13 / 25
第3章 嫉妬する旦那様と政略結婚の崩壊
13話
しおりを挟む
――シュヴァルツ侯爵家に嫁いでから、はや半月。
リゼット・エヴァンティアは、夫となったアレクシス・フォン・シュヴァルツのやさしい配慮と、邸内の使用人たちの丁寧なサポートのおかげで、少しずつ「当主夫人」としての生活に慣れてきていた。
それでも、以前まで暮らしていたエヴァンティア家とは勝手が違うし、王宮や社交界で噂される“冷酷な侯爵”の内面を、すべて掴み切れたわけでもない。だが、アレクシスは何かとリゼットを気遣い、彼女の意思を尊重しようと努めてくれている。その事実が、リゼットの心を穏やかにしていた。
朝の陽射しが柔らかく差し込む寝室で、リゼットは今日の予定表に目を通す。シュヴァルツ家当主夫人として、訪問客の応対や領内の視察など、こまごまとした行事や仕事も増えてきた。最初は戸惑っていたものの、アレクシスの方針で「気負わずにできることから取り組めばいい」と言われ、リゼットも前向きに取り組んでいる。
今朝のスケジュールには、アレクシスと共に役所へ行く用事があった。領内で新たに敷設する道路工事の進捗を確認するためだという。もともとアレクシスが単独で行う予定だったが、リゼットが「ぜひ一緒に行ってみたい」と申し出たのだ。
「旦那様、おはようございます」
寝室を出て廊下を進むと、ちょうどアレクシスが執事と話しこんでいた。書類を受け取りながら何事か指示を出し、視線をこちらに向ける。いつもどおり、キリッと引き締まった表情だ。
「おはよう、リゼット。……具合はどうだ? 昨夜は疲れて早めに休んだと聞いたが」
「はい、おかげさまで今朝はすっきり目が覚めました。今日の外出は私も同行してよろしいんですよね?」
アレクシスは軽く笑って頷く。
「もちろん。領内を見たいと言っていたし、実際に足を運ぶのはいいことだ。最初は慣れないかもしれないが、一緒に行こう」
そうして二人は、並んで屋敷の玄関へ向かった。執事や使用人たちが「行ってらっしゃいませ」と見送るなか、馬車へ乗り込む。大きな窓から入る冷たい風が、季節がまだ冬の名残を留めていることを感じさせる。
揺れる馬車の中でアレクシスは書類に目を落としつつ、リゼットのほうをうかがうように小さく声をかけた。
「領地の公務は地味な作業が多いから、退屈を感じるかもしれないが……大丈夫か?」
リゼットは微笑んで首を横に振る。
「退屈だなんて。むしろ、こういう地道な仕事が領地を支えているのね。勉強させてもらうわ」
「そっか……。なら、じっくり見ていくといい。現地の技師や役人から直接話を聞くのもいい経験になるだろう」
今までリゼットは、“公爵令嬢”としての教養や礼儀を学んできた。だが、領地経営や政治の現場をまじまじと見る機会は少なかった。以前は、貴族の娘にそこまで求められることはあまりない。だからこそ、この新しい世界に足を踏み入れるのは少し緊張すると同時に、どこか新鮮でわくわくする気持ちもあった。
リゼット・エヴァンティアは、夫となったアレクシス・フォン・シュヴァルツのやさしい配慮と、邸内の使用人たちの丁寧なサポートのおかげで、少しずつ「当主夫人」としての生活に慣れてきていた。
それでも、以前まで暮らしていたエヴァンティア家とは勝手が違うし、王宮や社交界で噂される“冷酷な侯爵”の内面を、すべて掴み切れたわけでもない。だが、アレクシスは何かとリゼットを気遣い、彼女の意思を尊重しようと努めてくれている。その事実が、リゼットの心を穏やかにしていた。
朝の陽射しが柔らかく差し込む寝室で、リゼットは今日の予定表に目を通す。シュヴァルツ家当主夫人として、訪問客の応対や領内の視察など、こまごまとした行事や仕事も増えてきた。最初は戸惑っていたものの、アレクシスの方針で「気負わずにできることから取り組めばいい」と言われ、リゼットも前向きに取り組んでいる。
今朝のスケジュールには、アレクシスと共に役所へ行く用事があった。領内で新たに敷設する道路工事の進捗を確認するためだという。もともとアレクシスが単独で行う予定だったが、リゼットが「ぜひ一緒に行ってみたい」と申し出たのだ。
「旦那様、おはようございます」
寝室を出て廊下を進むと、ちょうどアレクシスが執事と話しこんでいた。書類を受け取りながら何事か指示を出し、視線をこちらに向ける。いつもどおり、キリッと引き締まった表情だ。
「おはよう、リゼット。……具合はどうだ? 昨夜は疲れて早めに休んだと聞いたが」
「はい、おかげさまで今朝はすっきり目が覚めました。今日の外出は私も同行してよろしいんですよね?」
アレクシスは軽く笑って頷く。
「もちろん。領内を見たいと言っていたし、実際に足を運ぶのはいいことだ。最初は慣れないかもしれないが、一緒に行こう」
そうして二人は、並んで屋敷の玄関へ向かった。執事や使用人たちが「行ってらっしゃいませ」と見送るなか、馬車へ乗り込む。大きな窓から入る冷たい風が、季節がまだ冬の名残を留めていることを感じさせる。
揺れる馬車の中でアレクシスは書類に目を落としつつ、リゼットのほうをうかがうように小さく声をかけた。
「領地の公務は地味な作業が多いから、退屈を感じるかもしれないが……大丈夫か?」
リゼットは微笑んで首を横に振る。
「退屈だなんて。むしろ、こういう地道な仕事が領地を支えているのね。勉強させてもらうわ」
「そっか……。なら、じっくり見ていくといい。現地の技師や役人から直接話を聞くのもいい経験になるだろう」
今までリゼットは、“公爵令嬢”としての教養や礼儀を学んできた。だが、領地経営や政治の現場をまじまじと見る機会は少なかった。以前は、貴族の娘にそこまで求められることはあまりない。だからこそ、この新しい世界に足を踏み入れるのは少し緊張すると同時に、どこか新鮮でわくわくする気持ちもあった。
2
あなたにおすすめの小説
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
「無理をするな」と言うだけで何もしなかったあなたへ。今の私は、大公家の公子に大切にされています
葵 すみれ
恋愛
「無理をするな」と言いながら、仕事も責任も全部私に押しつけてきた婚約者。
倒れた私にかけたのは、労りではなく「失望した」の一言でした。
実家からも見限られ、すべてを失った私を拾い上げてくれたのは、黙って手を差し伸べてくれた、黒髪の騎士──
実は、大公家の第三公子でした。
もう言葉だけの優しさはいりません。
私は今、本当に無理をしなくていい場所で、大切にされています。
※他サイトにも掲載しています
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
毒家族から逃亡、のち側妃
チャイムン
恋愛
四歳下の妹ばかり可愛がる両親に「あなたにかけるお金はないから働きなさい」
十二歳で告げられたベルナデットは、自立と家族からの脱却を夢見る。
まずは王立学院に奨学生として入学して、文官を目指す。
夢は自分で叶えなきゃ。
ところが妹への縁談話がきっかけで、バシュロ第一王子が動き出す。
君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。
みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。
マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。
そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。
※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる