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063 いつかの備えも
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私はいくつかのアンジェラのバラの実を袋に詰め込むと、あらかじめもう一通送っておいた手紙の主の元へ。
待ち合わせ場所は最悪だった。
私が知らないだろうといいことに、彼の所属するギルドの本部だったのだから。
表向きはただの裏路地の奥にある酒場。
だけど私は父の話を聞いたことがあるから、よく知っている。
それでも忙しい自分に会いたいのなら、ここへ来いという横暴さだ。
まったく、こっちの目的も知らないで。
そう文句が口から出そうになりながらも、私は薄汚い酒場のドアを開けた。
すると開けたその瞬間から、中にいる男たちの視線が突き刺さる。
私は大きく息を吸ったあと、かぶっていたフードを取った。
男たちは私に近寄ろうとしていたものの、この髪を見た途端、その動きがピタリと止まる。
大嫌いなあの人の象徴も、こういう時には役に立つらしい。
「ホントにここまでよく来たな」
そんな軽口を叩きながら、一番奥からヒューズが手を上げてこちらに歩いて来る。
「あなたがここを指定したんじゃなかったっけ?」
「そうだけど、普通は断ると思ったからさ」
まったく。確信犯てことね。
腹が立つ。
「よく言うわ」
「仕方ないだろう。手紙でも伝えた様に、こっちは今大忙しなんだ」
ヒューズはそう言いながら、一番手前の席の椅子を引いて見せる。
私は一度辺りを見回したあと、彼が指定する席に座った。
男たちはヒューズが来たせいもあってか、私を見ることはない。
だけどそれ以外のかすかな視線が、至る所から集まっている気がする。
敵地までとは言わないけど、歓迎はされるわけもないことぐらい承知の上だ。
しかも今、彼が忙しくしている原因も知っているから尚更ね。
「そんな忙しいあなたの元へ、わざわざ大切なものを届けに来てあげたのよ。泣いて感謝されてもいいところなんだけど?」
私はそう言いながら、持っていた袋をテーブルの上に出す。
「ん? なんだそれ」
袋に興味を示し、手を出そうとした彼を制止するために、私は自分の元へ袋を引き寄せた。
すると焦らされたヒューズの顔は曇り、眉間にシワが寄る。
「薬と言えば分かるかしら」
「!」
その言葉に、中にいた男たちが殺気立つ。
「おい!」
殺気に気付いたヒューズが大きな声を上げた。
一瞬、その殺気で息が止まるほどだ。
やはり、ミーアのバラ病が早かったから、きっとそうじゃないかって踏んでいたのだ。
どうやら私の読みは当たっていたらしい。
「何をどこまで知っている?」
ヒューズの声はどこまでも低い。
今までの人懐っこい顔も、声も何もかもがただの演技だったと分かるほど。
「安心して。知っているのは私だけ。そして今流行りつつある病気の名と、その治療法だけよ」
「どこで知った」
「うちの侍女もかかっているの。だからまず先に、きっと貧民街から広がったと仮定しただけよ」
あくまでも、私の口から言うのはそれだけ。
本当は知っている。
彼らの長であるギルド長がその病にかかっていることも、このあと命を落とすことも。
だけどそれを口にしてしまえば、私だってただでは済まないから。
「アレはなんだ?」
「バラ病というの。隣国で昔からある病の一つらしいわ。初めに微熱。その後、少しずつバラのような痣が全身に広がっていく。そしてそのうちその痣は痛みと熱を持ち動けなくなり、最後は死に至るの」
「死ぬのか!」
「ええそうよ。治療しなければね」
かつてこの闇ギルトの長は初期に感染して死んだ者の一人だ。
父がよく言っていた。
元々ここの長と繋がりがあった父は、裏でも幅を利かせてきた。
だけど長が死んで混乱が起こり、自分も出入りしづらくなってしまったって。
別に私は裏と繋がりたいわけではない。
ただ恩を売って、父との対立に備えたいだけ。
どうせ知らない人間より、知った人間の方がまだ安全だから。
父を排除したあとに、ここの人たちに難癖付けられたら困るのよ。
「だから薬となるものを持ってきたのよ」
私はそう言いがら袋に入った実を取り出し、ヒューズに見せた。
彼はやや訝しそうな顔で、実をジッと見る。
「感染が進んで、痛みが出た者にはこれをすり潰したものをスプーンの半分くらいずつ毎日飲ませてあげて。まだ痣が出ただけの軽い者たちにはこれを煮出したお茶を配れば大丈夫よ」
「あんた、どうしてそこまでここに肩入れする?」
「もちろん下心があるからに決まっているでしょう」
きっぱりと言い切れば、ヒューズはゲラゲラと声を上げて笑い出した。
でもなんだかその姿に、私はホッと胸を撫でおろす。
「んで、望みは?」
「もうすぐ泥船を漕ぐ一番のヤツを引き下ろすの。その時、もしこちらに危害が及びそうだったら手を貸して欲しいだけよ」
私はあえてそれが誰かとは告げずに、自分の髪を掴み揺らして見せた。
「そんなことでいいのか?」
「私にとってはそれが一番大事だから」
「分かった。その時は協力してやるよ」
「ありがとう。もしこれ足りなかったら、送らせるから文を送って」
「まったくあんたもあの男と変わらないくらい肝が据わってるんだな」
「あら。私はあの上を行くつもりよ」
そう言いながら、私は席を立つ。
あの上を行く。ううん。もしかしたら、そう決めた時から上を行っているのかも。
私はそれくらい強くなったって自覚はあるわ。
そんな風に強くなれた自分にやや嬉しくなりつつも、私は彼らにヒラヒラと手を振り店を後にした。
待ち合わせ場所は最悪だった。
私が知らないだろうといいことに、彼の所属するギルドの本部だったのだから。
表向きはただの裏路地の奥にある酒場。
だけど私は父の話を聞いたことがあるから、よく知っている。
それでも忙しい自分に会いたいのなら、ここへ来いという横暴さだ。
まったく、こっちの目的も知らないで。
そう文句が口から出そうになりながらも、私は薄汚い酒場のドアを開けた。
すると開けたその瞬間から、中にいる男たちの視線が突き刺さる。
私は大きく息を吸ったあと、かぶっていたフードを取った。
男たちは私に近寄ろうとしていたものの、この髪を見た途端、その動きがピタリと止まる。
大嫌いなあの人の象徴も、こういう時には役に立つらしい。
「ホントにここまでよく来たな」
そんな軽口を叩きながら、一番奥からヒューズが手を上げてこちらに歩いて来る。
「あなたがここを指定したんじゃなかったっけ?」
「そうだけど、普通は断ると思ったからさ」
まったく。確信犯てことね。
腹が立つ。
「よく言うわ」
「仕方ないだろう。手紙でも伝えた様に、こっちは今大忙しなんだ」
ヒューズはそう言いながら、一番手前の席の椅子を引いて見せる。
私は一度辺りを見回したあと、彼が指定する席に座った。
男たちはヒューズが来たせいもあってか、私を見ることはない。
だけどそれ以外のかすかな視線が、至る所から集まっている気がする。
敵地までとは言わないけど、歓迎はされるわけもないことぐらい承知の上だ。
しかも今、彼が忙しくしている原因も知っているから尚更ね。
「そんな忙しいあなたの元へ、わざわざ大切なものを届けに来てあげたのよ。泣いて感謝されてもいいところなんだけど?」
私はそう言いながら、持っていた袋をテーブルの上に出す。
「ん? なんだそれ」
袋に興味を示し、手を出そうとした彼を制止するために、私は自分の元へ袋を引き寄せた。
すると焦らされたヒューズの顔は曇り、眉間にシワが寄る。
「薬と言えば分かるかしら」
「!」
その言葉に、中にいた男たちが殺気立つ。
「おい!」
殺気に気付いたヒューズが大きな声を上げた。
一瞬、その殺気で息が止まるほどだ。
やはり、ミーアのバラ病が早かったから、きっとそうじゃないかって踏んでいたのだ。
どうやら私の読みは当たっていたらしい。
「何をどこまで知っている?」
ヒューズの声はどこまでも低い。
今までの人懐っこい顔も、声も何もかもがただの演技だったと分かるほど。
「安心して。知っているのは私だけ。そして今流行りつつある病気の名と、その治療法だけよ」
「どこで知った」
「うちの侍女もかかっているの。だからまず先に、きっと貧民街から広がったと仮定しただけよ」
あくまでも、私の口から言うのはそれだけ。
本当は知っている。
彼らの長であるギルド長がその病にかかっていることも、このあと命を落とすことも。
だけどそれを口にしてしまえば、私だってただでは済まないから。
「アレはなんだ?」
「バラ病というの。隣国で昔からある病の一つらしいわ。初めに微熱。その後、少しずつバラのような痣が全身に広がっていく。そしてそのうちその痣は痛みと熱を持ち動けなくなり、最後は死に至るの」
「死ぬのか!」
「ええそうよ。治療しなければね」
かつてこの闇ギルトの長は初期に感染して死んだ者の一人だ。
父がよく言っていた。
元々ここの長と繋がりがあった父は、裏でも幅を利かせてきた。
だけど長が死んで混乱が起こり、自分も出入りしづらくなってしまったって。
別に私は裏と繋がりたいわけではない。
ただ恩を売って、父との対立に備えたいだけ。
どうせ知らない人間より、知った人間の方がまだ安全だから。
父を排除したあとに、ここの人たちに難癖付けられたら困るのよ。
「だから薬となるものを持ってきたのよ」
私はそう言いがら袋に入った実を取り出し、ヒューズに見せた。
彼はやや訝しそうな顔で、実をジッと見る。
「感染が進んで、痛みが出た者にはこれをすり潰したものをスプーンの半分くらいずつ毎日飲ませてあげて。まだ痣が出ただけの軽い者たちにはこれを煮出したお茶を配れば大丈夫よ」
「あんた、どうしてそこまでここに肩入れする?」
「もちろん下心があるからに決まっているでしょう」
きっぱりと言い切れば、ヒューズはゲラゲラと声を上げて笑い出した。
でもなんだかその姿に、私はホッと胸を撫でおろす。
「んで、望みは?」
「もうすぐ泥船を漕ぐ一番のヤツを引き下ろすの。その時、もしこちらに危害が及びそうだったら手を貸して欲しいだけよ」
私はあえてそれが誰かとは告げずに、自分の髪を掴み揺らして見せた。
「そんなことでいいのか?」
「私にとってはそれが一番大事だから」
「分かった。その時は協力してやるよ」
「ありがとう。もしこれ足りなかったら、送らせるから文を送って」
「まったくあんたもあの男と変わらないくらい肝が据わってるんだな」
「あら。私はあの上を行くつもりよ」
そう言いながら、私は席を立つ。
あの上を行く。ううん。もしかしたら、そう決めた時から上を行っているのかも。
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