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2話
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その日の夕刻。ココアは自室に戻り、細かい用件を一つずつ片付けていた。
広い部屋には、ピンクを基調としたドレッサーとベッドが置かれている。そこかしこに高価な小物や調度品があしらわれているが、ごちゃごちゃした印象はなく、むしろすっきりとした整頓ぶりだ。ココアの性格が表れているともいえる。
しばらく机に向かい書類を確認していると、コツコツとノックの音がした。声で応えようとすると、ひょいとドアの隙間からのぞき込む影がある。
「ココア、いるわよね?」
遠慮のない口調だが、ココアにとっては慣れ親しんだ声。
――モカ・エスプレッソ。彼女はココアの親友で、ブレンディ家にもしばしば出入りしている。
ゆるやかなウェーブのかかった茶色の髪と、トレンドを意識した洒落たドレスが目を引く。表情は柔和だが、目の奥はどこか鋭い。
「ええ、いるわよ。入ってちょうだい」
ドアが開き、モカがするりと入ってくる。
「聞いたわよ。カフェ・ブラックが今日、突然やって来たんでしょう? 何やら大事な話があるって」
「ええ、そうよ。あまりにも大事すぎて、ちょっと笑ってしまったくらい」
ココアは苦笑し、あらましを語る。婚約破棄を申し渡されたこと。そして、その理由が「真実の愛に目覚めたから」であること。
するとモカはほんの一瞬だけ目を見開き、すぐに口元を歪めた。
「あはは、それは面白いわね。あの無気力そうなカフェが、急に愛だなんて言い出すなんて。どんな革命が起きたのかしら」
「確かに。私もびっくりしちゃったわ。おかげで心の準備も何もなかった」
「それで、その婚約破棄……受け入れたの?」
「ええ。だって仕方ないでしょう? 本人がそう言うんだから。ここは素直に“返品”されてあげるほうが得策よ」
そう言って、ココアはモカに向けて薄く微笑んだ。するとモカは手を叩き、満面の笑みを浮かべる。
「ふふっ、さすがココアね。そんなにあっさり了承して、後々どうするつもり?」
「少なくとも、彼が抱えている裏事情を知りたいわ。あと“真実の愛”とやらに付き合わされる相手、クレオ・パステルさん……というのも気になるし」
「パステル商会の娘ね……噂に聞く限りじゃ、しっかり者で相当にやり手だって話よ。社交界には出てこないけど、商人同士の会合とかに顔を出してるらしいわ」
モカは情報通だ。貴族の交流だけでなく、庶民の噂話にもアンテナを張っている。そのため、彼女の口から出る情報は信頼度が高い。
ココアは頷きながら、先ほど抱いた疑問をモカにぶつけた。
「ブラック家って、最近財政が危ないって噂があるでしょう? それと関係しているのかしら」
「かもね。カフェ本人はどうか知らないけど、ブラック家の当主は資金繰りに苦労してるって聞くわ。パステル商会と繋がりを作れば、融資の話もスムーズに進むかもしれないし」
「つまり、“真実の愛”はビジネスの方便……という可能性も高いわけね」
「そう考えるのが自然でしょう。そうでなきゃ、こんな急に婚約破棄なんてありえないし」
モカの言葉にココアは大きく頷く。自分の考えと同じだ。
だとすれば、あの“真実の愛”の裏には、もっと生々しい思惑が渦巻いているはず。ココアとしては、そこを暴いてやりたい気持ちが湧き上がる。
「まあ、先に結論を言えば、ココアにとってチャンスよね? 邪魔な婚約者を処分できたんだもの。これで自由になれるわ」
「まさに。それを生かさない手はないわ。――でも、ただ黙って終わるのも面白くないじゃない? どうせなら、もう少し派手にやってみようと思っているの」
モカは楽しそうに笑みを深める。
「いいわねえ。協力するわよ。私も退屈していたところだし。いつでも声をかけてね」
「ありがとう。……それじゃあ、まずはクレオ・パステルさんとやらに接触してみたいわ。彼女がどう思っているのか、確かめるのが先決じゃない?」
「了解。そっちは私のほうでルートを探ってみるわ。商人ギルドとかに顔が利く友人がいるから、何とかなると思う」
「助かるわ。よろしくお願いね、モカ」
こうして二人は視線を交わし、策略じみた笑みを浮かべ合う。
公爵令嬢と腹黒参謀。この二人がタッグを組むとき、いつも刺激的な事件が起きる――というのは、ココア自身もモカ自身もよく分かっていた。
広い部屋には、ピンクを基調としたドレッサーとベッドが置かれている。そこかしこに高価な小物や調度品があしらわれているが、ごちゃごちゃした印象はなく、むしろすっきりとした整頓ぶりだ。ココアの性格が表れているともいえる。
しばらく机に向かい書類を確認していると、コツコツとノックの音がした。声で応えようとすると、ひょいとドアの隙間からのぞき込む影がある。
「ココア、いるわよね?」
遠慮のない口調だが、ココアにとっては慣れ親しんだ声。
――モカ・エスプレッソ。彼女はココアの親友で、ブレンディ家にもしばしば出入りしている。
ゆるやかなウェーブのかかった茶色の髪と、トレンドを意識した洒落たドレスが目を引く。表情は柔和だが、目の奥はどこか鋭い。
「ええ、いるわよ。入ってちょうだい」
ドアが開き、モカがするりと入ってくる。
「聞いたわよ。カフェ・ブラックが今日、突然やって来たんでしょう? 何やら大事な話があるって」
「ええ、そうよ。あまりにも大事すぎて、ちょっと笑ってしまったくらい」
ココアは苦笑し、あらましを語る。婚約破棄を申し渡されたこと。そして、その理由が「真実の愛に目覚めたから」であること。
するとモカはほんの一瞬だけ目を見開き、すぐに口元を歪めた。
「あはは、それは面白いわね。あの無気力そうなカフェが、急に愛だなんて言い出すなんて。どんな革命が起きたのかしら」
「確かに。私もびっくりしちゃったわ。おかげで心の準備も何もなかった」
「それで、その婚約破棄……受け入れたの?」
「ええ。だって仕方ないでしょう? 本人がそう言うんだから。ここは素直に“返品”されてあげるほうが得策よ」
そう言って、ココアはモカに向けて薄く微笑んだ。するとモカは手を叩き、満面の笑みを浮かべる。
「ふふっ、さすがココアね。そんなにあっさり了承して、後々どうするつもり?」
「少なくとも、彼が抱えている裏事情を知りたいわ。あと“真実の愛”とやらに付き合わされる相手、クレオ・パステルさん……というのも気になるし」
「パステル商会の娘ね……噂に聞く限りじゃ、しっかり者で相当にやり手だって話よ。社交界には出てこないけど、商人同士の会合とかに顔を出してるらしいわ」
モカは情報通だ。貴族の交流だけでなく、庶民の噂話にもアンテナを張っている。そのため、彼女の口から出る情報は信頼度が高い。
ココアは頷きながら、先ほど抱いた疑問をモカにぶつけた。
「ブラック家って、最近財政が危ないって噂があるでしょう? それと関係しているのかしら」
「かもね。カフェ本人はどうか知らないけど、ブラック家の当主は資金繰りに苦労してるって聞くわ。パステル商会と繋がりを作れば、融資の話もスムーズに進むかもしれないし」
「つまり、“真実の愛”はビジネスの方便……という可能性も高いわけね」
「そう考えるのが自然でしょう。そうでなきゃ、こんな急に婚約破棄なんてありえないし」
モカの言葉にココアは大きく頷く。自分の考えと同じだ。
だとすれば、あの“真実の愛”の裏には、もっと生々しい思惑が渦巻いているはず。ココアとしては、そこを暴いてやりたい気持ちが湧き上がる。
「まあ、先に結論を言えば、ココアにとってチャンスよね? 邪魔な婚約者を処分できたんだもの。これで自由になれるわ」
「まさに。それを生かさない手はないわ。――でも、ただ黙って終わるのも面白くないじゃない? どうせなら、もう少し派手にやってみようと思っているの」
モカは楽しそうに笑みを深める。
「いいわねえ。協力するわよ。私も退屈していたところだし。いつでも声をかけてね」
「ありがとう。……それじゃあ、まずはクレオ・パステルさんとやらに接触してみたいわ。彼女がどう思っているのか、確かめるのが先決じゃない?」
「了解。そっちは私のほうでルートを探ってみるわ。商人ギルドとかに顔が利く友人がいるから、何とかなると思う」
「助かるわ。よろしくお願いね、モカ」
こうして二人は視線を交わし、策略じみた笑みを浮かべ合う。
公爵令嬢と腹黒参謀。この二人がタッグを組むとき、いつも刺激的な事件が起きる――というのは、ココア自身もモカ自身もよく分かっていた。
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