14 / 25
第3章 嫉妬する旦那様と政略結婚の崩壊
14話
しおりを挟む
やがて馬車が役所の前に到着すると、事前に連絡を受けていた役人たちが迎えに出る。アレクシスが降り立ち、続いてリゼットがドレスの裾を持ち上げながら慎重に外へ出ると、冷たい空気が一段と肌にしみた。
「旦那様、奥様、ようこそお越しくださいました。こちらへどうぞ……」
恭しく頭を下げる役人に続き、建物の中へと案内される。中に通されると、すでに何人もの技師や職人が待機しており、大きな地図や設計図がテーブルに広げられていた。
アレクシスは落ち着いた口調で役人たちと話を交わし、道路工事の予定区間や資金の流れなどを確認していく。リゼットも隣に座り、耳を傾けながら設計図をのぞきこんだ。
「ここは湿地帯に近いので、土壌が柔らかく、通常の舗装では雨季に崩れやすい恐れがあるとの意見が出ています……」
「では、下地となる石を厚めに敷く必要がありますね。費用はかさむが、完成後に修繕を繰り返すよりは経済的だ」
そんなやり取りをしているうちに、リゼットはふとアレクシスが非常に理論的かつ実務的な話し方をすることに感心した。普段は人前で多くを語らない印象があるが、こうした公務の場では必要な情報を的確に引き出し、要点をまとめる力を持っている。まさに“優秀な領主”といったところだ。
(なるほど……冷酷だなんて噂されているのは、こういう実務態度が誤解されているのかも。無駄を嫌い、問題点を淡々と指摘するから、感情がないように見えるのかもしれないわね)
打ち合わせが一通り終わり、アレクシスはメモをまとめて役人たちに最後の指示を出す。
「では、再度具体的な予算案とスケジュールを組み直して、今週中に私のところへ報告を。予算面でのやり繰りは私のほうでも検討するが、まずは無駄を削ぎつつ、必要なところにきちんと費用をかけてくれ」
「かしこまりました、旦那様」
こうして役所での仕事を終えたあと、アレクシスとリゼットは簡単な昼食をはさんでから工事予定地へ足を運んだ。まだ工事の本格的な着工は始まっていないが、重機や資材の一部が運び込まれ、下見をする技師や職人たちの姿がちらほら見える。
リゼットは少し脇へ寄り、草の上を踏みしめながら辺りを見渡した。空は曇っており、やや肌寒いが視界は悪くない。地面には水気が多い場所があり、ここが確かに軟弱な地盤だとわかる。
「なるほど……。実際に見てみると、ここに道路を通すのは大変そうですね」
アレクシスはリゼットの言葉に小さく頷く。
「そうだろう? こういう現場を確認しておかないと、机上の計画だけでは想像しにくい部分も多い。……ああ、足元に気をつけて。そっちはぬかるんでいるから」
彼がリゼットの手をそっと支えてくれる。その瞬間、リゼットはふわりと頬が熱くなるのを感じた。相変わらずアレクシスはさりげなく優しい。
――こんなふうに夫婦で領地を視察し、今後の方針を考える。政略結婚だとはいえ、この関係は決して悪くない。むしろ、リゼットの胸にはどこか誇らしさすら芽生えていた。
「旦那様、奥様、ようこそお越しくださいました。こちらへどうぞ……」
恭しく頭を下げる役人に続き、建物の中へと案内される。中に通されると、すでに何人もの技師や職人が待機しており、大きな地図や設計図がテーブルに広げられていた。
アレクシスは落ち着いた口調で役人たちと話を交わし、道路工事の予定区間や資金の流れなどを確認していく。リゼットも隣に座り、耳を傾けながら設計図をのぞきこんだ。
「ここは湿地帯に近いので、土壌が柔らかく、通常の舗装では雨季に崩れやすい恐れがあるとの意見が出ています……」
「では、下地となる石を厚めに敷く必要がありますね。費用はかさむが、完成後に修繕を繰り返すよりは経済的だ」
そんなやり取りをしているうちに、リゼットはふとアレクシスが非常に理論的かつ実務的な話し方をすることに感心した。普段は人前で多くを語らない印象があるが、こうした公務の場では必要な情報を的確に引き出し、要点をまとめる力を持っている。まさに“優秀な領主”といったところだ。
(なるほど……冷酷だなんて噂されているのは、こういう実務態度が誤解されているのかも。無駄を嫌い、問題点を淡々と指摘するから、感情がないように見えるのかもしれないわね)
打ち合わせが一通り終わり、アレクシスはメモをまとめて役人たちに最後の指示を出す。
「では、再度具体的な予算案とスケジュールを組み直して、今週中に私のところへ報告を。予算面でのやり繰りは私のほうでも検討するが、まずは無駄を削ぎつつ、必要なところにきちんと費用をかけてくれ」
「かしこまりました、旦那様」
こうして役所での仕事を終えたあと、アレクシスとリゼットは簡単な昼食をはさんでから工事予定地へ足を運んだ。まだ工事の本格的な着工は始まっていないが、重機や資材の一部が運び込まれ、下見をする技師や職人たちの姿がちらほら見える。
リゼットは少し脇へ寄り、草の上を踏みしめながら辺りを見渡した。空は曇っており、やや肌寒いが視界は悪くない。地面には水気が多い場所があり、ここが確かに軟弱な地盤だとわかる。
「なるほど……。実際に見てみると、ここに道路を通すのは大変そうですね」
アレクシスはリゼットの言葉に小さく頷く。
「そうだろう? こういう現場を確認しておかないと、机上の計画だけでは想像しにくい部分も多い。……ああ、足元に気をつけて。そっちはぬかるんでいるから」
彼がリゼットの手をそっと支えてくれる。その瞬間、リゼットはふわりと頬が熱くなるのを感じた。相変わらずアレクシスはさりげなく優しい。
――こんなふうに夫婦で領地を視察し、今後の方針を考える。政略結婚だとはいえ、この関係は決して悪くない。むしろ、リゼットの胸にはどこか誇らしさすら芽生えていた。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
亡き姉を演じ初恋の人の妻となった私は、その日、“私”を捨てた
榛乃
恋愛
伯爵家の令嬢・リシェルは、侯爵家のアルベルトに密かに想いを寄せていた。
けれど彼が選んだのはリシェルではなく、双子の姉・オリヴィアだった。
二人は夫婦となり、誰もが羨むような幸福な日々を過ごしていたが――それは五年ももたず、儚く終わりを迎えてしまう。
オリヴィアが心臓の病でこの世を去ったのだ。
その日を堺にアルベルトの心は壊れ、最愛の妻の幻を追い続けるようになる。
そんな彼を守るために。
そして侯爵家の未来と、両親の願いのために。
リシェルは自分を捨て、“姉のふり”をして生きる道を選ぶ。
けれど、どれほど傍にいても、どれほど尽くしても、彼の瞳に映るのはいつだって“オリヴィア”だった。
その現実が、彼女の心を静かに蝕んでゆく。
遂に限界を越えたリシェルは、自ら命を絶つことに決める。
短剣を手に、過去を振り返るリシェル。
そしていよいよ切っ先を突き刺そうとした、その瞬間――。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる