白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇

鍛高譚

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第6話 リオナの改革① まずは清掃と食事

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第6話 リオナの改革① まずは清掃と食事

キッチンの掃除が進むにつれて、ようやく使える鍋が一つ、二つと姿を現し始めた。
メアリの頬は煤で汚れ、髪は跳ね、腕には水が飛び散っている。

それでも彼女は明るい顔で言った。

「お嬢様、見てください! この鍋、ちゃんと使えますよ!」

「まあ、ありがとうメアリ。これで温かいスープが作れますわね」

リオナは袖をまくり、鍋を受け取る。
王都の伯爵邸では決して自分で台所に立つことなどなかったが、それを苦に感じるどころか、むしろ嬉しさすらあった。

(わたくし……ずっと、何かを“育てる”ことが好きでしたもの)

植物も、猫も、書類も。
腐りかけた事務所すら整理すれば生き返ると信じていた。
では――この孤児院はどうか。

壊れた壁、傾いた扉、怯える子どもたち。
すべてが悲鳴を上げているようだった。

(ならば……わたくしが救わなければ)

決意を胸に、リオナは鍋を抱えて外へ向かった。

庭では、騎士団の青年が薪を割り、カイル団長が火を調整している。
詰め所から持ってきた簡易のかまどの前には、子どもたちが心配そうに並んでいた。

ティムが小走りで駆け寄ってくる。

「リオナ! 火、ついたよ!」

「まあ、すばらしいですわ。偉いわ、ティム」

褒められたティムは耳まで真っ赤になる。

一方、ミラは火のゆらめきを見て、ほんの少し怯え気味だ。

リオナはそっと手を添えた。

「大丈夫ですわ。騎士団の皆さまが見ています。火は危険ですが、正しく扱えば、ごはんを作ってくれる優しいものなのです」

ミラは小さく頷いた。

カイルがリオナの方をちらりと見る。

「お前、子ども扱いが上手いな」

「好きですもの、子どもたち」

「なるほどな」

カイルは無駄のない動作で薪をくべ、火力を調節する。
その手際に、リオナは素直に感嘆した。

「さすが騎士団長ですわ。何でもこなせますのね」

「火の管理は戦場で必須だ。まあ、お前が誉めるほどのことじゃねえよ」

そう言いながら、どこか嬉しそうだ。

リオナは鍋に水を入れ、持ってきた野菜をざくざくと切り始める。
包丁の扱いは慣れたもので、孤児院の子どもたちが目を丸くして見ている。

「リオナ、料理できるの?」

エマが恐る恐る尋ねる。

「できますわ。伯爵家の娘でも、家庭的なことを学ぶのは大切なことですもの」

「へえ……すごい」

エマの声はまだ震えているが、先ほどより柔らかい。

鍋に野菜と豆を入れると、ほのかに香りが立ってきた。

ミラが小さく呟いた。

「……いい匂い」

リオナは微笑みながら、調味料を加える。

「このスープは栄養がありますのよ。たくさん食べてくださいね」

「ほんとに……たくさん?」

ルークが扉の影から顔だけ覗かせて尋ねる。

「ええ。おかわりもありますわ」

「……」

ルークの目が、ほんの少しだけ輝いた。

メアリが皿を並べ、ティムとミラがその補助をする。
カイルは、鍋を倒さないように火加減を調整してくれている。

夕日が沈みかけ、オレンジ色の光が孤児院の荒れた庭に差し込む中――
大きな鍋は、子どもたちを迎えるように、ぐつぐつと音を立てていた。

そして、ついに完成。

リオナは子どもたちを呼び寄せた。

「さあ、召し上がれ」

ティムが慎重にひと口すすると……目を見開いた。

「……おいしい!」

その声を聞いたミラも、エマも、ルークも次々にスプーンを口に運ぶ。

「……あったかい……」

「おいしい……」

「ずっと……こんなの、食べたこと……ない」

最後の言葉はルークだった。

リオナは胸が締め付けられる思いで、その顔を見つめる。

小さな手は震えているのに、それでも必死にスプーンを握っている。

(この子たち……どれほどの時間、お腹を空かせていたのかしら)

涙が出そうになったが、リオナは笑顔を崩さなかった。

「いっぱい食べて、元気になりましょうね」

隣でカイルが腕を組んで、子どもたちの様子を静かに見守っている。

「……お前、やっぱり貴族らしくねえな」

「誉め言葉として受け取っておきますわ」

「別に誉めちゃいねえ」

言葉とは裏腹に、カイルの眼差しは優しかった。

子どもたちが食事を終える頃には、庭に温かい雰囲気が満ちていた。

リオナは心の中でそっと誓う。

(ここから始めましょう。この孤児院を……必ず、生まれ変わらせますわ)

この夜、子どもたちは久しぶりに満腹で眠りにつくことになる。
それは、小さな奇跡の第一歩だった。

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