白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
58 / 75

057 力の証明

しおりを挟む
 外の世界は、どこまでも高い青空が広がっていた。
 雲一つなく、真っ青だ。

 生きてる。生きて出られた。
 そう実感するのもつかの間、私は急いで地下へと続く道に鉄の蓋を当てはめた。

 閉めてさえしまえば、ねずみたちはいつも通りの生活に戻るだろう。
 
 でも今回のことはきちんと報告しなくちゃ。
 あれだけねずみが一気に増えていたとなると、次の掃除の時に絶対に事故が起こる。

 そうじゃなくても、きっとお父様なら前回よりも危険だからと値段を吊り上げるはずね。

 もしそうなれば、私が怪我をしたことだって許してくれるかしら。
 ああ、そうだわ。
 娘が怪我をしたって訴えれば、元々地下の管理は国の役目だもの。

 慰謝料みたいなのを請求できるかもしれないしって言えば、きっと大丈夫よ。

「大丈夫?」

 そう言いながら、助けたその子が私をのぞき込む。
 きっとずっとしゃべらなかったから、焦らせてしまったようだ。

 改めて、その子の顔をゆっくりと私は見つめた。

 フードをかぶっていたから気づかなかったけど、黒い髪に赤い瞳の男の子。
 目鼻立ちもくっきりしていて、歳は私よりもいくつか上みたい。

 着ているものも、うちの使用人たちのような簡素な布の服ではない。
 しっかりと刺繍が施された生地もそうだけど、つるつるとしたその生地は一般市民が買えるようなものではないわね。

「たぶん、問題はないかと」
「たぶんって、すごく血が出ているじゃないか」
「やめて。見ないようにしているんだから」

 そう、恐ろしいほどの痛みはある。 
 立ち上がれるかと言われれば、立ち上がれないし、歩けもしない。

 だけど傷口を見てしまえば、もっと痛みが増すことなんて分かっている。
 だからあえて考えないようにしていたのに。

「見ないようにって……。手当しなきゃダメだよ」
「そうかもしれないけど、今はどうしようも出来ないでしょ。家に帰らなきゃ」
「俺のせいだ」

 今にも泣き出しそうなその顔。
 貴族の子って、もっと偉ぶっていて感じ悪いって思っていたのに。

 この子はちゃんと、自分が悪いだなんて表現できるんだ。

 偏見かもしれないけど、なんかすごいな。
 今まで見てきた人たちとは違うみたい。

「うちに行こう! すぐに手当させるよ。本当にごめん。こんなことになるなんて」
「ねえ一個聞いてもいい?」
「ん? どうしたの?」
「なんであなたは地下にいたの? 普通なら、あなたみたいな人がいる場所じゃないはずよ」

 私はふと疑問に思っていたことを口に出す。
 確かに地下へ続く道は、清掃のために開いていた。

 だから入れないことはない。
 だけど誰も好き好んであんな薄暗く、臭い場所になどは入りたがる人などいない。

 でももし、何かの手違いであそこから落ちて迷い込んでしまっていたのなら、うちの責任になったりするのかしら。

 それこそお父様にバレたら、食事抜きぐらいじゃ済まされないし。

「地下がたまたま開いてて……」

 バツが悪そうに、彼は私から視線をそらす。

「落ちたの?」
「……そうじゃなくて。昨日、父さんと喧嘩して……」
「入ったの?」
「俺が強いって証明したくて」

「は? 父親と喧嘩して、自分の実力を証明するために、ねずみに挑んだってこと?」
「本当にごめん。こんなことになるなんて思わなかったんだ。父さんが俺はまだまだ弱いから騎士団になんて入れられないって言うから、どうしても実力を示したくて」
「馬鹿じゃないの⁉」

 貴族相手に言ってはいけない言葉だとは思いつつも、感情と共にそんな言葉が口から洩れてしまっていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

《完結》初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】 私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。 そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、 死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。 「でも、子供たちの心だけは、 必ず取り戻す」 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。 それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。 これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

処理中です...