白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
66 / 68

064 終わりの始まり

しおりを挟む
 これほどまでに順調な人生など一度だってあっただろうか。
 独占したバラの実のおかげで、バラ病は初期で抑え込むことに成功した。

 ミーアの治療が終わる頃、ヒューズからも連絡が来た。
 ギルド長や幹部たちの治療は完了したものの、貧民街にはやはり相当数の患者が出ていたらしい。

 私はブレイズに連絡を取り、至急バラ病の説明に向かった。
 幸い彼の口添えのおかげで、国からの支給という形で貧民街の隅々までバラの実を煮出したお茶が行き渡り、感染を拡大させることはなかった。

 前回はどれだけの人が死んでしまったのか、覚えていないほどだった。
 貧民街だけではなく、平民はお金のない貴族など、かなりの数が亡くなった気がする。

 全部を救いたいなんて、そんな大きなことは考えたことはなかったけど、結果として死者を出すことはなかった。

 この功績に対し、後日褒賞が出るらしい。
 だからこそ、期は熟したのだ。

 私はある意味、数週間ぶりとなる家族との食事の席に向かった。

「まったくなんて娘を嫁にもらったのかしら! 本当にハズレだわ。いくら莫大な持参金があったからって、引き取るべきではなかったのよ‼」
「まぁまぁ、そう言わないでくれ、母上」

 席に着いた途端、義母が大きな声で叫ぶ。
 最近、自分が大切にしていた役者……ヒューズがここへ顔を出さなくなったせいか、前にも増してヒステリックになったって、侍女たちが言っていたっけ。

 ある意味幾度も見た光景だから、今さら傷つくということはないんだけど。
 それでも不快であることには変わりはない。

 食事をわざと不味くすることに何の意味があるのか、私にはさっぱり理解出来ないわね。

「あなたが甘やかすからいけないのよ! ダミアン!」
「それはそうかもしれないが……」

 甘やかす、ねえ。
 この状況を見て、私が甘やかされているなんて誰一人も思わないと思うんだけど。

 それをそうかも、なんて言ってしまえる神経をむしろ疑うわ。

 義母は澄ました顔をしたままの私に余計に腹が立ったのか。自分の隣に座るダミアンの袖を掴んだ。
 そしてそのまま彼の顔を見上げ、私へのお小言をこれでもかというくらい大きな声でまくしたてる。

 正直、その言っている内容は昔から何も代わり映えはしない。
 私の愛想が悪い、顔も悪い、なぜ跡継ぎが生まれない、そして最後に結婚が間違っていたと締めくくる。

 よくこんな毎日同じコトを言い続けて飽きないものね。
 ある意味、そこだけは感心するわ。
 あー、でもこういうのをちまたで言う、ボケてきたっていうことなのかしら。

「……」

 私は二人の会話を聞くこともなく、一人サクサクと食事を進めていく。
 焼きたてのパンも、具沢山のスープも温かいうちが一番美味しいのに、待つのは御免だ。

「そうは言っても母上、アンリエッタは実際よくやってくれているよ?」
「忙しい夫のために仕事を手伝うなど、嫁ならば当たり前のことでしょう!」

 貴女の自慢の息子さん、私に丸投げして全く仕事してませんから、丸投げ以上ですけど?
 毎日毎日、遊び呆けておりますけど知ってます?

 ああ、その件でマリアンヌがまた怒っていたのよね。
 あんなに自分だけを一途に慕ってくれる人がいるのに、意味が分からないわ。

「嫁としての仕事というのは、そういうことではないでしょう‼」
「まぁ、そうかもしれないけど……それを言ったら可哀想だよ、母上」

 ダミアンは優しく母の腕を振りほどいたあと、茶色いくせ毛をうしろにかき分けながら私を鼻で笑った。
 そして彼はその髪と同じ色の瞳で、私を上から下まで憐れむような瞳で見てくる。

「アンリエッタが頑張ったところで、子どもが出来るかどうかはね。神様しか分からないことだし」
「何をのんきなことを言ってるの。努力が足りないのよ、この嫁の」

 だから努力云々うんぬんと言う前に、そういう行為がないのだから生まれるわけないじゃない。
 だいたいそんなキモイ話は食事中に辞めてよ。

 この人が私をもう、そういう対象として見ていないだけマシだけど。
 それでも気分のいい話ではないわ。

「なんでこんな貴族でもない娘と結婚などしたんだか! ああ、疫病神ったらありはしないわ!」
「……はぁ」

 私は聞き取れないぐらいに、小さくため息をついた。
 この後忙しくなるから、朝ご飯だけはしっかり食べておこうとしたのだけど、もう無理そうね。

 私の我慢の限界よ。
 私とダミアンの結婚は、自分たちが決めたことじゃない。

 一度目は厄介払いするために見捨て、二度目は私が死ぬまでこき使う気だったのかしらね。
 本当、残念。そんな未来は、もう来ないのよ。
 私が変えてしまったのだから。

「もう、かばってなどいただかなくて結構ですよ、ダミアン様?」
「は? とうとう君は気でも狂ったのかアンリエッタ」

 私はゆっくりと口を拭きながら、ただニコリと笑って見せた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし

さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。 だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。 魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。 変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。 二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...