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005 想像していた通りの物語
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「いい天気だけど……、あつーーーーい」
暑すぎる。全然初夏じゃないわ。真夏よ、これ。しかも無風のせいか、じわりと汗が体にまとわりついてくる。
それに病み上がりなせいだけじゃなくて、この子、体力なさすぎだわ。
やっとの思いで屋敷の庭までたどりついたものの、その中央にある噴水に行くまでにすでに体が重く動かなくなってしまった。
その場でしゃがみ込んだのはいいものの、ここから部屋に引き返すのかと思うと地獄ね。
めまいまではいかないけれど、フラフラして息が上がっちゃっているし。
どうしよう。無理すぎる。キツイよ。
しかもここで倒れたところで、昨日みたいに誰も助けてくれないんでしょう?
推定夫君にも喧嘩売っちゃったし、死亡フラグしかないじゃない。もう少し考えて行動すべきだったわ。
ここまで動けないなんて、想定外なんだもの。
「はぁ。どうするのよ、これ」
私は顔を押さえながら、ただため息を吐いた。
足元には黒く小さなアリに似た虫が、綺麗な隊列を作って歩いている。
仲間なのか家族なのか。
虫にだってそういうものがあるのに、なんで私はこんな広い屋敷で一人ぼっちなのだろう。
なんか惨めだなぁ。いっそ、ここから抜け出せたらいいのに。
でも逃走するにしても体力なさすぎは問題ね。
食べて体力つけなきゃ。前世の知識があったって、一人で働きながら生きていくのは到底無理ね。
「あ、あの! だ、大丈夫でしゅか?」
やや舌足らずで涼やかな声に、私は顔を上げた。
見れば、四、五歳くらいだろうか。
ハニーブロンドの髪に青い瞳の小さな男の子が、やや体をかがめながらこちらをのぞき込んでいた。
やや震えながらも、私を気遣うようにその瞳は不安げだ。
「えっと……ルカ様?」
「あ、は、はい。そうでしゅ、ビオラ様!」
やっぱり、この子がルカなのね。
私が想像していた物語と同じだわ。
昔読んだ本。それは自分に関心のない継母と、実母に似たせいで父からも愛してもらえなかった主人公ルカの物語。
ルカは家庭環境に恵まれずに虐げられた子ども時代を経て、一度闇落ちしたあと、ヒロインの愛で救われるというものだった。
異世界恋愛モノにしては結構複雑な人間関係が絡んでいて、何度も読み返したからよく覚えている。
ルカの実母は政略結婚の末に公爵との間にルカをもうけるのだけど、元より公爵のお金にしか興味がなくて、結局大金を持ちだした挙句ルカを捨てて他の男と逃げちゃったのよね。
そして端役でしかない私、ビオラは公爵の後妻としてここに嫁いできた。
元第三王女なんだけど、これが結構なモブなのよね。
公爵が好きすぎて自ら後妻になったのに、夫である公爵に嫌われてて相手にされず、ただ一人孤独に退場……って。
いや、うん。はっきりとした理由は忘れちゃったけど、病気か何かでの死亡退場だった気がするわ。なんか、今の状況ってまさにその延長って感じよね。死んだ先の今が私なんじゃないのかな。
私のことは今は置いといたとっして、ルカってこんな可愛らしく天使のような子なのに、誰も興味を示さないってなんなの?
継母であるビオラが興味を示さないのは、まだ分かる。
立ち位置的に、自分が愛した人の子ではあるけど、血は繋がっていないからね。
まだ二十歳そこそこのビオラには、なかなか受け入れられなかったのも頷ける。
だけど実の父親だったら……ああ、でもあんなキャラだものね。
なんとなく分かる気もするわ。
「あの、ビオラ様大丈夫でしゅか?」
「え、ああそうね……」
「あの、あの」
どこまでもルカの瞳は不安げだ。
私を心配する以上に、今まで接点がなかった人間にいきなり声をかけているのだもの。
いくら子どもが好奇心旺盛とはいえ、やっぱりそうなるわよね。
「この暑さで、少し目が回ってしまったみたいなの」
「それは大変でしゅ! ちょっと待っててくだしゃい」
私が返答を終えぬうちに、ルカはその小さな体で勢いよく走り出した。
ぽてぽてと不規則に体を揺らしながら走るその後ろ姿すら、どこまでも可愛らしい。
「ホント、天使みたいね」
気づけばそう言葉に出してしまっていた。
暑すぎる。全然初夏じゃないわ。真夏よ、これ。しかも無風のせいか、じわりと汗が体にまとわりついてくる。
それに病み上がりなせいだけじゃなくて、この子、体力なさすぎだわ。
やっとの思いで屋敷の庭までたどりついたものの、その中央にある噴水に行くまでにすでに体が重く動かなくなってしまった。
その場でしゃがみ込んだのはいいものの、ここから部屋に引き返すのかと思うと地獄ね。
めまいまではいかないけれど、フラフラして息が上がっちゃっているし。
どうしよう。無理すぎる。キツイよ。
しかもここで倒れたところで、昨日みたいに誰も助けてくれないんでしょう?
推定夫君にも喧嘩売っちゃったし、死亡フラグしかないじゃない。もう少し考えて行動すべきだったわ。
ここまで動けないなんて、想定外なんだもの。
「はぁ。どうするのよ、これ」
私は顔を押さえながら、ただため息を吐いた。
足元には黒く小さなアリに似た虫が、綺麗な隊列を作って歩いている。
仲間なのか家族なのか。
虫にだってそういうものがあるのに、なんで私はこんな広い屋敷で一人ぼっちなのだろう。
なんか惨めだなぁ。いっそ、ここから抜け出せたらいいのに。
でも逃走するにしても体力なさすぎは問題ね。
食べて体力つけなきゃ。前世の知識があったって、一人で働きながら生きていくのは到底無理ね。
「あ、あの! だ、大丈夫でしゅか?」
やや舌足らずで涼やかな声に、私は顔を上げた。
見れば、四、五歳くらいだろうか。
ハニーブロンドの髪に青い瞳の小さな男の子が、やや体をかがめながらこちらをのぞき込んでいた。
やや震えながらも、私を気遣うようにその瞳は不安げだ。
「えっと……ルカ様?」
「あ、は、はい。そうでしゅ、ビオラ様!」
やっぱり、この子がルカなのね。
私が想像していた物語と同じだわ。
昔読んだ本。それは自分に関心のない継母と、実母に似たせいで父からも愛してもらえなかった主人公ルカの物語。
ルカは家庭環境に恵まれずに虐げられた子ども時代を経て、一度闇落ちしたあと、ヒロインの愛で救われるというものだった。
異世界恋愛モノにしては結構複雑な人間関係が絡んでいて、何度も読み返したからよく覚えている。
ルカの実母は政略結婚の末に公爵との間にルカをもうけるのだけど、元より公爵のお金にしか興味がなくて、結局大金を持ちだした挙句ルカを捨てて他の男と逃げちゃったのよね。
そして端役でしかない私、ビオラは公爵の後妻としてここに嫁いできた。
元第三王女なんだけど、これが結構なモブなのよね。
公爵が好きすぎて自ら後妻になったのに、夫である公爵に嫌われてて相手にされず、ただ一人孤独に退場……って。
いや、うん。はっきりとした理由は忘れちゃったけど、病気か何かでの死亡退場だった気がするわ。なんか、今の状況ってまさにその延長って感じよね。死んだ先の今が私なんじゃないのかな。
私のことは今は置いといたとっして、ルカってこんな可愛らしく天使のような子なのに、誰も興味を示さないってなんなの?
継母であるビオラが興味を示さないのは、まだ分かる。
立ち位置的に、自分が愛した人の子ではあるけど、血は繋がっていないからね。
まだ二十歳そこそこのビオラには、なかなか受け入れられなかったのも頷ける。
だけど実の父親だったら……ああ、でもあんなキャラだものね。
なんとなく分かる気もするわ。
「あの、ビオラ様大丈夫でしゅか?」
「え、ああそうね……」
「あの、あの」
どこまでもルカの瞳は不安げだ。
私を心配する以上に、今まで接点がなかった人間にいきなり声をかけているのだもの。
いくら子どもが好奇心旺盛とはいえ、やっぱりそうなるわよね。
「この暑さで、少し目が回ってしまったみたいなの」
「それは大変でしゅ! ちょっと待っててくだしゃい」
私が返答を終えぬうちに、ルカはその小さな体で勢いよく走り出した。
ぽてぽてと不規則に体を揺らしながら走るその後ろ姿すら、どこまでも可愛らしい。
「ホント、天使みたいね」
気づけばそう言葉に出してしまっていた。
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