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8話
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噂が爆発する午後
その日の午後、クレオは他の用件を片付けながら、先ほどの出来事を商会の重役たちに報告した。
皆、一様に驚き、一部の者は激怒した。なかには「もしブラック家が当商会と結びつきたいなら、正式な手順を踏むのが筋」という意見もあれば、「いまさら財政難の家と組んでもデメリットしかない」という声もある。
クレオ自身は、ブラック家との取引が完全に無価値だとは思わない。しかし、「真実の愛」を旗印に強引に婚約しようなどという手段は、到底容認できるものではない。
結局、重役会議の結果としては「当面、ブラック家からの融資依頼は凍結。積極的な取引も見合わせる」と決まった。そもそも、もう少し誠実に交渉していれば、話は違ったのかもしれないが……。
「――で、問題はここからですよね」
重役の一人が、苦い顔をして口を開く。
「すでに街では“ブラック家の嫡男がクレオ様に求婚した”という噂が広がっています。しかも、ブレンディ令嬢との婚約を破棄してまで、パステル商会に鞍替えした――と」
「まあ、今朝あたりから聞きますね、その手の噂」
「世間話としては面白いでしょうし、放っておけば尾ひれがついて大きくなりそうですね」
商会の人々は、どこかうんざりした表情だ。クレオはテーブルを指先で軽く叩き、考えを巡らせる。
――こんな形で注目を浴びても、パステル商会としては一利もない。むしろ、変な話が出回れば、かえって他の取引先に警戒されるかもしれない。
ただし、完全に否定すればするほど、噂好きの連中はさらに面白がるだろう。かといって無視を決め込めば、「やはり裏事情があるのでは?」などと勘繰られる。
そこでクレオは、無駄な混乱を避けるために、簡潔な声明を出すことを提案した。
「商人ギルドあたりに協力をお願いして、こう発表しましょう。“クレオ・パステルは、ブラック公爵家との婚約を望んでいないし、その予定もない”――と」
「それで、噂はある程度沈静化できるでしょうか……?」
「外野がどう騒ごうと、当事者である私がきっぱり否定すれば、多少は収まるはずですよ。少なくとも、取引先が変に疑心暗鬼になるよりはマシでしょう」
重役たちは頷き合い、すぐに声明の草案づくりを始めた。
こうしてパステル商会は、ブラック家の唐突な“真実の愛”騒動を火消しに走ることになった。
しかし、その裏側で……ある貴族令嬢は、この一件を面白がり、積極的に嗅ぎまわろうとしている。その名は、ココア・ブレンディ。
クレオとココアが直接邂逅するのは、もうそう遠い日のことではなかった。
その日の午後、クレオは他の用件を片付けながら、先ほどの出来事を商会の重役たちに報告した。
皆、一様に驚き、一部の者は激怒した。なかには「もしブラック家が当商会と結びつきたいなら、正式な手順を踏むのが筋」という意見もあれば、「いまさら財政難の家と組んでもデメリットしかない」という声もある。
クレオ自身は、ブラック家との取引が完全に無価値だとは思わない。しかし、「真実の愛」を旗印に強引に婚約しようなどという手段は、到底容認できるものではない。
結局、重役会議の結果としては「当面、ブラック家からの融資依頼は凍結。積極的な取引も見合わせる」と決まった。そもそも、もう少し誠実に交渉していれば、話は違ったのかもしれないが……。
「――で、問題はここからですよね」
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「すでに街では“ブラック家の嫡男がクレオ様に求婚した”という噂が広がっています。しかも、ブレンディ令嬢との婚約を破棄してまで、パステル商会に鞍替えした――と」
「まあ、今朝あたりから聞きますね、その手の噂」
「世間話としては面白いでしょうし、放っておけば尾ひれがついて大きくなりそうですね」
商会の人々は、どこかうんざりした表情だ。クレオはテーブルを指先で軽く叩き、考えを巡らせる。
――こんな形で注目を浴びても、パステル商会としては一利もない。むしろ、変な話が出回れば、かえって他の取引先に警戒されるかもしれない。
ただし、完全に否定すればするほど、噂好きの連中はさらに面白がるだろう。かといって無視を決め込めば、「やはり裏事情があるのでは?」などと勘繰られる。
そこでクレオは、無駄な混乱を避けるために、簡潔な声明を出すことを提案した。
「商人ギルドあたりに協力をお願いして、こう発表しましょう。“クレオ・パステルは、ブラック公爵家との婚約を望んでいないし、その予定もない”――と」
「それで、噂はある程度沈静化できるでしょうか……?」
「外野がどう騒ごうと、当事者である私がきっぱり否定すれば、多少は収まるはずですよ。少なくとも、取引先が変に疑心暗鬼になるよりはマシでしょう」
重役たちは頷き合い、すぐに声明の草案づくりを始めた。
こうしてパステル商会は、ブラック家の唐突な“真実の愛”騒動を火消しに走ることになった。
しかし、その裏側で……ある貴族令嬢は、この一件を面白がり、積極的に嗅ぎまわろうとしている。その名は、ココア・ブレンディ。
クレオとココアが直接邂逅するのは、もうそう遠い日のことではなかった。
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