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7話
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クレオの怒り
「……申し訳ありませんが」
クレオはソファから静かに立ち上がり、カフェを真っ直ぐ見据えた。
瞳には冷然とした光が宿っている。どこかビジネスライクな冷たさとも違う、沸々とした怒りを押し殺したような声で言い放つ。
「婚約など、お断りします」
「え……! な、なぜです?」
「なぜも何も、私たち会って五分も経ってませんよね? あなたは私を商品か何かと勘違いしているようですわ」
「い、いや、そんな……!」
「平民だからって舐めないでくださいませ」
そう言った瞬間、カフェの表情が凍りつく。
クレオは続ける。自分でも怒りを抑えきれなくなっているのがわかる。
「確かに貴族の家柄と商会の結びつきは珍しくありません。でもそれは、互いに利益を認め合った上での“取引”です。そちらが勝手に“運命だ”などと宣言して、私を追い詰めようとしているのなら、それはただの押し付けですわ」
「ち、違うんだ、俺はそんなつもりじゃ……!」
「もし本当に私を想ってくださるなら、まずはきちんと手順を踏んでください。私にとって、あなたは取引先の一つに過ぎません。こちらも商人としての矜持がありますので、唐突な『婚約』話など、到底お受けできません」
カフェは何か言い返そうとするが、上手く言葉が出てこない。たぶん、これほどハッキリ拒絶された経験は初めてなのだろう。
普段から貴族としてちやほやされてきた彼にとって、“平民の娘”からの毅然とした断りは衝撃かもしれない。
さらにクレオは息をついて、一旦言葉を和らげるように付け加える。
「それに、ブラック様がどう思われようと、私は自分の意志で相手を選びます。あなたの『真実の愛』とやらを強制されるいわれはありません」
「そ、そんな……」
「お引き取りくださいませ」
もう一度静かにそう言うと、カフェは渋々立ち上がった。完全に気圧されている。
商談が不調だったわけでもない。むしろ“真実の愛”を理由に一方的な申し出をして、門前払いを喰らっただけだ。
しかし、一度言い出した手前、カフェとしてもすぐには引き下がれないらしい。何か言いかけるが、クレオがその言葉を遮る。
「どうぞ、扉はそちらです。――平民を舐めると痛い目を見ますよ」
カフェは完全に言葉を失い、俯いたまま応接室を後にした。
部屋にはクレオ一人が残される。怒りで体が微かに震えている。
――どうしてこんな非常識な展開になったのか。彼が「真実の愛」とかいう妄言を抱いているだけなら、まだ笑い話で済むかもしれない。
だが、最近ブラック家が資金難に陥っているという噂を考えると、いよいよキナ臭い。要するに、パステル商会の莫大な資金と人脈が目当てで、しかも「平民なら口説けば簡単に転がせる」と思っているのだろうか。
クレオは胸の奥に冷たい炎が燃え上がるのを感じた。
「……商人なめんな、って話ですよ。いくら貴族でも許しませんわ」
ブツブツと呟いたあと、少しずつ怒りを鎮めようと深呼吸をする。
自分は商売人だ。ここで感情的になっても何も始まらない。もっと冷静に状況を分析し、どう対処すべきか考えなくては。
そう思いながら、クレオはソファに戻り、冷めかけた紅茶を一口含んだ。少し渋い味が、彼女の研ぎ澄まされた神経に染み渡る。
「……申し訳ありませんが」
クレオはソファから静かに立ち上がり、カフェを真っ直ぐ見据えた。
瞳には冷然とした光が宿っている。どこかビジネスライクな冷たさとも違う、沸々とした怒りを押し殺したような声で言い放つ。
「婚約など、お断りします」
「え……! な、なぜです?」
「なぜも何も、私たち会って五分も経ってませんよね? あなたは私を商品か何かと勘違いしているようですわ」
「い、いや、そんな……!」
「平民だからって舐めないでくださいませ」
そう言った瞬間、カフェの表情が凍りつく。
クレオは続ける。自分でも怒りを抑えきれなくなっているのがわかる。
「確かに貴族の家柄と商会の結びつきは珍しくありません。でもそれは、互いに利益を認め合った上での“取引”です。そちらが勝手に“運命だ”などと宣言して、私を追い詰めようとしているのなら、それはただの押し付けですわ」
「ち、違うんだ、俺はそんなつもりじゃ……!」
「もし本当に私を想ってくださるなら、まずはきちんと手順を踏んでください。私にとって、あなたは取引先の一つに過ぎません。こちらも商人としての矜持がありますので、唐突な『婚約』話など、到底お受けできません」
カフェは何か言い返そうとするが、上手く言葉が出てこない。たぶん、これほどハッキリ拒絶された経験は初めてなのだろう。
普段から貴族としてちやほやされてきた彼にとって、“平民の娘”からの毅然とした断りは衝撃かもしれない。
さらにクレオは息をついて、一旦言葉を和らげるように付け加える。
「それに、ブラック様がどう思われようと、私は自分の意志で相手を選びます。あなたの『真実の愛』とやらを強制されるいわれはありません」
「そ、そんな……」
「お引き取りくださいませ」
もう一度静かにそう言うと、カフェは渋々立ち上がった。完全に気圧されている。
商談が不調だったわけでもない。むしろ“真実の愛”を理由に一方的な申し出をして、門前払いを喰らっただけだ。
しかし、一度言い出した手前、カフェとしてもすぐには引き下がれないらしい。何か言いかけるが、クレオがその言葉を遮る。
「どうぞ、扉はそちらです。――平民を舐めると痛い目を見ますよ」
カフェは完全に言葉を失い、俯いたまま応接室を後にした。
部屋にはクレオ一人が残される。怒りで体が微かに震えている。
――どうしてこんな非常識な展開になったのか。彼が「真実の愛」とかいう妄言を抱いているだけなら、まだ笑い話で済むかもしれない。
だが、最近ブラック家が資金難に陥っているという噂を考えると、いよいよキナ臭い。要するに、パステル商会の莫大な資金と人脈が目当てで、しかも「平民なら口説けば簡単に転がせる」と思っているのだろうか。
クレオは胸の奥に冷たい炎が燃え上がるのを感じた。
「……商人なめんな、って話ですよ。いくら貴族でも許しませんわ」
ブツブツと呟いたあと、少しずつ怒りを鎮めようと深呼吸をする。
自分は商売人だ。ここで感情的になっても何も始まらない。もっと冷静に状況を分析し、どう対処すべきか考えなくては。
そう思いながら、クレオはソファに戻り、冷めかけた紅茶を一口含んだ。少し渋い味が、彼女の研ぎ澄まされた神経に染み渡る。
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