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064 終わりの始まり
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これほどまでに順調な人生など一度だってあっただろうか。
独占したバラの実のおかげで、バラ病は初期で抑え込むことに成功した。
ミーアの治療が終わる頃、ヒューズからも連絡が来た。
ギルド長や幹部たちの治療は完了したものの、貧民街にはやはり相当数の患者が出ていたらしい。
私はブレイズに連絡を取り、至急バラ病の説明に向かった。
幸い彼の口添えのおかげで、国からの支給という形で貧民街の隅々までバラの実を煮出したお茶が行き渡り、感染を拡大させることはなかった。
前回はどれだけの人が死んでしまったのか、覚えていないほどだった。
貧民街だけではなく、平民はお金のない貴族など、かなりの数が亡くなった気がする。
全部を救いたいなんて、そんな大きなことは考えたことはなかったけど、結果として死者を出すことはなかった。
この功績に対し、後日褒賞が出るらしい。
だからこそ、期は熟したのだ。
私はある意味、数週間ぶりとなる家族との食事の席に向かった。
「まったくなんて娘を嫁にもらったのかしら! 本当にハズレだわ。いくら莫大な持参金があったからって、引き取るべきではなかったのよ‼」
「まぁまぁ、そう言わないでくれ、母上」
席に着いた途端、義母が大きな声で叫ぶ。
最近、自分が大切にしていた役者……ヒューズがここへ顔を出さなくなったせいか、前にも増してヒステリックになったって、侍女たちが言っていたっけ。
ある意味幾度も見た光景だから、今さら傷つくということはないんだけど。
それでも不快であることには変わりはない。
食事をわざと不味くすることに何の意味があるのか、私にはさっぱり理解出来ないわね。
「あなたが甘やかすからいけないのよ! ダミアン!」
「それはそうかもしれないが……」
甘やかす、ねえ。
この状況を見て、私が甘やかされているなんて誰一人も思わないと思うんだけど。
それをそうかも、なんて言ってしまえる神経をむしろ疑うわ。
義母は澄ました顔をしたままの私に余計に腹が立ったのか。自分の隣に座るダミアンの袖を掴んだ。
そしてそのまま彼の顔を見上げ、私へのお小言をこれでもかというくらい大きな声でまくしたてる。
正直、その言っている内容は昔から何も代わり映えはしない。
私の愛想が悪い、顔も悪い、なぜ跡継ぎが生まれない、そして最後に結婚が間違っていたと締めくくる。
よくこんな毎日同じコトを言い続けて飽きないものね。
ある意味、そこだけは感心するわ。
あー、でもこういうのを巷で言う、ボケてきたっていうことなのかしら。
「……」
私は二人の会話を聞くこともなく、一人サクサクと食事を進めていく。
焼きたてのパンも、具沢山のスープも温かいうちが一番美味しいのに、待つのは御免だ。
「そうは言っても母上、アンリエッタは実際よくやってくれているよ?」
「忙しい夫のために仕事を手伝うなど、嫁ならば当たり前のことでしょう!」
貴女の自慢の息子さん、私に丸投げして全く仕事してませんから、丸投げ以上ですけど?
毎日毎日、遊び呆けておりますけど知ってます?
ああ、その件でマリアンヌがまた怒っていたのよね。
あんなに自分だけを一途に慕ってくれる人がいるのに、意味が分からないわ。
「嫁としての仕事というのは、そういうことではないでしょう‼」
「まぁ、そうかもしれないけど……それを言ったら可哀想だよ、母上」
ダミアンは優しく母の腕を振りほどいたあと、茶色いくせ毛をうしろにかき分けながら私を鼻で笑った。
そして彼はその髪と同じ色の瞳で、私を上から下まで憐れむような瞳で見てくる。
「アンリエッタが頑張ったところで、子どもが出来るかどうかはね。神様しか分からないことだし」
「何をのんきなことを言ってるの。努力が足りないのよ、この嫁の」
だから努力云々と言う前に、そういう行為がないのだから生まれるわけないじゃない。
だいたいそんなキモイ話は食事中に辞めてよ。
この人が私をもう、そういう対象として見ていないだけマシだけど。
それでも気分のいい話ではないわ。
「なんでこんな貴族でもない娘と結婚などしたんだか! ああ、疫病神ったらありはしないわ!」
「……はぁ」
私は聞き取れないぐらいに、小さくため息をついた。
この後忙しくなるから、朝ご飯だけはしっかり食べておこうとしたのだけど、もう無理そうね。
私の我慢の限界よ。
私とダミアンの結婚は、自分たちが決めたことじゃない。
一度目は厄介払いするために見捨て、二度目は私が死ぬまでこき使う気だったのかしらね。
本当、残念。そんな未来は、もう来ないのよ。
私が変えてしまったのだから。
「もう、かばってなどいただかなくて結構ですよ、ダミアン様?」
「は? とうとう君は気でも狂ったのかアンリエッタ」
私はゆっくりと口を拭きながら、ただニコリと笑って見せた。
独占したバラの実のおかげで、バラ病は初期で抑え込むことに成功した。
ミーアの治療が終わる頃、ヒューズからも連絡が来た。
ギルド長や幹部たちの治療は完了したものの、貧民街にはやはり相当数の患者が出ていたらしい。
私はブレイズに連絡を取り、至急バラ病の説明に向かった。
幸い彼の口添えのおかげで、国からの支給という形で貧民街の隅々までバラの実を煮出したお茶が行き渡り、感染を拡大させることはなかった。
前回はどれだけの人が死んでしまったのか、覚えていないほどだった。
貧民街だけではなく、平民はお金のない貴族など、かなりの数が亡くなった気がする。
全部を救いたいなんて、そんな大きなことは考えたことはなかったけど、結果として死者を出すことはなかった。
この功績に対し、後日褒賞が出るらしい。
だからこそ、期は熟したのだ。
私はある意味、数週間ぶりとなる家族との食事の席に向かった。
「まったくなんて娘を嫁にもらったのかしら! 本当にハズレだわ。いくら莫大な持参金があったからって、引き取るべきではなかったのよ‼」
「まぁまぁ、そう言わないでくれ、母上」
席に着いた途端、義母が大きな声で叫ぶ。
最近、自分が大切にしていた役者……ヒューズがここへ顔を出さなくなったせいか、前にも増してヒステリックになったって、侍女たちが言っていたっけ。
ある意味幾度も見た光景だから、今さら傷つくということはないんだけど。
それでも不快であることには変わりはない。
食事をわざと不味くすることに何の意味があるのか、私にはさっぱり理解出来ないわね。
「あなたが甘やかすからいけないのよ! ダミアン!」
「それはそうかもしれないが……」
甘やかす、ねえ。
この状況を見て、私が甘やかされているなんて誰一人も思わないと思うんだけど。
それをそうかも、なんて言ってしまえる神経をむしろ疑うわ。
義母は澄ました顔をしたままの私に余計に腹が立ったのか。自分の隣に座るダミアンの袖を掴んだ。
そしてそのまま彼の顔を見上げ、私へのお小言をこれでもかというくらい大きな声でまくしたてる。
正直、その言っている内容は昔から何も代わり映えはしない。
私の愛想が悪い、顔も悪い、なぜ跡継ぎが生まれない、そして最後に結婚が間違っていたと締めくくる。
よくこんな毎日同じコトを言い続けて飽きないものね。
ある意味、そこだけは感心するわ。
あー、でもこういうのを巷で言う、ボケてきたっていうことなのかしら。
「……」
私は二人の会話を聞くこともなく、一人サクサクと食事を進めていく。
焼きたてのパンも、具沢山のスープも温かいうちが一番美味しいのに、待つのは御免だ。
「そうは言っても母上、アンリエッタは実際よくやってくれているよ?」
「忙しい夫のために仕事を手伝うなど、嫁ならば当たり前のことでしょう!」
貴女の自慢の息子さん、私に丸投げして全く仕事してませんから、丸投げ以上ですけど?
毎日毎日、遊び呆けておりますけど知ってます?
ああ、その件でマリアンヌがまた怒っていたのよね。
あんなに自分だけを一途に慕ってくれる人がいるのに、意味が分からないわ。
「嫁としての仕事というのは、そういうことではないでしょう‼」
「まぁ、そうかもしれないけど……それを言ったら可哀想だよ、母上」
ダミアンは優しく母の腕を振りほどいたあと、茶色いくせ毛をうしろにかき分けながら私を鼻で笑った。
そして彼はその髪と同じ色の瞳で、私を上から下まで憐れむような瞳で見てくる。
「アンリエッタが頑張ったところで、子どもが出来るかどうかはね。神様しか分からないことだし」
「何をのんきなことを言ってるの。努力が足りないのよ、この嫁の」
だから努力云々と言う前に、そういう行為がないのだから生まれるわけないじゃない。
だいたいそんなキモイ話は食事中に辞めてよ。
この人が私をもう、そういう対象として見ていないだけマシだけど。
それでも気分のいい話ではないわ。
「なんでこんな貴族でもない娘と結婚などしたんだか! ああ、疫病神ったらありはしないわ!」
「……はぁ」
私は聞き取れないぐらいに、小さくため息をついた。
この後忙しくなるから、朝ご飯だけはしっかり食べておこうとしたのだけど、もう無理そうね。
私の我慢の限界よ。
私とダミアンの結婚は、自分たちが決めたことじゃない。
一度目は厄介払いするために見捨て、二度目は私が死ぬまでこき使う気だったのかしらね。
本当、残念。そんな未来は、もう来ないのよ。
私が変えてしまったのだから。
「もう、かばってなどいただかなくて結構ですよ、ダミアン様?」
「は? とうとう君は気でも狂ったのかアンリエッタ」
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