもそも王国の王太子がフローラを放り出したんだ。だったら遠慮なく迎え入れればいいだろう」
なんとも率直な言い方に、フローラは一瞬ドキリとする。皇帝の前でも、変わらずはっきりした物言いをするあたり、クラウスらしいと言うべきか。
皇帝は苦笑ともつかない微妙な表情を浮かべるが、その目は息子を頼もしげに見ているようでもある。
「……ふむ、クラウスらしいな。まったく。だが、私は構わん。お前がどう判断しようと、この帝国の後継者はお前だ。花嫁の一人や二人、好きにすればいい」
「父上、数が多いのは勘弁だ。俺にはフローラがいればいい」
さらりとそう言い放つクラウスの隣で、フローラは恥ずかしさのあまり顔が熱くなる。こんな公の場で、しかも皇帝相手に何を言っているのだろう……と思わず俯きそうになるが、それこそが彼の自然体なのだろう。
しかし皇帝は、そのやり取りを面白がるかのように微笑を浮かべ、フローラに向き直った。
「フローラ・フォン・リヴェールとやら、歓迎しよう。このラグナ帝国で不自由があれば、遠慮なく言うがいい。ここではお前も、立派な『皇太子妃候補』だ。自分の身を安んじてもらわねばならんからな」
「……あ、ありがとうございます。恐れながら、私など至らぬ点ばかりですが……」
「知らん。至らぬならば学べばいい。学びたければ、うちの息子を使えばいい。お前らの好きにやれば、自然と周りもついてくるだろう」
実に豪胆な言葉だ。王国での王太子や貴族たちの態度とは大違いだ。ふと、フローラは「本来なら、皇帝陛下はもっと威厳を全面に押し出すような方では?」と思ってしまうが、どうやら彼は必要以上に威圧するつもりはないらしい。
もちろん内心はどうか分からない。しかし少なくとも、この場ではフローラを敵視していないことは確かだ。それが、彼女にとっては救いだった。
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