王太子妃の器ではないと言われましたが、帝国の未来そのものでした

鍛高譚

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8話

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皇太子妃候補としての到着

 長い石畳の道を進み、やがて宮殿の正面にある広場へと到着すると、一同は馬車を止めた。
 クラウスは馬からすらりと降りると、フローラの乗る馬車の扉へ近づく。そして、自分の手を差し出しながら、彼女を促す。
「着いたぞ、フローラ。恐れることはない――ここが、お前の新しい居場所だ」
 その手を見つめ、フローラは一瞬戸惑う。婚約者とはいえ、まだ正式な儀式も済ませていない相手。だが、彼女は次の瞬間、意を決してその手を取った。
「……ありがとうございます」
 クラウスの掌は大きく、温もりが感じられる。王国にいた頃には、こんなふうにエスコートされたことはほとんどなかった。アルベルトが愛人を連れていた夜会の光景を思い出し、思わず苦い記憶がよみがえるが――同時に、それをかき消すような安心感があった。
 足を地面に下ろし、フローラが皇宮の正門前に立つと、衛兵や侍従らしき人々が次々に頭を下げる。どうやら、クラウスを直接出迎えるために控えていた者たちらしい。
 一人の侍従がクラウスに声をかける。
「殿下、先ほど陛下より『到着次第、謁見の間へ通すように』との指示がございました。フローラ様をお連れいただきたいとのことです」
「父上が……わかった。すぐに通させてもらう。フローラ、少しばかり急がせるがいいか?」
「はい、構いません……」
 父上――つまりは皇帝陛下が自分と会うことを希望しているという。フローラは一気に緊張感を高めた。相手は大国ラグナ帝国の頂点に立つ人物だ。下手な振る舞いがあれば、今後の身の置き所がなくなるかもしれない。
 しかし、クラウスはそんな彼女の心配を見透かしたように、そっと微笑む。
「大丈夫だ。お前は俺の客人であり、これからは皇太子妃候補でもある。多少のことがあっても、俺が責任を取る。失敗など恐れず、お前の思うままに言葉を交わしてくれればいい」
「……はい」
 その言葉は簡単なようでいて、実際にはとても難しい。王国で長年、周囲の顔色を伺いながら生きてきたフローラにとって、自分の考えをまっすぐ口にするのは苦手中の苦手だったからだ。
 それでも、クラウスの存在がどこか心強いのは事実だった。王国の王太子とは比べ物にならないほどの気概と包容力を持つ彼ならば、もしかしたら本当に「私を守ってくれるのかもしれない」――そう思わせる何かがある。
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